モバイルバンキング : 世界の普及状況


金融経済新聞の平成27年9月21日付記事です。KPMGが7月始めに発表したMobile Banking 2015レポートを参照して、日本のモバイルバンキング(MB)普及が著しく遅れているという内容です。KPMGのレポートは下記URLを参照して下さい。

http://www.kpmg.com/UK/en/IssuesAndInsights/ArticlesPublications/Documents/PDF/mobile-banking-report-2015.pdf

世界18カ国のMB普及率をUBS Evidence Labの協力を得て調査しました。最も高いのが中国で63%、米国は13位で35%、日本は最下位で16%でした。南ア、韓国、シンガポール、インド、ブラジルが50%台。ケニア、スウェーデン、ナイジェリア、タイ、ロシアが40%台。スペイン、米国、豪州が30%台。英、仏、カナダが20%台で日本だけが10%台でした。これらの国を抽出した理由は判りませんが、世界を区分して人口当たりMB利用者の多い国だと想像します。

顧客満足度も調査しています。ナイジェリアがトップで8.2、後はインド8.0、米国7.8、南アとケニアが7.7と続き、全体平均は7.1です。日本はここでも5.2と唯一の5点台で最下位でした。MBを利用している人としていない人との満足度の差も分析しています。多くの国でMB利用者の満足度がしていない人よりも大きく上回っています。特に中国ではその差が大きい。日本は余り差がないものの、双方ともに満足度が低い。

この調査は日本でも各方面の関心を集めたようで、どれも、わが国銀行のMBへの消極性が原因で、世界の潮流に遅れているとの論調です。しかし、筆者は必ずしも、そうは思いません。顧客側のニーズに大きな差があると思うからです。

普及率が16%というのは、納得のいく数字です。ただ、銀行数が少なく、預金口座を持てる個人も限定される発展途上国と違って、わが国のMB利用者は複数のMB口座を持っていますので、重複を抜くと更に普及率が下がるかもしれません。PCを含めたIB利用者は、殆どの銀行で全預金者の20%前後です。しかし、地銀の場合でアクティブ・ユーザーの比率は10%前後。つまり、個別行から見ると、実際の利用者は全顧客の2%前後ということです。その理由は、身近に銀行店舗があり、ATM網も発達していること。何もセキュリティ・リスクを冒してまで、IB/MBを利用する必要性は高くないというのが実態です。KPMGのレポートでも、このことに少し触れていました。

問題は、MB利用者の平均年齢です。どの国も30歳代です。インドが30歳、カナダ、米国が32歳、日本と中国が37歳、イタリア、スペイン、スウェーデンが39歳です。あと十数年もするとこの年齢層が銀行にとっての主要顧客層となります。その家族などへの波及を考えると、遠からずMBが銀行チャネルの主力になります。今、IB/MBに力を入れないとして、何時頃からどの位の時間をかけて、どのような方法で、自行へのロイヤルティを確保するのでしょうか?そのシナリオを聞いたことがないので、心配になります。

以前にも書きましたが、30代、20代の人達は、預金してまともな利息を受け取った経験がありません。住宅ローンを借りるにも、一部を除けば、勤続年数も年収も担保も足りません。比較すれば、ネット専業銀行の方が、数段と伝統的銀行より若者に親切です。特に決済サービスはMBと親和性が高い。KPMG調査では、主要銀行におけるMBの提供サービスを比較しています。付加価値サービスとして、イメージ/カメラ、クロスセリング、PFM、クラウドサービス、ウエアラブル、SMS、ARなどが列挙されています。バークレイやウェアストパックなどが、この分野に熱心なようです。この種の付加サービスで顧客を囲い込まれたら、何年か先に、採算性のある年代になったとしても、IB/MBを軽視した銀行には、なす術はないでしょう。

最近はFintechブームです。少々ジャーゴン化していますが。今提供されている、される予定のサービスは殆どがスマホを使った小口決済であり、PFM(個人の金融資産管理ツール)です。これらサービスは、他により使い易い、便利なものが出てくれば、お客は簡単に移ります。やはり、上記の付加サービスのようなもので、顧客ロイヤルティを深堀りする必要があります。それには、今のような単発的サービスではなく、もっと長い目でのストーリーと柱が必要なようです。日本はMBが遅れているから、Fintechを契機にもっと普及促進を図るべきだという論法は、少々表層的に過ぎるようです。

逆の発想で考えれば、銀行支店内で上記付加サービスを展開し、成功したサービスから順次、モバイル化するという発想もあるでしょう。この手法は、特に地域金融機関には有効だと思います。ネットワークサービスには地理的制約がないだけでなく、サービスのポータビリティも高い。ですから、他に少しでも良いか安いサービスが出ると、お客は移ってしまう。このことは、地域金融機関にとって、メガバンクやネット専業銀行に対する大きなハンディキャップです。しかし、物理的店舗内でバーチャル・サービスを展開し、要望するお客のモバイルにも提供する。そのコンテンツには地域特性をふんだんに盛り込んでおくことで、顧客のロイヤルティを確保しておくことが可能となるのではないか。

当たる商品やサービスを開発しようとしても成功の確率は低いので、数を打って、その中からヒットやホームランを育成するという考え方が、モバイルやFIntechの世界に必要だと感じています。

                              (平成27年9月24日 島田 直貴)