ゆうちょ銀が世界規模の民間ACHに加入


ニッキン平成27年10月16日号の記事です。ゆうちょ銀が、英国アースポート(EP)社が運用するACHに加入するということです。EP社は世界63カ国にまたがるACH(Automated Clearing House)を運用しており、各国の銀行に口座を保有しているので、ゆうちょ銀は、コルレス先のない国にも海外送金が可能になるということです。当面は、マネロン・リスクの少ない内⇒外送金を扱いますが、順次、外⇒内送金にも広げたいとのことです。

この記事を見て、まずは、世界のポストバンクと提携して強力な送金網を持つゆうちょ銀が何故、民間ACHを使うのだろうという疑問が湧きました。諸外国のポストバンクだけではネットワーク網が不足で、さりとて、自らコルレス先を開拓する余裕もないのでしょうか。海外送金のコストとしては、送金手数料、両替費用、中継銀行手数料、リフティング・チャージ(送金する際に円をドルに両替せずに円のままで送る場合に銀行に払う手数料)などがかかります。100万円を送る場合で、どれも5千円以上となりますので、一回の送金で1万円を優に越えることになります。それが大幅に安くなるのが民間ACHのメリットですから、顧客メリットが大きいというのも加入理由でしょう。EP社の場合は、1件2〜8ドルだといいますから、随分と違うものです。

EP社は英国金融サービス機構(FSA)の認可を受けた国際決済サービス・インフラ提供会社です。資金決済法以前は、日本での活動はできませんでしたが、いまでは日本法人もあります。銀行だけでなく、一般事業会社も利用できます。但し、個人取引は扱いません。個人は、銀行や決済サービス会社経由のEP社ACH利用となります。

先程、銀行が扱う場合の手数料が高いと書きましたが、実は、ゆうちょ銀はそんなに高くなくて2500円程度です。それでもEP社を使う理由は何かといえば、以下のようなことが考えられます。

・送金に時間がかかる。(数日とか国によっては1カ月以上)

・着金のタイミングが全く不明

・手作業が入るのでミスやトラブルが避けられない

・手数料体系が両国間制度によって全く異なり不透明

といったことがあるでしょう。今日では、クロスボーダーで人が往来するだけでなく、ECなどを通じた取引に伴う資金決済ニーズが急増しています。つまり、現在の銀行間決済による海外送金は、社会の変化についてこれていないということです。実際、EP社ACHには、HSBC、スタンダードチャータード、BOA・メリルリンチなども加入しているようです。海外大手銀が参加する理由としては、マネロン対策としてコルレス先チェックの厳格化が進められているが、EP社を使うことでそのリスクを移転できることもあるようです。

大手邦銀が考えてもいなかった国際ACHをゆうちょ銀が利用するというのは驚きでした。頑張っているなという感じです。一番喜んでいるのは郵便会社かも知れません、郵便会社は国際物流と物販に力を入れています。どうしても国際送金の効率化が必要です。身近なゆうちょ銀が扱ってくれれば、大変助かるでしょう。民間銀行は、ゆうちょが国営だとか国の保証があるだとか言う前に、もっとやることがあるのではないですか?ということになります。

大分、昔ですが、米国証券会社の口座(スミスバーニー)に置いてある株を売り、日本に送金する為に大手銀行に相談したことがあります。さっぱり埒があかず(コールセンターも営業店も手続きが判らない。少額なので本部に問い合わせもしない。)ので、スミスバーニーの親会社だったシティバンクに相談しました。コールセンターの女性が、テキパキと手続きや料金を教えてくれて、邦銀との実力差に驚いた記憶があります。(そのシティも邦銀並みになるとすれば、残念なことです。)外為、海外送金の事務は極めて複雑で、更に、仕向と被仕向の組合せや両行にコルレス関係がない場合、中継銀行が加わりますから、ますますややこしくなります。国際ACHは、ハブの役割をして、各種制度や手続きの違いを吸収してくれます。これからは、様々な業種でこうしたネットワーク・ハブを提供するサービスが出てくるでしょう。

コールセンターと言えば、先日、三井住友銀行のワトソン実証実験の話を聞きました。お客からの質問に対し、ワトソンが幾つかの回答候補を確信度付きで教えてくれるシステムです。正答率目標80%に対して、現時点で問題のない水準だそうです。11月まで実証実験を続けて、その後、どの規模まで本格導入するかを決めるとのことです。海外送金のような複雑な質問にも簡単に答えられるようになることでしょう。将来は海外拠点での融資手続きや与信判断に使う可能性があるということでした。

メディアは人工知能を入れると直ぐに、何でも答えてくれるかのような報道をしますが、実際には事前準備にかかる人手作業は大変だったそうです。行内用語等の辞書、QA事例の収集、事務規程マニュアルの整理と入力、ワトソンの回答評価等々の殆どが人手だったそうです。しかし、一度整備して運用が始まると、後はワトソンが学習能力を活かして、自らをレベルアップしていきます。こうしたナレッジやデータの蓄積は、先行者が圧倒的に有利です。他行がワトソンを採用したとしても、最初の学習の為の事例やデータベースは、ワトソン用に作る必要があります。その間に先行者はノウハウの蓄積を進める。利用者は便利な方を使いますから、利用件数にも差がつきます。というよりは、差が広がる。こうした蓄積型情報資源でいかに差別化するかが、IT戦略のポイントです。これを実行して成功した国内金融機関を見たことはありません。小売業では、セブンイレブンなどが成功事例でしょうか。

                          (平成27年10月21日 島田 直貴)