金融庁が金融審議会WGに報告案提示

平成27年12月17日に金融庁は、金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するWG」で報告の事務局案を提示しました。通常、事務局案は座長を始めとした主要メンバーに事前確認を撮っていますので、大きな変更もなく、多少のブラッシュアップを経て、承認されると思います。下記URLから報告案をご参照下さい。

http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/financial_group/siryou/20151216/01.pdf

銀行がフィンテック展開を行なう際に直接関係する事項をリストアップしてみましょう。

1.金融関連IT企業等(含むECモール)への出資

  法律で規定されている金融関連業務、従属業務に明確に分類できないものがあり、「銀行が提供するサービスの向上に資する業務又は、その可能性のある業務」を行なうための子会社等への出資を認める。認可に際しては、他業禁止の趣旨等を踏まえる。出資割合上限に関しては、銀行持株会社と銀行とで差をつける方法も考えられる。

 注1)ECモールに関しては、取引事業者の紹介、出店者へのアドバイス、代金支払、商流情報を活用した融資等の機能に大別できるが、物流は担わないこと。

 注2)出資先企業における事業が、金融分野でのサービスに結実しない場合は、出資の解消を求めるなどの対応が必要

この記述から読みとれることは、金融持株会社ではなく単独の銀行にもIT企業やネット通販企業への出資を認めるということです。出資比率の上限に差があっても、余り大きな問題ではないでしょう。

第二に、これまでの金融関連業務と従属業務とは別に、銀行サービス向上の為の業務という周辺業務を設定するようです。銀行法ではおおまかな定義に留め、具体的業務については政省令でカバーするようにすれば、金融庁の裁量で迅速な制度対応も可能となることでしょう。その時の判断基準は、他業禁止規定の趣旨となります。他業禁止の趣旨については、報告案に具体的な記述があります。

2.グループ内外の決済関連事務等の受託容易化

 従属業務のうち、システム管理やATM保守などのグループ内業務効率化、あるいはIT投資の戦略的実施に際しては、現在の一律50%以上という収入依存度を引き下げる等、規制を柔軟化する。その為に現行法の従属業務の定義を見直す。

これは、収入依存度規制の緩和ということです。今は、銀行のIT関連子会社は、その売上の半分以上を親銀行からの収入とする義務があります。これまでは、外販に力を入れるIT子会社は極めて少なかったのですが、フィンテックだと利用者からの手数料収入が中心となる筈で、親銀行からの収入に依存するようでは、事業継続性が危ぶまれます。

また、従属業務の範囲を見直すとしています。現在は、営業用不動産管理、事務用品購入管理、システム関連業務、ATM保守点検業務、労働者派遣などが規定されています。上述の銀行サービス向上の為の業務を従属業務に含めるのか、別立てとするのか検討するのでしょう。

3.持株会社による共通・重複業務の執行と委託先管理

  現行法で銀行持株会社が行なうことができるのは、子会社の経営管理を行なうこと並びにこれに附帯する業務に限定されます。グループ全体に対する実効的な監督機能の発揮を担保することを前提に、持株会社が業務執行を行なうことを許容するとあります。

また、グループ内の共通・重複業務をグループ傘下の特定の子会社に集約する場合に、これまでは委託元の子会社それぞれが、グループ内の委託先会社を相対で管理する必要がありますが、それを委託先に対する責任や指揮命令が一元化されることを前提に、持株会社に委託先管理を委ねることを許容するとあります。これは、複数の銀行子会社や金融機関を傘下に持つ、金融グループにとっては、大きな効率改善となるでしょう。

4.異業種グループ系銀行とのイコール・フィッティング

銀行議決権の20%以上を保有する銀行の主要株主に対する業務規制や監督が及ばない実状を踏まえて、異業種グループ銀行の親会社に対する業務規制のあり方につき、検討を深めるとあります。

イオン銀、楽天銀、ソニー銀などが既に存在し、新設を検討する事業会社も数社あります。これら企業は、グループ会社と銀行との間で、顧客情報や取引情報などを共有してはいませんが、銀行からすれば、本業と銀行業のシナジーを発揮していることに羨望と不公平感を抱くのは当然です。先頃、金融庁が銀行法を改正して異業種系銀行の親会社に対する検査監督権を強化するとの報道がありましたが、この報告案では、過度に抑制することには慎重であるべきだが、監督の方法について検討を進めるとあります。少なくとも、現在よりは、異業種親会社に対する金融庁の干渉は増えることになるでしょう。

結論からすれば、金融持株会社の業務範囲が大幅に広がり、金融サービスやそれに隣接するサービスの複合化が容易となります。金融機関の収益源多様化という効果が期待されますが、何よりも金融庁が目指すところは、顧客に対する金融サービスの大幅な改善と海外との金融競争力の強化ということです。このことを忘れてはなりません。

EC事業を傘下も持てるからといって、直ぐにネット通販に参入する銀行はないでしょう。ましてや物流のないEC事業など、どうやって存立させるのでしょう。アマゾンや楽天を傘下に収めるのであれば、いざ知らず、中小サイトを買収するとか、新設したところで成功する可能性は低い。ノウハウも規模も顧客ベースも余りに差がついた後です。

報告案には、事業が軌道にのらない場合に出資を引き上げることも想定しておくべきとの記述もあります。リスク管理からすれば、その通りですが、そのように腰の引けた銀行と共同で通販サイトを運営しようなどという企業があるとも思えません。アマゾンや楽天からすると、株の5%以上を銀行が持つということに意味があるのか。銀行が自分の顧客を大量に送客してくれるとか、決済を大幅に効率化できるのであれば、検討するでしょう。でも、役員などで行員を派遣されるのは嫌でしょう。余りにカルチャが異なり、意思決定メカニズムが壊れます。

冷静に考えると、この制度改正でフィンテックが加速するというよりは、金融持株会社が業務を実施できることの方が、影響が数段大きいと思います。ますます、銀行再編が進むのかと思いますが、それが本当によいことなのかも、よくよく考える必要がありそうです。

                            (平成27年12月18日 島田 直貴)