Fintechで日米欧22行が提携 (新決済システムを構築)


日経新聞の平成27年9月30日号記事です。先進国主要銀行が、ブロックチェーンを使った新たな決済システムを共同で構築するというものです。22行はまさに名だたる金融機関ばかりで、日本からはMUFGが参加とあります。

ブロックチェーンは、最近流行りのFintechの中で最も価値があるというか、応用範囲の広いアルゴリズムとして注目されています。ビットコインの主要技術なので、日本では悪用され易い技術とみなされる傾向がありますが、欧米では決済や証券取引などのイノベーションに使えるとして、金融機関やベンチャーがビジネスモデル開発の競争をしていました。どこが先に動くかと思っていたのですが、多数国の主要銀行が協力して決済システム開発に着手したとは驚きです。

記事では、米国Fintech企業「R3」と提携して10月から3つの分科会をNYに設置して、設計技術や法規制などを研究するということです。MUFGは既に各分科会に2、3名を派遣したそうです。1〜2年で実証実験に入る計画です。この記述からすると、この記事のニュースソースはMUFGなのでしょう。同社は日本でのFintechブーム火付け役で、大分以前から米国で調査活動をしてきましたし、行政やメディアを牽引しています。自ら環境を変えようとするのは、わが国金融機関にこれまでない動きで、ナショナルフラッグ銀行として頼もしい存在と言えます。

22行が作る決済システムとはどんなものでしょう?全銀システムや米国のACHに替わるような決済システムでしょうか?筆者は、最初に作るのは、銀行間決済システムではないかと思います。現在はSWIFTが担っていますが、SWIFTは決済システムとは言えません。決済情報をスィッチングしているだけで、最終的なセツルメント(資金清算)は、各国の公的決済システムで行なっています。新しい決済システムがどこまでカバーしようとするのか。

企業や個人の決済を行なう場合には、ブロックチェーンのP2Pネットワーク機能が生きてきます。参加行が共通の仮想通貨を出せば最終決済まで可能ですが、主要銀行としては各国通貨政策に大きく影響するようなことはできないでしょう。記事では仮想通貨であれば、手数料が金融機関を通じた海外送金の10分の一程度になるような書き方をしています。これは誤解を招く言い方でして、金融機関を通すから高いのではなく、金融機関が海外送金処理する際に、必要となる手続きが煩雑なのでコストがかかるのであって、決済情報をやりとりするだけなら、今でもさしたるコストはかかっていません。

大昔の料金しか知りませんが、SWIFTで決済情報を送信する手数料は、確か75セントだったと記億しています。全銀に数百円払うより、はるかに安いと思って、全銀をSWIFTに置き換えたらどうなるか検討したことがあります。しかし、仕向、被仕向双方の顧客と資金授受を完了する間に銀行が負担する全コストが2千円以上だと知った時に、決済情報送信コストを下げても大勢に影響ないと断念したことがあります。

ブロックチェーンは、以前からある仕組みですが、ブロックチェーンの威力を発揮させたのがビットコインで使われたプルーフ・オブ・ワークス(POW)です。二重払いを排除したり、改ざん防止に工夫されたもので、当該ブロックの前ブロックのハッシュ値からナンス(nonce)と呼ばれる数値を計算させ、それを最初に見つけたノードがネットワーク内で発表して、他のノードが確認、タイムスタンプした時点でブロックが正式に成立する。発見者にはビットコインでいえば、仮想通貨を受け取れるようなルールを決めておく。このブロックチェーンとPOWの機能がネットワーク上の取引マッチングに使えると期待されているのです。ただし、ブロックチェーンやPOWにも様々な制約があります。厳密な意味での即時性に欠けるとか、余計で膨大な計算能力が必要、管理主体がないとかです。どれも約束事ですから、参加者の合意で何とでもなります。

今回の記事で留意すべきは、決済はネットワーク効果という市場占有率が最重要だということです。つまり、1社単独や少数では革新できないのですが、大手決済事業者が手を組んでしまうと、それ以外の事業者には何らの発言権が得られません。これだけの大手金融機関22行を誰がまとめたのか、それを民間でやったとすれば凄いことです。それとも、元々、何らかの組織体があったのでしょうか。

また、R3というベンチャーがコアメンバーになっています。どんな企業なのか、とても興味があります。日本でもワールドクラスの技術力を持つベンチャーが出て欲しいのですが、わが国IT業界の風土では期待するだけ無駄なのでしょうか?まずは、目利き力をもってスタートアップと対等につきあう態度が、金融機関をはじめとしたわが国企業に求められます。

                          (平成27年10月1日 島田 直貴)