金融庁が決済インフラ改革移行計画案


ニッキンの平成27年11月20日付記事です。金融庁が金融機関に新金融ネットワークシステム構築と17年度からXML化の試行を開始する案を提示したとのことです。現行の全銀システムにおける固定長電文は20年代に廃止してXMLに一本化することが柱です。商流EDI情報(取引データ)と決済情報(振込データ)を紐付け、EDI情報を管理する機能を検討するとしています。全銀協会長行であるみずほ銀行が窓口となり、銀行界の意見を反映しながら、12月に予定する「決済インフラ改革に向けたアクションプラン」に盛り込む方針だそうです。地域金融機関の中には、コスト増を懸念する声もあると書いています。

この内容にはポイントが二つあると思います。第一は、固定長電文を廃止することです。今の全銀ネットもXML対応はできています。ただ、そのサービス提供をする会員銀行がありません。何故、提供しないかというと、銀行にも利用企業にも、XML化のメリットがシステム対応の負担が上回るケースが少ないからです。しかし、グローバル化によってXMLのニーズが高まり、採用する企業も増えてきたと行政も大手行は認識しています。

17年からの試行には現全銀ネットで対応するのでしょう。契約期間の延長も検討しているようです。第二は、現在の全銀ネットは当面は残し、新ネットを立ち上げて固定長は扱わない。2020年代のエンド・デイト以降、XML対応できない金融機関は、全銀為替に参加できなくなります。何故、2020年代となるのか、恐らく、全銀ネット更改時期との関係でしょう。今の6次は2019年に期間満了です。契約延長を考えなければ、7次で対応するのか、それとも2027年の8次になるのか、今は決めかねるということなのでしょう。何とも息の長い話です。それを待てない大手行などは、りそな銀グループのように個別対応するでしょう。または、デ通サ契約の8年という契約期間を変えるかです。

決済インフラ改革は、昨年の全銀ネット24/365化検討を契機に、全銀協のプロジェクトで議論が進められており、金融庁とも密接に調整されている筈です。決済インフラ改革の課題として大きく3点があげられています。@内外シームレスな決済インフラを構築する。 A決済インフラの機能拡大と高度化 Bイノベーション推進の為の体制整備です。

内外シームレスを実現する為に、

・送金フォーマット項目を国際標準化する。(アルファベット表記やBIC/IBANコードの採用等)

・ローバリュー国際送金を提供する。(IPFA準拠の国際ACHとの相互接続など)

・非居住者の円送金を全銀ネットで取り扱う。

・大口送金(100億円以上)の利便性を向上させる。(送金額の桁を10桁から増やすか、テレ為替電文を利用する等)

・APN(エイジアン・ペイメント・ネットワーク)構築に関与する。(今年、ビジネス委員長に就任したNTTデータ経由で情報収集し日本の関与方法を検討する。)

そして、インフラとしての機能拡大と高度化に関しては

・XML電文への移行は、ニーズとコストのバランスが難しいとしながらも、エンド・デイトを設定し、一定の時期に業界全体で移行する。

・24時間365日化を推進する。

等が検討されてきました。全銀ネットは原則として全会員の合意がないとルール変更ができません。都銀や地方銀行は、個別行が会員で、信金等は協会単位で会員資格を持ちます。小規模事業者を取引先とする中小金融機関にとっては、これらの改革案は、何のメリットもなくコストがかかるだけですから、全員合意は難しいでしょう。そこで、金融庁が提言するという形式を取るのだろうと思います。

以上のような検討項目は、大きな改善に見えますが、当然ながら問題もあります。今の6次全銀は開発費用が800億円と言われています。参加各金融機関の接続システム費用を合わせると1千数百億円になるでしょう。それを8年毎に更改してきました。この案だと新ネットを追加構築して2020年代まで併存することになります。コストも重複します。昔のように会員数が400以上あった信金信組業界は、今では半減してしまいました。個別信金信組の負担は倍増したことになります。更に負担増となれば、脱退するところが出ても不思議ではありません。

もう一つの問題は、国内の閉ざされた業界システムという視点で国際化を叫んでも通用するかということです。グローバルに見れば、決済システムもオープン化しています。民間版の国際ACHが勢力を伸ばしています。加えて、ブロックチェーンを使った新しい決済ネットワーク構築の動きもあります。スピード、コスト、利便性が桁違いで進歩しています。2020年代となると今から10年以上先のことでしょう。到底、世界の動きについていけるとは思えません。そうなるとやはり、三番目の課題である、イノベーション推進の体制という問題がクローズアップされます。この問題に関する方向性や改善案などは、一切、表に出ていません。金融庁が決済高度化SGの論点整理で株式会社化などを一言記述した程度でしょうか。

技術は金を使えば簡単に入手できます。それを活かす組織文化やガバナンスがなければ、技術は全く効果を具現化しません。フィンテックでもそうですが、世界の金融業界の最大の弱点と言えます。もっとも、それが金融サービスの安定性、継続性、公共性の源泉だという側面もあります。要は、バランスの問題ですが、それを見極めることができない。だから、金融庁をけん引役にして、業界全体を動かそうとしているのでしょう。それが正しい方法なのか誰も判らない。金融庁はその点でもしたたかです。改革案の論点において、頻繁に複線的(競争原理の導入?)とかオープン・イノベーション(他産業からの新規参入?)という表現を使っています。

                       (平成27年11月27日 島田 直貴)