メインバンク選定理由 (金融庁が金融仲介検討会議の議事要旨を公表)

金融経済新聞の平成28年1月25日付記事です。金融庁が「金融仲介の改善に向けた検討会議」第1回の議事要旨を公表し、それを紹介した記事です。地域金融機関では、貸出額増加を狙った金利競争が激化し、金融機関で収益性が損なわれているとされますが、金融庁が中堅・中小企業対象に調べたところ、メインバンク選定理由として、自社の事業に対する理解が融資金利や取引先支援などの融資スタンスよりも多かった。つまり、金利競争は、地域金融機関の一人相撲であり、取引先の望む銀行サービスとはズレているということです。

かつて、当局はリレバンとスコアリング融資を強く奨めました。筆者は地域金融機関にとってリレバン強化は正しいし、本来の取引姿勢だと筆者も思いますが、かつてのリレバン運動は、いかにも数字のお遊びにしか見えず、害あって利なしと非難しました。筆者が会社務めをしていた時に、TQCのブームがあり、勤務先でもデミング賞を目指した全社的運動が展開されました。今でこそ言えますが、筆者のチームは形式的に運動に参加するだけで、改善運動の成果も、その先5年は改善が続けられるような僅かな成果として、それを逆算して報告時点の進捗とそれに合わせた改善項目を並べたものです。良すぎる数字を出すと、大発表会で報告させられるし、その準備時間も勿体ない、まして、翌年はもっと頑張らなくてはいけないからです。チームメンバーの負担は最小限として、筆者1人で報告書を作ったのです。そんな話を他社に努める人に話すと、皆さん同じで、揃ってサラリーマンをやっておった次第です。

私たちのTQCは顧客を巻き添えにしないで済みましたが、リレバンとなると顧客名をださなくてはならず、下手をすると顧客に迷惑がかかります。そこで、ビジネスマッチングと称して、見本市やフェアを開催して商談成立件数を作る。他行と連携して商材紹介件数を融通しあうなんてことが、リレバン運動でもありました。金融庁は、こうした形式的な改善運動は無駄だと考え、もっと実質的な改善策を打ち出したいと出てきたのが事業性融資です。取引先の実状を正確に把握し、事業改善を提案しながら、その事業に対して融資を行なう。物的担保や経営者の個人保証に頼らないという意味でも事業性融資を進めて下さいというのが金融庁の姿勢です。

地域金融機関からすれば、そんなことは昔からやっている。地域密着とは地縁人縁であり、何を今更というのが正直なところです。ですから、金融庁が、金融機関に対して、取引先の実状を把握するように日常的に接触していますか、取引先の業種に関する情報提供をやっていますか・・・などと質問すると、どれにも○がついて帰ってくる。アンケート調査しても実態は判らず、改善策の作りようもない。そこで、金融機関の取引先に直に聞いてみようとなり、全国の中小企業1000社にアンケート調査と実際に地方財務局が訪問してヒアリングをやっています。その時点で分析できた400社の調査結果に関して、12月に全国財務局長による担当地域の分析結果報告と議論をしたのが、この議事要旨です。2月末には第2回検討会議を開催し、その後も四半期毎に財務局長を集めて開催する予定だそうです。

先日、地域金融機関のビジネスモデル変革に熱心な遠藤監督局長の講演を聞きました。この調査の起案者であり推進者です。地方創生と一億総活躍社会という国の目標を実現する為にも地域の金融機関はいかにあるべきか。人口減少、製造拠点の海外流出とサービス産業の生産性停滞を受けて地方経済が縮小するなど、金融機関の経営環境悪化が確実視される中、新たなビジネスモデルはいかにあるべきか。しかし、地域金融機関は企業ニーズに十分対応できていない、金利競争による融資の量的拡大ばかりを目指している、地域密着型金融がビジネスモデルとして定着していないという問題認識もある。制度的に改善策を探るのネタ集めが、この1000社調査であり、金融庁だけでなく、地域経済と金融行政を管轄する財務局長を動員する理由だそうです。

遠藤局長の目線は次のステップに向いているようで、それは金融機関の収益管理態勢です。ビジネスモデルを再検討するには、市場分野や商品・サービス別等の収益性や成長性を客観的に掴む必要がある。一方で現場を実効性をもって活動させる為には、評価制度の見直しが欠かせない。それにも収益管理が不可欠である。ところが、今の収益管理は、ALM資産をセグメント別に配布するだけなので、実態を表してはいない。今後の収益管理のあるべき姿は何かと既に調査研究を開始したそうです。今年の後半あたりから、金融庁は事業性融資、ビジネスモデル見直しに加えて、収益管理の適正化を強く求めることでしょう。

これは、金融機関にとって頭の痛い問題となります。単位当りの収入とコストをかなり正確に把握する必要があります。従来の標準単価では通らないでしょう。ABC(Activity based Costing)をまともにやったら、とんでもない費用と労力がかかってしまう。それも一回では済まない。PDCAを廻しながら、毎年のようにバージョンアップする必要があります。情報系システムだけでなく、勘定系システムにも手を加える必要が出るかもしれない。本音としては、やりたくないでしょう。

ただ、全ての地域金融機関で改善、改革の足が遅いわけではありません。取引先に感謝されるケースも報告されていますし、すでに営業部門の評価制度改革に着手した地銀もあります。審査部を廃止して営業店による事業性融資促進を図る地銀もあります。それでも遠藤局長の懸念は減らないそうです。どこで、何で食っていくのか、それは、地域経済に貢献できる方法なのかが見えないからでしょう。

小手先ではなく、ビジネスモデルを変えるようなITの活用、それを推し進めたくて金融庁はFinTechを後押ししています。決して、ベンチャーに資本参加してマネーゲームしたり、スマホにゲーム的なアプリを載せるのがFinTechの狙いではありません。金融機関経営の立場では、新たなビジネスモデルが見えないのであれば、それを見つけて、即、実行できるように、必要なデータを集め、組織風土を変えておく。その為の具体的なストーリーとアクションが必要です。白地に絵を書くのではありませんから、コンサル風に議論や資料を作るだけでは何にもなりません。Try & Errorを繰り返しながら、新たな道を捜し続けることが重要と思います。経営者にとっては、まさにやりがいのあるテイスティな仕事です。IT企業は、そんな金融機関をどのようにサポートするのか。製造業の工程管理や部品在庫管理の仕組みなどが、金融でも使えたらと思います。

                         ( 平成28年1月28日 島田 直貴 )