みずほFGが大幅な組織変更 (顧客別カンパニー制を採用)


日経新聞の平成28年2月27日付記事です。みずほFGが、4月から組織を再編して、社内カンパニー制を導入するそうです。みずほ自身は公にしていませんので、日経記者がみずほ幹部への取材で情報を入手したのでしょう。

現在は、グループ横断で10ユニット制ですが、それをリテール、大企業、海外企業、市場、資産運用の5つの社内カンパニーに再編し、その他に投資銀行と調査・コンサルティングの二つのユニット体制とするそうです。各カンパニーは、戦略立案や人材配置などの権限を持って、銀行、信託、証券のサービスを一体的に展開することで収益目標を追求するとします。この再編の理由は、顧客のニーズが多様化して、銀行、証券、信託などの縦割りでは、対応できなくなったということです。グループ戦略であるワンみずほをより、具体化させるということです。金融庁が準備している金融持株会社の業務規制緩和も想定しているのでしょう。

こうした発表をそのままに受けて、凄いなと思う業界人は少ないのではないでしょうか?今でもグループ横断の組織連携を狙った組織体制になっている筈です。少なくとも前回の組織変更では、そう主張していました。その頃に比べて、顧客ニーズが多様化したとか、マイナス金利だとか言われても、腹に落ちる話ではありません。むしろ、カンパニー制により収益責任を明確化するといった方が、判り易い。

しかし、カンパニー本社が業態別子会社の懐に手を入れて人事権を持ったとしても、顧客ニーズに合わせた子会社横断のビジネス展開ができるだろうか。証券、信託、銀行は全くカルチャが違います。商習慣も違います。カンパニーを仕切る幹部達は、それぞれの業態別子会社の幹部による集団指導体制となるでしょう。人事もその人達の繋がりで動かされるでしょう。ということは、持株の下にカンパニーがあり、その下にクロスで業態別子会社がある。つまり、権限が2層から3層となり、各層が出身業態別子会社と旧3行とになる。想像を絶する複雑な組織とならないか?稟議書に押されるハンコの数は、一体幾つになるのか?

ネガティブな感想を並べました。しかし、組織を変えるのは悪いことではありません。筆者が勤務していた外資系企業は毎年のように大幅な組織再編をしました。時には、半年で大きく修正するケースもありました。その時に、優秀で実績をあげた社員は抜擢され、変化に対応できない社員は変化不要の部門に移りました。つまり社員の新陳代謝が進んだということです。

1990年頃以降は、地域別、業種別、ビジネスライン別のマトリクス組織でしたが、今はソリューション別を柱としているようです。筆者が在席した頃は、地域と業種が強く、顧客に対してはアカウント・レップという営業が、権限と責任を持って、グループ各部門のパワーをアレンジする方法を取ったのです。このアカウント・レップという制度は、数十年も続いた中核組織でして、仮に社長とレップの意見が異なった場合でも、レップの意見が採用されることが大半でした。理由は単純で、顧客のことを一番よく知っているのは、営業だからという建前でした。

マトリクス組織は、責任の所在が曖昧になるという致命的欠陥を持ちますが、そのリスクをアカウント・レップが吸収していたことは確かです。最近は、ソリューション中心のマトリクス方式にする企業が多い。変化が速くて大きい時代ですから、顧客も自分のニーズを整理できていない。むしろ変化を引き起こすソリューションを中核として顧客をリードする方が、実効性が高いと思われるようになりました。その結果は、ソリューション・アウト型のビジネスです。ブームに乗ったり、他にないビジネスモデルで風が吹いている間は良いですが。やがて顧客の個別ニーズに対応すべくカストマイズが始まり、規模のメリットが失われていきます。そして、成長も収益も限界点が見え出します。そこで、また、大きく組織を変える。つまり、組織は市場と自社の立ち位置で、行ったり来たりするのが当たり前です。それができない企業は、市場から取り残される。

そう見ると、みずほFGは大幅な組織再編を厭わない。良いことだと思います。問題は頭の良い社員でしょう。新組織に合わせた物言いをするものの、手足は元のまま。こうした人達を変えるのは、組織目標と個人目標を連携させるしかありません。その目標が収益だとすれば、収入とコストを明らかにして、評価基準を設けることになります。

みずほカンパニーは、そうした施策も権限移譲されるようです。すると各カンパニーの評価制度は徐々に独自性を持つようになり、組織文化となっていきます。それがFG全体にとって良いことか悪いことかは、収益次第で判断されます。ただ言えることは、これからの金融業は、単純に金融サービスを提供するだけでなく、顧客にビジネス・ソリューションを提供しなくてはなりません。それなくして、顧客指向の組織だといっても、何も変わらないどころか、変化による混乱があるだけです。

企業組織は、目標、戦略、組織構造、権限や評価基準、業務処理規定とシステム、社員のスキル、組織文化などのビジネス・エンティティが複合的に作用して機能します。戦略や組織や規定などを定めたり変えたりするのは簡単です。戦略に沿った適切な行動を促すのは、評価基準やスキルです。これらをダイナミックに変更するのは至難ですが、金融庁はここに手を付けたがっているようです。

さて、各カンパニーが展開するビジネス・ソリューションはITソリューションも包含する必要がありますが、この組織再編はITにどのように影響するのでしょう?各カンパニーは必要な権限と責任を持つそうですが、ITはどうなのでしょう?傘下の金融機関に提供している既存のITとカンパニーが戦略とするビジネス・ソリューションを支えるITと今よりも複層化しますが、IT部門やIT関連会社はコストを抑えながら、スピーディに対応できるでしょうか?今までのような時間軸でやっていると、IT開発が終わる頃には、肝心の組織が変っているといったことになります。

同様の問題はみずほFGだけではありません。単独で銀行業等を営む多くの金融機関も同じ問題に直面します。業務毎のITソーシング戦略が必要なのですが、その前提であるビジネス・ソリューションを考えて実行する為には、顧客のビジネスに関する広い知識と深い洞察が必要となります。2年、3年でローテーションする金融機関の行職員が、顧客ビジネスに関するソリューションを考えださないとなりません。筆者は、業種別等の営業体制が避けられないと思っているのですが、そうする金融機関はまだありません。

                       (平成28年2月29日 島田 直貴)