ペイパルが中国向けの日本製品通販


米ペイパルが、中国の消費者に日本のネット通販と自社の決済サービスをセットで提供するという記事がありました。日経新聞平成27年9月30日号です。ペイパルは、日本だけでなく、米国などの通販サイトとも組む予定ですが、中国で人気のある日本製品を前面に出して、銀聯や中国建設銀行(4大銀行の一つ)、口コミサイトなどで広告キャンペーンを実施するそうです。その費用はペイパルの負担です。

更に、通販事業者には現地物流事業者を紹介するなどして、集客、決済、物流までまとめて提供するということです。ECサイトから決済に入るのではなく、決済からECサイトに参入する新たな流れとなります。この提携には、日本からニッセン、バイイー、コスメコムなど15社が参加するそうです。仕掛けたのが、日本のECや決済事業者でないことが面白い。ペイパルのような、世界200カ国、1億7千万利用者、年間29兆円の決済額を持つ、世界最大の決済事業者に声をかけてもらえるような品揃えと実績があれば、事業機会は向こうからやってくるということなのでしょう。

中国消費者の爆買いには景気後退懸念もありますが、それでも日本より数段大きな市場で、成長率も遥かに高い。中国から日本のネット通販で購入する金額は、昨年で6千億円を突破して急速に伸びているそうです。この市場には、世界中が注力していますが、日本には中国市場でカスタマ・インタフェースを確立している企業はありません。その点で、米国企業はどんな地域でも、入り込んで行きます。

仕組みはこうです。中国の消費者は、ペイパルの決済サービスに加入し、銀聯カードや銀行口座などを登録する。商品購入にあたっては、メールアドレスとパスワードを入力するだけです。ペイパルが決済口座などとひも付けします。銀聯はどういう訳か、人口の4倍以上の50億枚を発行、建設銀行は5千万のカード会員があるそうです。銀聯のデビットと建設銀の口座保有者が対象であれば、代金回収不能件数も抑えることができるでしょう。

ペイパルは、中国の主だったサイトでキャンペーンをはり、自社のサイトに利用者を呼び込んで、中国語のサイトを持つニッセンなどのサイトにリンクします。当面は、この方式でしょうが、やがては、ContextualCommerce化するでしょう。通販サイトにアクセスしても実際に購入するのは15%未満とされます。このコンバージョン率をあげる為に、様々な工夫がなされていますが、最近流行りなのが商品の所にBuyボタンを置く方法です。利用者の自然な行動の流れに沿って、ボタンを押すだけで注文できてしまう。いちいち、納品先や支払手続きをしなくて済みます。衝動買いを誘因するともいえますが、便利なことは確かです。ペイパルがこのコンテクスチュアルコマースを導入すれば、Buyボタンをどこに置くかなど、販売の主導権はペイパルが握ることになり、通販事業者は単なる納品業者の立場になってしまうかもしれません。

ネット経済では、現在、カスタマ・インタフェースの争奪戦が行なわれています。顧客ベースの確保とも言えます。使ってもらうには、コンテンツが大切で、その効果を高めるにはカスタマ・エクスペリエンスが重要となります。カスタマ・エクスペリエンスの効果をあげるには、検索情報、注文などの取引情報や決済情報といった経済源流データが役立ちます。最終的には、この経済源流データを誰が握るかが、ネット経済の覇者を決めることになります。

検索情報は、GoogleやYahoo、Facebook、Twitterなどが先行して握っています。決済情報はVisaやMaster、Paypalなど決済事業者が世界の大半を押さえています。取引情報はAmazonやアリババなどです。グローバル市場では、どうみても日本勢に分はありません。この状況に自民党国会議員達は苛立ちを隠しませんが、日本の風土や慣習、そして企業文化、それらを育んだ教育と行政が原因ですので、ネット企業を責めても何ともなりません。一企業としては、利用できる相手と組むしかありませんが、それが、また、経済源流データを流出させることになる。オセロゲームのように、一手で全てを逆転する方法は、文句を言うだけの国会議員に考え出してもらいたい。LINE(韓国?)やヤフー(米国)か、または新規サイトで頑張るしかないのでしょう。でも、最初からグローバル展開を想定しないと、井の中での競争に終わります。

日本の企業には、どうして米国や中国、インドのようなビジネスモデルやバリューチェーンを柱とする戦略性が欠けるのでしょう?明治時代のリーダー達にはあったような気がしますが、その後の教育や戦後の成功体験が邪魔しているのかもしれません。それならそれで、海外の覇権者を旨く活用する仕掛けと、代替策を考えておくべきでしょう。一橋大の楠教授が、企業に必要な人材は、スキルを持つ執行者とセンスを持つ経営者だと指摘していましたが、仕組みを考えだす参謀というか、設計者も必要だと思います。しかし、日本では参謀は評価されない。参謀に目を向けた司馬遼太郎さんは、経営層にファンがとても多いのですがそれでも参謀は評価されない。CEOより給与が高くても良いくらいだと思うのですが。

そんな日本にもインバウンド観光客が急増し、それに伴って海外の決済サービスが次々と持ち込まれています。鎖国状態だった決済ビジネスに四方八方から黒船がやってきます。若い人から順番に慣れていきます。行政も制度対応を準備し始めました。気がつけば、今の決済サービスは、歴史資産になっているかも知れません。具体的に、どのような順番でどうなるかは、誰にも判りません。要は変化対応力次第ということに間違いはありません。グランドデザインとマイルストーンが前提にあるのは当然ですが。

金融機関は、斥候部隊、先遣部隊、そして本体といった態勢をシステム含めて準備しなくてはなりません。何でも銀行全員でやるというこれまでの思い込みは捨てるべきです。変りたい人だけで変れば良い。「嫌なら残れ」行政もこの方針に切り替えつつあるようです。決済を外部委託する選択もアリかもしれません。決済だけでは銀行は食べていけませんから。惰性で決済にしがみついて、後追いで表面的にFintechをやっても何にもなりません。

                         (平成27年10月5日 島田 直貴)