FinTechによるオープンイノベーション (IDCが課題を指摘)


日経ITPro平成28年1月7日付記事です。IDCが記者発表の席で、大手金融機関とFinTech企業の協業における課題を指摘したそうです。@法制度の制約:制度改正の動きがあるものの、仮想通貨の扱いや外部委託先管理などに未整備な問題が残っている。A企業文化の違い:セキュリティの考え方やスピード感の差が問題となる。B金融機関におけるFinTech企業との提携の狙いが明確でないの三つです。

そして、提言を二つしています。@金融機関は全社的なデジタル戦略を立案すべき。AITベンダーやコンサルタントは、中長期的視点で金融機関とFinTech企業の橋渡しをすべきであると。課題も提言も至極尤もでその通りですが、いずれも解決が難しい。筆者は、金融機関、FinTechベンチャー双方に、余り大上段に振りかぶった課題を指摘するのは生産的でない。折角のブームなのだから、実施したいIT計画にFinTechという包装紙をかぶせて、役員会を通してしまった方が良い。本当の狙いはCEOとCIOが理解していれば良い。組織文化は、時間をかけて少しずつ変えるしかないと提言します。

どうして、こんな乱暴なことを言うのか。正論を叫んでも前に進まないからです。FinTechをテーマとした講演では、いつも十数件の課題を羅列します。どれも、とても重い課題です。例えば、ベンチャーが数日とか数週間でプロトタイプを作ってくれます。しかし、なかなか行内の承認が得られません。セキュリティやコンプライアンスを理由とした多種多様な疑問や要望が出てきます。それを何とか通り抜けても、次は、徹底した品質チェックがあります。それも何とかできたとしましょう。次には、勘定系など既存システムとの連携が必要となることが多い。その時に、既存ベンダーからは、FinTechアプリの開発に要した費用の数十倍以上を要求される。つまり本番稼動には、今までと差のない時間と費用が発生し、一番おいしい所は、メインベンダーが持っていく。気がつくと、基幹系システムに小さなフロント・サービスがくっついただけとなる。

金融庁は何故FinTechを後押しするのか?金融サービス高度化を目的として、オープンイノベーションを進めたいのだが、FinTechがその駆動力になると考えているようです。何故、オープンイノベーションかといえば、伝統的な金融機関の仕事の仕方や価値観では、市場の変化についていけなくなるからでしょう。旧式な組織文化の象徴でもある今のITにFinTechを上乗せしても、何も変らない。協業するFinTechベンチャーも干上がってしまう。資金的に困窮するし、何よりも大切な技術者が逃げてしまう。

こうした事態を避ける為には、ITに係わるビークルを全て二本立てにするしかありません。まずは、システム・プラットフォームを別にする。主管部門も別建てとする。そして、ベンダーも別にするのです。金融業界で年商3、4千億円を売りあげる大手ベンダーにとって、年間1兆2千億円前後の銀行IT市場は、成長性よりも安定性が重要です。売上の8割以上が保守運用であり、残り2割の多くは制度案件です。仮に、5%費用削減されて150億円売上が減るとして、それをFinTechでカバーすることは全く不可能です。FinTech1件当たり投資額を2千万円とすれば、年に750件をこなさなくてはなりません。大手ベンダーの体質とコストでは全く不可能です。ですから、今の状態を変えたくない。筆者は講演の中で、大手ベンダーはFinTechに手出ししないでくれと頼みます。コンサルも同じです。コンサルの単価やスピードは、FinTechとは全く合致しません。

もう一つ、避けて通れない課題は、銀行の現場部門との協業です。特に支店を含む営業部門が難関となります。FinTechは顧客サービスというフロント業務を中心に展開されつつあります。例えば、便利で低料金の新決済サービスを開発すれば、営業部門としては一時的ではあれ、収入が減ります。評価制度を合わせてくれれば良いのですが、銀行の評価制度は変えるのが難しい。ゲームの途中でルールを変えるなとなります。ゲームが変るのに、プレイヤーが同じならゲームも同じという思い込みがあるようです。途端に営業部門が新サービスへの抵抗勢力となってしまう。頭取が怒鳴っても無駄で、営業の皆さんには生活の糧の問題ですから、インセンティブを変えるしかありません。

一方、FinTechで新しいサービスを提供しても、当初は仕事が増えるだけで、コストは減らない。窓口より低コストだといっても、窓口を閉鎖しない限り、新サービスはコストの追加です。単価比較の問題ではない。よって、FinTechは収益に結びつけないと意味がない。どこに、新たな収益源が期待できるのか、その実現までにどの位の時間とコストをかけられるのかを計算しないと、IDCがいうFinTechの目指すところは何かという問いに答えは出てきません。

経営陣の理解がなくては駄目だとか、現場の全面的な協力態勢が必要だとか、全社的なデジタル戦略が前提だと言われても、そんなことに時間と労力とコストをかけること自体がFinTechの理念と離れてしまいそうです。走りながら考える、Hit & Away、打率1割でヨシ、特定の客層だけへのサービス、嫌な客は使うな、ベータ版サービス等々、FinTech用の新しいサービス・メジャメントが必要です。それには、本当の外部の人間が役立ちそうです。アイディアソンで集めたらどうでしょう?メジャメントとインセンティブは表裏であり、それが組織文化を変えるでしょう。

                          (平成28年1月12日 島田 直貴)