フィンテック・ファンド (MUFGが海外ベンチャー向け)

日経新聞の平成28年2月19日付記事です。1面ですが小さな記事です。(2月1日のMUFGコインのニュースが朝日新聞だったのが影響して小さな扱いになったのかなどと思ってしまいます。) BTMUが異業種大手十数社を集めて、海外ベンチャーを誘致するファンドを近く設立するそうです。米国のソーゾー・ベンチャーズがファンドを組成し、シリコンバレーなどの有望なベンチャーで日本進出を検討している企業に投資します。ファンド出資者は分野毎に大手から1社を選んで戦略的パートナーとして、業務提携等に発展させる狙いがあるそうです。

MUFG、BTMUともにこれに関連した発表は行なっていません。この記事からだけ見ても、重要なポイントがいくつかあります。

1.海外ベンチャーを日本に呼び込もうとすること。

 フィンテックを支えるベンチャーですが、日本には50数社あるとされますが、海外に比べると余りに少ない。彼等は、互いに情報交換しつつ切磋琢磨しているのですが、日本の規模至上主義に邪魔されて、資金繰りや情報収集等に難があります。ですから、海外のアイディアをただ日本に持ち込む例や、資金難や関連技術入手難もあって、ソリューション開発が思うにまかせないのが実情です。

筆者の知り合いのベンチャーでも、金融機関やWebで知った技術保有企業等との面談に体力を消耗している人が多い。ベンチャーにとって、余りに環境が貧困です。そこで、シリコンバレーのようなベンチャー集積地で実績を積み上げたり、注目を集めているベンチャーを日本国内につれてこようというのでしょう。こちらから、シリコンバレー等にリエゾンを派遣するのとは逆転の発想ですが、まさにアイディアだと思います。

2.出資者に異業種から大手の参加

 カード事業から三井住友カードが参加決定、保険から損保ジャパンが検討中ということです。ヤマトも参加を決定しているとかで、ヤマトとしては米ITベンチャーとの関係構築が目的だそうです。他に不動会社、広告会社などを勧誘するそうです。海外ベンチャーに対して事業支援体制が範囲、規模ともにリッチだと示すことになります。

記事では、商流・物流と連動した決済やビッグデータの活用などが加速する可能性があると書いてありますが、これは参加予定企業の顔ぶれから推測したのでしょう。どの分野の企業を募集するかによって、BTMUが海外フィンテック・ベンチャーを通じて、開発したいサービス分野が見えてくる筈です。

10年ほど前、銀行代理店戦略を検討したことがあります。日本にある業種を全て洗い出して、仮に銀行と提携するとして、どのような客層で、どのような機能の強化拡充、或いは、代替が可能になるかを調べたのです。ホームセキュリティや宅配業者などは特に綿密に検討しました。介護施設・病院・薬局なども対象でした。各業種の代表的企業を3社選んでSWOT比較もしました。

当時は、今ほど技術が普及していませんから、投資効率を考えると法人と富裕高齢者が対象セグメントとして優先度が高くなります。貿易関連や問屋業などに大きなチャンスのあることが明らかでした。例えば、富裕高齢者には、現金宅配、ワンストップ・ヘルスケア、コンシェルジュなどです。結局は、銀行が手出しする分野ではないと、殆どが話のネタで終わったのですが。今なら、ICTで簡単にサービス開発が可能ですし、銀行が参入できる制度改正も時間の問題となりました。

銀行にメリットのあるサービスが見つかったとしても、他業種の企業にとってのメリットも考えなくてはなりません。銀行のブランドや営業力、資金力を当てにする企業は見当たりませんでした。これは意外でした。まして少しでも規制を受けている企業とすれば、金融庁の規制が重なってくることに極めて強い抵抗がありました。今では、許可さえ取れれば、サービスはICTに載せることで、事業範囲を容易に広げることができます。

3.三菱グループを越えた提携

三井住友カードは住友グループ(三井住友FG親密)、損保ジャパンは芙蓉グループ(みずほFG親密)で、三菱グループを越えたオールジャパン体制を目指すように見えます。ミソは1業種1社です。三井住友やみずほのグループからすれば、どうしてウチの仲間を取り込むのだと反発心が湧くでしょう。逆に、DCカードや東京海上からすれば、俺たちでは役不足だというのかとの不満が出るかもしれません。

そんなことは百も承知のBTMUが他グループの有力企業にも声掛けするところに、銀行文化が変ろうとしている気配を感じます。面白い時代になったものです。これも金融庁がFinTechを推進する効果だということでしょう。ちなみに、ヤマトはみずほ親密です。

企業グループの中で最も大きく、結束の固いとされる三菱グループの中核企業であるBTMUが、グループの枠を越えた仕組みを作ろうとしている。かつては興銀が主導したようなことを、BTMUが行ないます。もっとも、都市銀行の再編等でかつての企業グループ関係は複雑に絡み合っていますので、余り気にする必要なないのかもしれません。

対象とする海外ベンチャーは、将来、イギリスや北欧、中国にも広がっていくと更に面白い。すると、日本のベンチャーも活気づいてくることでしょう。その拠点を丸の内の銀行クラブ・ビルにするのか、日本橋界隈にするのか。今、大手町から外資系の金融機関が大変な勢いで引き上げています。行き先は、シンガポール、香港、上海、シドニーなどです。大量の日本人元社員が東京で転職先を探しています。彼らの中からも、日本に上陸する海外FinTechベンチャーに合流する人が出てくるでしょう。政府が作りたがっている日本橋・兜町地域の金融特区は全く目途が立ちませんが、いつのまにか、FinTechベンチャーの国際的な拠点が出来て、日本から逆発信するようになったら、何と嬉しいことでしょう。

                            (平成28年2月22日 島田直貴)