銀行ITのアウトソーシング(UFJが日立と合弁)

日経新聞が7月24日号でスクープ記事を載せました。UFJが直系のシステム関連会社「三和システム開発(SSD)」に日立から49%の出資を受けて、そこに基幹システムの運営をアウトソーシングするというものです。
同紙は、更に、翌日の記事でUFJの基幹系ソフトを500億円程度で日立が購入するとも書きました。

当社には、マスコミやIT業界、銀行業界の方々から記事の真偽やUFJの意図を問い合わせる質問が何件もきました。昨年の7月11日にUFJが三和系、東海系のシステム関連会社を統合してユーフイットという3000人規模の新会社発足させる計画を発表しました。その時に、私が当コラムで、規模を競うシステム関連会社戦略に疑問を差し挟むコメントを書いたのを覚えておられたようです。

25日の夕方、UFJ銀行(ホールデイングではありません)が経団連で日立と共同の記者会見を行ないました。日経記事の正しさを認めて、資料を配布しました。翌日、各紙は大きく掲載したのですが、何故か朝日だけは完全に無視しました。日経に先に記事を提供したことに、よほど頭にきたのでしょう。この記者会見では、基幹システムのアウトソーシングを10年間2500億円で日立に委託する。その受け皿として、SSDに日立の49%出資を受ける。(資本金は5000万円なので、日立としては日経全面広告一回程度の支出です。)社名はUFJ日立システムズと改称。旧三和銀行のシステム要員も一部、新会社に異動する。UFJのソフト資産を500億円程度で日立キャピタルが購入して、地銀向けビジネス等に活用する。というのが発表の骨子です。

記者達の質問は大きく二点です。
何故、計画とおりにSSDをユーフイットに統合せずに、日立なのか?
アウトソーシングのメリットはUFJにも日立にもあるのか?
発表側からは明確な納得性のある回答はなかったようです。そこで記者たちは、日立に儲かるのですか?UFJに、そもそもどの部門が発案した計画なのですか?といった間接的な質問をしたようです。しかしながら、出席記者全員が何か釈然としないまま会見は終了したとのことです。

私は、もともとの持論ですから、ユーフイットにSSDを合流させないことは賛成です。SSDはもともと、優秀な技術者集団で業務知識も豊富です。一人当たりコストは高いですが、それを補うだけの厳しい仕事振りが高く評価されています。統合することで、この強みを失うことは避けるべきでしょう。日立の弱い面を補完できれば良い結果がでるかもしれません。仮に、ダメな場合はもとの体制に戻せばすむことですし。

アウトソーシングについては、疑問が多い判断です。システム統合の際にトラブルが発生した教訓を受けて、ITサポート力を強化するというのですが、全く説得力のない説明です。今後、大きなトラブルが発生した時に、金融庁に謝りに行くのは新会社のトップにするというのであれば動機はわかりますが。まさかというところでしょう。
基幹系はもはや戦略的システムでないからというのであれば、大きな謝りでしょう。古いソフト資産を売却して資金繰りを楽にするというわけでもないようです。会見では、さしたる金額ではないと言いきったそうですから。もっとも500億円といっても、それは希望金額であって、これから法的な裏付けのためのデューデリジェンスが行われるでしょう。その結果としての金額に興味ありますが、発表されるかどうか。
ITベンダーは、これからは注意しなくてはなりません。顧客の銀行にハードやサービスを売っても、しばらくすると買い戻せなんて言い出しかねないからです。
システム要員を転籍させるというリストラの一貫とも違うようです。
大和銀行がIBMと合弁を設立してアウトソーシングしたモデルに近いのですが、どうも大和の時とは条件が違いすぎます。

日立にとってメリットはあるのでしょうか?記者達の中では、これだけUFJに寄ってしまえば他の大手行が日立から離れるのではとの声がありますが。私はそうとは考えません。むしろ、アウトソーシングが銀行にもベンダーにも利益をもたらさないことを心配します。日立のサービス事業の営業利益率は5%程度です。間接費を引けば大幅な赤字事業です。そこに、これだけ大きな案件を抱えて損失を出せば、屋台骨を揺るがす可能性があると思います。サービス・ビジネスで規模が大きくなるほど、大きな案件を扱わざるをえないという恐竜化現象がおきます。その時に、一つの案件の失敗が与える影響を考慮したのかと心配しています。日立に限ったことではないのですが。数社の寡占下にある金融IT市場の脆弱性がここにあります。大手ITベンダーは、構造改革なしに事業の継続は難しくなりつつあります。

UFJソフト資産を使って、地域金融機関向けビジネスを展開したいとの考えもあるようです。UFJの勘定系オンラインは都銀としては、効率的で進歩的であります。しかし、銀行オンラインにおいて大は小を兼ねないことを知っておく必要があります。中小銀行用に改良するくらいなら、新規に作った方が早いことは間違いありません。周辺システムでは、更に都銀と地域金融機関の違いが出てきます。

今回の計画について基本路線は賛成なのですが、何か腑に落ちないものがあります。それは当事者のSSD社員達にもあるようです。日立に売り渡されたのいう気持ちが強いようです。本人たちには何も知らされておらず、新聞で知ったくらいですから。ユーフイットの社員たちも、「自分達は基幹ではなく、周辺担当なのか」という気持ちがあるようです。
UFJ経営者達は、優秀な若手技術者の流出に注意すべきでしょう。二、三ヶ月で潮の引くように人材が消えていきます。ヘッドハンテイング会社、ソフト会社が好機とばかりに動き出すでしょう。システム開発は本来知識集約産業です。レーバービジネスではありません。優秀な人材そのものが生産手段です。それを単なるコストと見なしたり、人月単価で考えるところに銀行業界の限界があります。どうも今回の計画の根幹にこの思想があるように思えます。