地方銀行再編 (常陽銀と足利銀が経営統合)


日経新聞の平成27年10月27日付記事です。常陽と足利が来年秋の経営統合を目指して、協議中だということです。両行ともに、協議中ではあるが決定した事実はないとしていますが。全国紙各紙は、地銀3位の大規模地銀ができ、人口減少や資金需要の停滞等が進んでいることもあり、地域金融機関に対する再編圧力が一段と強まるだろうと、毎度の見方を報じています。

筆者は経営統合が、余り効果的とは思っていません。従来のコストも収益基盤もそのままですから、頭取と副頭取が一人ずつ減るだけくらいにしか考えていません。システム統合でITコストが減るではないかと思うでしょうが、両行別々に基幹系オンラインを持つのですから、大きく減る訳がありません。常陽が三菱東京UFJとIBMによるチャンス共同で、足利がNTTデータのBesta共同ですが、一般的に考えれば足利が常陽に合わせるのでしょう。チャンスはBestaよりも高いですから、コストは上がってしまうでしょう。

常陽の口利きでディスカウントしてもらえるかもと言う人もいるでしょう。しかし、足銀が破綻した時に、BTMUやIBMとの間に、相当険悪なしこりを残しています。IBMからすると顧客が困っているからと、足銀の経費削減に外資と思えない程の協力をしました。それでも、NTTデータにシステムをくらがえした経緯があります。当時は横浜銀行から来た池田さんが足利の頭取でしたから、担当レベルではそんな悪感情は残っていないかもしれませんが。その当時、IBMで地銀を担当していた筆者の後輩が、随分と怒っていたので、「まあ、まあ、余り怒るな、心配するな。君らの共同参加地銀は有力地銀ばかりではないか。やがては、他社の共同ユーザー地銀の中には、どこかに吸収されるか、消えるところが出てくる。ただ、待っていれば、自動的にユーザーは増えるから。それまで、新しいことをやって、蓄えておきなさい。」と慰めたものです。

破綻前の足利銀行が苦境に陥った1990年代後半は、ゴルフ場と温泉が地銀にとって大きな荷物と言われましたが、旧足利銀はまさにその代表的なケースでした。工業団地も方々に作られましたが、製造業の海外移転で、その大半が空洞化しました。その穴埋めに域外進出を図ったのですが、それも裏目にでました。その点、常陽は、ゴルフ場問題はあっても温泉問題はなく、域外進出も早めに縮小しました。伝統的な健全経営を守ったのです。足利も、その後、経営改善を進めて、今ではゆうちょを含む県内預金の30.2%、貸出の39.5%を占めています。問題は、地域経済が停滞して県内総生産は全国の1.46%7.8兆円と停滞していることです。

一方の常陽銀は、県内預金シェア31.9%、貸出シェア45.7%、県内総生産は全国の1.73%11.2兆円です。地域経済は足利と同様に厳しいですが、何と言っても貸出が強いので安定しています。預金は必要以上に集めない方が良い。仕入れですから。今後は、製造業以外からの貸出収益や海外を含む域外事業をどうするかということになります。経営統合をしたからといって、そう簡単に県内支店の廃止はできません。コスト削減よりも、トップライン強化を一段と進めるしかないのが実情です。

その時の問題は、人材につきます。人数も大きな制約ですが、スキル、経験も不足です。最近は中途採用によるスキル補充を図る地銀が多いですが、余りに少数です。例えばSMBCはこの10月にFintechを担当する部門を立ち上げましたが、その人数は40名だそうです。地銀でもFintech担当を任命していますが、多くは1名で兼務による情報収集が責務です。支店よりも、本部の規模が全く足らないのです。その点で経営統合は、大きな効果を期待できます。常陽の本部行員数は620名前後、足利は670名前後です。合わせて1300名となりますが、IT活用等で600名を減らして、新規ビジネスやサービス開発に向けたら、いろいろなことが出来ます。余れば、営業に廻せば良い。通常の経営統合は、順番が逆でまずは、営業に、次に、本部です。営業店に人を投入しても、際限がありません。

幸いなのは、常陽には子会社が11社ありますが、足利は3社だけです。破綻時に整理してしまいました。子会社の統合作業がないというのは、大変なメリットです。メガバンクが、いまだにノンバンクをはじめとした子会社統合に四苦八苦していることを考えれば、その意味が理解できるでしょう。茨城県と栃木県を合わせて人口500万、域内総生産20兆円の市場を基盤として、トップライン強化を図ることができれば、面白い。重複する店舗は殆どありませんから、統廃合は殆ど期待できません。過疎地域の店をゆうちょ銀と共同店舗にするとか、常陽銀の頭取が言うようにコンビニを代理店にするなどしないと店は減らせません。

新規ビジネス、サービスに人材を投入するとして、丁度、金融審議会では金融持株会社の業務規制緩和を検討しています。来年、法改正が国会を通れば、2017年には改正法が施行されます。両行の経営統合は、来年秋を目指すそうですから、丁度良いタイミングとなります。常陽は、最近海外市場に目を向けて、まずはニューヨークに拠点を設置しました。足利ルートでアジアにも出ていくことでしょう。農業の6次産業化を支援しながら、製造業以外の市場開拓も進めると思います。IoTやディープラーニングを活用した新しいビジネスモデル構築を期待したい。その際に、ECや決済などでFintechの活用分野が見えてくるでしょう。その投資余力や顧客基盤も今よりは数段改善されることになります。攻めの経営統合は、楽しいプロジェクトになる筈です。救済合併のような民族浄化運動とは全く異なります。

関係するベンダー各社ですが、取りあえずは経営統合支援に注力することです。具体的には、本部要員の生産性倍増です。簡単な筈です。次に、経営からすれば当然出てくる上記のような方向性をいかに支援するかです。どっちの共同オンラインに集約したとか、IBMとNTTデータのどっちが勝つかなどといった、些細な話は、メディアの連中にやらせておくことです。

                                     (平成27年10月27日 島田 直貴)