個人番号カードの民間利用 (金融機関等にシステム開放)


ニッキン平成28年1月1日号の記事です。(12月25日発刊) 政府が個人番号カードをキャッシュカードなどとして使えるようにするシステムを10月頃から金融機関等の民間企業や地公体に提供するという内容です。このことは知っていましたが、せいぜい2018年頃からと思っていたので、驚きました。

政府としては、個人番号カードを多目的に利用できるようにして、普及を促進したいとの狙いです。また、ワンカード化により、国民の利便性が大きく向上すると考えています。チップの空き領域を活用してもらいたいのですが、国民のセキュリティ懸念などからチップにプライバシー性の高い情報は記録されません。その為、チップ活用の広がりは期待薄として、公的個人認証を活用しようと考えています。総務大臣が認可すれば、民間事業者も公的個人認証の署名検証者になれます。要は、マイナンバーの公的認証に係わる仕組みを利用して本人確認ができることになります。その上で、個人番号カードの空き領域に顧客番号や口座番号などを登録しておけば、キャッシュカードの替わりになるということです。

署名検証者になると、本人確認が簡便なので新規顧客登録やアカウント開設などが、素早く簡単に、つまり安くできます。顧客の電子証明書の受け取りも直接システム上でできますので、顧客情報の異動も迅速に把握できる筈だそうです。そうそう都合よく行くかは、確認できていませんが。それが事実であれば、金融機関としては口座維持管理に係わるコストを大幅に削減できますので、個人番号カードへの移行を進めるでしょう。メガバンクなどは、以前から、それを期待しています。

多目的カード化に乗る為には、個人番号カードのチップに機能を乗せるシステムとアプリの開発が必要となります。現在、地公体情報システム機構がそのシステムを開発中ですが、3月末には完成するとのことです。その後、半年程度をかけて、地公体や署名検証者向けのガイドラインを作成して、システム仕様とともに公開する予定です。それが、来年の10月頃ということです。

金融庁は、現キャッシュカードが、磁気ストライプで数字4桁の暗証番号ということに、セキュリティ面の懸念を強めています。できればエンドデイトを設けてでもICカードで生体認証化を図りたい。そもそも、有効期限のないキャッシュカードは、大昔に作られたカードがアンダーグラウンドで流通して悪用されるケースが耐えません。海外の目からすると、日本のキャッシュカードは無防備で管理できていないと見えます。国内でもクレジットカードと比較すれば、明瞭に理解できるでしょう。

大垣共立銀行やりそな銀のように、カードを使わず、ただ、生体認証だけでATMなどで本人確認手段とする方法は、大変、便利ですが、不安を感じる顧客も多いでしょう。その結果、金融機関としては、従来の磁気ストライプ、ICカード+数字4桁暗証番号、ICカード+生体認証、カードなしの生体認証のみという組合せを全てに対応せざるをえなくなる。それを個人番号カードで多目的カード化できれば、どんなに助かるか。

ただ、この多目的カードに全てのカードを移行できるのはいつ頃でしょう?古い方式のカードが一部でも使われている間は、金融機関はその停止を強制できません。引出し・送金手数料などに差をつけることで、新方式カードに誘導するでしょう。それでも何年かかるか?メガバンクでも口座保有者のうち、アクティブ顧客は半分強だそうです。でも、何時、再び使われるか全く予想できません。睡眠口座を処分する仕組みがない限り、この問題は解決できないでしょう。他人の財産を預かるということは、憲法の財産権に係わるので、ルール変更は容易でありません。マイナンバーが、不稼働口座の整理に使えるとしたら、金融機関にとってどんなにありがたいことでしょう。

以前にも書きましたが、ワンカード化は、国民にとって歓迎することでしょうか?筆者が真っ先に心配するのは、カードを破損したり、無くしたり、盗まれた時のことです。全ての卵を一つの籠に入れるなとの古い教訓があります。Suicaのように、すぐに旧カードの使用を停止して、再発行してくれるのであれば、多目的化した個人番号カードを持ち歩いても良いですが、どうせ、役所のやることですから、2週間とか一か月は個人番号カードなしの生活を余儀なくされるでしょう。であれば、籠は複数に分けます。再発行に一番時間のかかるであろう個人番号カードはなくさないように大切にしまっておき、極力使わない。つまり持ち歩かないというのが結論となります。

政治的配慮もあるのでしょうが、不必要に個人情報保護を意識しすぎた設計が、余計な制約となっています。個人番号が漏れたところで、たいした情報漏洩にならない全体設計となっているのですから、個人番号カードは使い捨ての感覚でも良かったのにと思うのですが。メディアでは、番号が漏れたらとか、プライバシーがなくなるとか不安を煽る記事や論評ばかりですが、ITを判っている人同士では、アホラシイというのが本音です。漏れてもどうってことない情報ばかりだし、ましてや、芋づる式に全情報が引き出されるなんて仕組みではないことは明らかです。話がそれました。

金融機関としては、個人番号カードに乗るのが、安くて自分はなにも考えずに済むと思ってはいけません。キャッシュカードとは銀行にとって、客との関係で何を意味するのか?技術の変化、例えば、スマホを多目的カードとして使うとかを含めて、どのような着地に、どんなルートを作り、それぞれにかかるであろう時間と費用を見積もり、自行と顧客にとってベストなルートをより速く移行する仕組みを設計する必要があります。大量の制御不能なエンティティを相手に、行き当たりばったりの対応は最悪の結果しか生みません。それにしても、金融機関から媒体としてのカード戦略を聞いたことがないのは、どういうことなのでしょう。

                             (平成27年12月28日 島田 直貴)