マイクロソフトがクラウドでブロックチェーンのプラットフォーム


平成27年11月13日付のITPro記事です。MS社がEthereumブロックチェーンをクラウドAzure上で提供すると発表しました。Ethereum Blockchain as a Service(EBaaS)という名称です。プレスリリースによれば、ブロックチェーンの開発環境を1クリックで構築できるそうです。金融機関がブロックチェーンに高い関心を抱いていることを受けて、MS社はブロックチェーンのプラットフォームをクラウドで提供して、金融機関のPOCなどを支援し、やがては本番環境にもAzureを使ってもらう作戦なのでしょう。今回は、統合開発環境のEther.Campとブロックチェーン環境のBlockAppsを提供します。

イーサリアム・ブロックチェーンとは、ブロックチェーンのオープンソース・プロジェクトで開発を進めている分散型アプリケーションやスマート・コントラクトを構築する為のプラットフォームです。基本的にはビットコインが使用するブロックチェーンと同じ機能ですが、トランザクションの承認手法に使われるPOWをPOSに変えるとか、処理能力を秒速10万トランザクションにしようとするなど、ビットコイン・ブロックチェーンの機能改善を進めています。ビットコインの替わりに内部通貨としてEtherを使います。Etherはビットコインのマイニングと同様に、取引承認の計算作業をする人(組織)に、インセンティブを提供する媒体です。ビットコイン自体も、処理能力を改善したり利便性をあげるための手法を検討しているようですが、それらは単なる約束事なので、改善内容が固まれば実装自体は難しくない。つまり、ブロックチェーンの進化は続きます。

マイクロソフトが、ビットコイン・ブロックチェーンではなく、イーサリアム・ブロックチェーンを選んだ影響は大きいでしょう。IBMやサムソンなどもイーサリアムを使う旨、発表しています。銀行からすると、通貨と競合する可能性の高いビットコインよりも、分散型アプリケーションのプラットフォームとして使えるイーサリアムの方が都合が良いということなのでしょう。イーサリアムの代表的なアプリケーションは、スマート・コントラクトです。契約関係を記録するだけなのですが、各種の取引基準や手順などを柔軟に設定できる点が大きく違います。ビットコイン・ブロックチェーンがP2Pネットワークによる分散型DBといった特性が強いのに対して、イーサリアム・ブロックチェーンは、P2Pネットワークによる分散型アプリ(DApps)の特性が強いという面があります。

例えば、電子記録債権のような業務において、債権の単純な譲渡移転に加えて、分割や決済条件の変更など、ビジネスルールを追加する場合などにイーサリアムは便利です。有名な実用化済みサービスに、Augerの予測市場があります。これは、観光業や農業などで使っている天候デリバティブに加えて、参加者の天候予想で確率を多重化しリスクを軽減するような使い方をします。人によっては、ブロックチェーンを使った丁半博打だという人もいますが、金融数理と人間心理の組み合わせだと思えば、ITの正しい使い方だとも思えます。統計数理とコンピュータ・パワーだけで金融ができてしまうとはとても思えません。

先月の27日には、米NASDAQがブロックチェーンを使った未公開株式取引システムNasdaq Linkを発表しました。今年5月に開発表明して、約5カ月でほぼ開発を終了したということになります。取引開始日までは明言しなかったようですが、IT関連スタートアップ6社の未公開株売買市場となります。今回の開発でNASDAQに協力したブロックチェーン技術企業Chain社も、NasdaqLink銘柄となります。実験市場としての小さな市場ですが、株式売買の台帳としてブロックチェーンを使う世界最初の試みです。何かトラブルが起きても人間が直ぐに対応できるでしょう。そのノウハウと関連技術がNASDAQの財産となります。

最近のFintechブームは大変なものです。ビジネスコンテストやベンチャーと銀行の資本提携、各種研究会、そして社内専担組織の設置などが毎日のように報道されます。しかし、期待されるような新サービスはまだ出てきません。多くの銀行マンには、今、騒がれるサービスはどれも以前からあるではないか、何が違うのかと、冷やかな見方が圧倒的です。それでも、情報収集には熱心で、セミナーや講演会などは、どこも大盛況です。面白いと思うのは、講師も聴衆もほとんど同じメンバーだということです。

どうってことはないと考える一方で、万一、根本的に競争関係を変えるようなものがでてきたら困るから、情報収集だけはしておこうというのが、多くの金融機関の考えのようです。筆者は、アグリゲーション、ロボアドバイザーなどは、面白いが市場を変えるほどのものではない、ビジネスモデルを変えるようなテクノロジーの使い方こそ、日本におけるFintechだと思っています。それには2種類あって、ネット通販の加盟店売り上げ状況を審査基準として即時融資するトレード・レンディングのようなバリューチェーンを変えるもの、もう一つは、ブロックチェーンやIoTのようなバリューチェーンは変えないまでも、取引関係のプラットフォームを丸々置き変えるものがあるようです。

繰り返しですが、ブロックチェーンは、最新技術というよりは約束事の固まりです。ですから、ビットコイン・ブロックチェーンであろうがイーサリアム・ブロックチェーンであろうが、まだまだ変化し、進歩を続ける筈です。11月9日に、IDCが発表した調査予測によれば、2018年にはグローバル2000企業において、IT投資の半分以上がクラウドに投じられるといいます。従来型のIT企業の顧客は、一般企業や個人ではなく、クラウド企業になってしまいます。そのクラウド企業は、従来型IT企業の競争相手でもあります。結果として、IT企業の30%が消滅するだろうとのことです。ユーザー企業、クラウド企業、Fintechベンチャーのパートナー戦略がIT戦略の柱となるかもしれません。

                                  (平成27年11月19日 島田 直貴)