千葉銀がABLを2年半で6倍に (動産担保融資とフィンテック)


ニッキン平成27年12月4日号の記事です。千葉銀行が動産・債権担保融資を大きく伸ばしているとの報道です。今年9月末残高は150億円と2年半で6倍強となったそうです。13年3月末から125億円を増やしたことになります。三菱総研の動産評価システムOLV(オリーブ)を導入し、行員が実査、ヒアリング、資料をもとに評価して、MRIがその妥当性をチェックします。その結果、自行内にノウハウが蓄積でき、コストを抑制し、審査期間を短くできた(といっても1週間だそうですが)ことが、大きな成果に結びついたといいます。同行は、ABL業務マニュアルを整備して、研修にも力を入れたそうです。

ABLを強化拡大しようと政府が力を入れ出したのは、12年ほど前からです。火付け役は経産省ですが、担保能力の低い中小企業に新たな資金調達の道を開こうとの目的でした。金融庁もリレバン等の推進策の一つとしてABLを推奨しました。日銀もしばしば、レポートを出したり、金融業界向け啓蒙活動を行なってきましたが、普及しません。銀行融資で主体の不動産担保融資では、産業界の活性化は難しいとは誰もが思っています。企業が保有する売掛債権と在庫を始めとする動産は500兆円強あります。土地や機械設備は500兆弱ですから、ABLが成功すれば企業の資金調達力は倍増しますし、金融機関にとっても融資市場が倍増することになるのですが。

普及しない理由はいろいろ言われています。売掛債権担保の場合は、債務者の同意が必要で、債権者が債務者にABL化や証券化したいと申し入れると、この会社は危ないのではないかと信用問題がでてきます。銀行としては担保となる動産評価が複雑かつ流動的で、モニタリングするコストも高くつきます。借りる側からすると、動産を担保にする場合は、単純な手続きでは済まない。決算資料や事業計画の提出、説明に加えて、面倒な担保評価がある。借りた後に担保動産の状況報告を定期的に行なうことも負担です。政府は、銀行が当該企業の事業支援を行なうこととABLは一体と言いますが、企業経営者からすると、銀行にとやかく言われるのは面倒。自分に役立つ情報だけ貰えればよく、息子か娘のような銀行員に先生面されるのは迷惑というのが本音でしょう。

千葉銀は、OLVを活用することで、審査期間を短くしたことが効果的だったのかと思います。そして、何よりも現場にABLの必要性と取引先のメリットを啓蒙したことが大きかっただろうと思います。最近のフィンテック・ブームの中で、識者は「技術も大事だが、まずは意識改革と現場の主体的な導入と運用が不可欠だ。」と異口同音に主張します。筆者もそう思うのですが、金融業界で組織文化の変革が前提だと言うと、そこで全てが止まってしまいます。経営トップのリーダーシップが必要だといっても同じです。起案する人には、どちらも絶対無理だし、チャレンジするとしても疲れるだけと見えるのでしょう。

やはり、テクノロジーを隠れ蓑にした新しい仕組みを作り、その流れの中で行員が実務をこなしていくと何か新しいビジネスやサービスが成功している。そこで、「あ〜、こういうことだったのか!」と現場に思わせるのが、金融業界におけるイノベーションだと思うのです。アイディアだけでは駄目で、仕組みが重要です。各業態のトップ企業は、これが実にうまい。企画がまとまる時には、仕組みが描けている。経営陣が、それを認めると、組織が動いて、仕組みが作動する。そうでない企業は、アイディアと予算だけが役員会の承認を受けて、それから、「さぁ〜、どうしよう?」です。

ABLに関して、筆者が期待をもって下調べを始めた技術があります。IoTとブロックチェーンです。物的担保であれば、対象物にタグを張れば、物理的移動が把握できる。冷凍食品であれば、温度センサーで商品価値が推測できる。数百円というタグのコストに見合わない物であれば、印刷したQRかカラーバーコードを張り付ける。スマホ・カメラでそのコードを撮るのが面倒であれば、スマホから余計な機能を撮ったデバイスをメーカーに作らせる。そのデ−タはクラウド上に蓄積し、必要なタイミングで分析、モニタリングすれば良い。取引先企業のIoT化を企画段階から銀行が支援すれば、最初のABL審査時点から、審査情報は簡単に入手できるし、モニタリングも自動化できるでしょう。金融機関にとっては、なによりも企業活動の血流が一目瞭然で把握できる。

売掛債権の融資や証券化では、ブロックチェーンが使えます。当コラム前々回で紹介したようにブロックチェーンのプラットフォームをクラウドベンダーが提供し出しました。金融機関としては、みずからブロックチェーンを構築する必要はありません。もっとも、無理してブロックチェーンを使うまでもないケースが大半でしょう。請求書や契約書をインターネット経由で自動送付したりするサービスが、数多く提供されています。そこからスタートするのも良いと思います。

フィンテック関連の講演をしばしば依頼されますが、いつも強調するのはこういうことです。「電子決済など個人向けの小口取引が注目を浴びるが、それは金融機関にとって採算が取れるとは思えない。むしろ、法人向けで何をするかがフィンテックの当面のターゲットになる。特に、地域金融機関にとっては、地域再生・創生と法人顧客囲い込みが喫緊の課題であり、それが成功すれば、職域営業で個人客を吸収するのは容易な筈。」その具体策の一つが上記のようなIoTサービスだと思います。

米国や英国、中国で単純な業務サービスがフィンテックだとして成長しているのは、利用者である個人や中小企業にとって、銀行の提供する決済や融資が余りに不便で高コストであることが理由です。それに比べると、日本の金融機関は、あらゆる層に対して良くやっているということでしょう。それでも、文句言われるのは仕方ない。ベテランの金融マンいわく「わしらは金貸しだ。社会に好かれる金貸しなどありえない。」はまさに、至言だと思います。しかし、好かれる金貸しになれたら、それこそ金融のイノベーションです。フィンテックがそのツールとなり得るか?

 

  (平成27年12月9日 島田 直貴)