中国からのインバウンド客とアリペイ (セブンとローソンが導入)

平成28年1月21日付の日経新聞記事です。ローソンとセブン・イレブンがアリババのアリペイを導入するそうです。両社ともに1、2月に一部店舗で試験導入し、その後ほぼ全店に展開するようです。アリペイは4億人の利用者がおり、この人達が日本で買物する際には、スマホに表示される支払承認の認証用バーコードをレジのタブレットで読ませれば支払が完了します。いつまで爆買いが続くか判りませんが、コンビニやドラッグストアでの中国観光客グループによる大量買いは、東京のオフィス街でもしばしば見られる光景でして、彼らが去った後に、特定の商品棚がカラになります。昨年11月11日の独身の日には、1日で1兆7600億円を売りあげたことが世界中のニュースにもなったアリババですから、日本企業がその顧客に目を向けるのは、商売として当然のことではあります。

そのアリババですが、中国最大のECプラットフォームを活かして金融ビジネスにも広く進出しています。2014年10月に金融事業を統括するアリババ金融サービス・グループを設立して、その傘下に9社の金融事業会社を従えています。主たる対象市場は、個人と中小零細企業で、アリペイは小口決済を提供する最古参(2012年設立)の金融事業会社です。他に、携帯で資産管理を提供する会社、信用評価サービス、バーチャル・クレジット会社、マネーマーケットファンド会社(世界第2位のMMF)、投資理財会社(中小企業オーナー向けの資金提供)、個人事業主向け少額ローン会社、インターネット銀行、金融サービスに特化したクラウドサービス会社などがあるそうです。

どれも各業界トップクラスの規模で、自社に不足する機能は専門企業120社との提携で補完しています。といっても、全てネット経由ですので、対顧客インタフェースはあくまでもアリババです。まさに、カスタマーインタフェースを抑えた者が勝ちを具現化しています。その上で、金融サービス会社のラインナップを広げてきました。芝麻信用という信用評価会社の存在は知りませんでした。ビッグデータ解析などにより個人の信用状況を客観的に評価採点するのだそうです。旨い所を抑えたものだと感心します。

中国には個人信用情報機関が許されておらず、金融機関などは中央銀行に相当する人民銀行に個人向け与信情報を報告することが義務付けられてはいますが、人民銀行はそれを個人信用情報としては扱っていないそうです。日本の信用情報機関のような機能が必要だと思う人は多く、筆者の知人でも昔からその事業化を準備していますが、制度化が進みません。一昨年も、北京大学の教授陣が中心となって信用情報機関設立の動きがありましたが、その後、何の動きも聞いていません。

アリババは独身の日の爆買いやソフトバンク孫社長との付き合いで、わが国でも有名ですが、B2Bサービスに熱心なことは余り知られていません。零細・個人事業主向けの少額融資は昨年7月時点で170万社、4500億元((約8兆円)だそうです。金利上限は実質40%前後だそうですから、何とも美味しいビジネスです。それもアリババやアリペイなどの利用実績から与信判断するのですから、貸し倒れ率も相当に低いでしょう。グループ企業のネット銀行である網商銀行を通じてキャッシュマネジメントやサプライチェーン・ファイナンス管理も行なっているとのことです。まさに丸抱えです。

近年、アリババは保険、証券にも進出しました。衆安在線というネット専業保険会社があります。設立4年で3億4千万顧客に対し29億件の契約を結んでいます。国土が巨大で、デリバリーチャネルが余りに不便な為にインターネット・チャネルの効果が大きいとはいえ、その規模とスピードには驚くばかりです。

20年ほど前に、中国本土のコンサル案件に携わったことがあります。数万の支店に行員が百万人(内30万人は離島や山奥等の過疎地域での訪問営業)、データセンター200か所の合理化計画立案なのですが、行員を1人たりとも削減しないという条件つきでした。余りに資本主義先進国と異なることに、ただただ唖然とするばかりでした。窓口の香港コンサル連中も戸惑うばかりでしたが。たかが20年で随分と変ったものです。顧みるに、その間、日本では何が変ったのか? とついつい情けなくなります。アリババ金融集団の社是は、「信用を富に変える。」だそうですが、信用とは何か、どこで入手できるのか、をとことん追求しているように見えます。日本の金融機関は顧客満足や地域創生を掲げますが、その具体的内容となるとバラバラな個別施策です。

アリババ金融集団を褒める見解ばかり並べましたが、わが国を含めて多くの先進国は、金融機関を免許事業として他業による進出から保護しつつ、金融機関には他業を禁止しています。それは歴史的な経験からくる知恵であり、中国でもインターネットを活用した金融サービスに関して、その成長を促進しながらも、一定の秩序は必要との動きにあります。今年は、法制度面での改革が予定されているそうで、果たしてアリババのように、商流での顧客接点を確保し、そこで得る信用情報を合わせて金融サービスの販売を劇的なスピードと規模で行なうビジネスモデルが継続できるのか注目しておく必要があります。

翻って、わが国は現在、FinTechブームです。しかし、小口決済の電子化や家計簿程度の話でして、アリババの描く壮大なビジネスモデルとは、余りに程遠い。さりとて、現在の伝統的銀行を中心とした金融秩序を破壊する理由も全くない。中小金融機関から、FinTechのような動きに自分達はとても対応できない、どうしたら良いかと聞かれることがあります。IT化を放棄したらいかがか、徹底して人的展開で顧客を囲い込む。IT対応はブロックチェーンを使って記帳、台帳管理しかやらないと割り切る方法もありますよ。と答えます。質問した人は、ふざけた回答だとしか思わないようです。どんな金融サービス会社になりたいのか、なれるのか。それに、免許やITは必要なのか。まさに事業目的の整理がスタートラインになると思います。

                             (平成28年1月21日 島田 直貴)