金融庁がFintech後押し (17年振りに銀行業務規制を緩和)

日経新聞の平成27年9月5日付記事です。金融庁は9月中旬から金融審議会での議論を通じて、銀行法を改正し、銀行が電子商取引(EC)やスマホ決済などの事業を運営できるように業務規制を緩和するとの内容です。仮想通貨の監視策も検討するとしています。

金融審で各業態代表達が要望した規制緩和内容やその影響効果などを参照しつつ、アクセンチュアの予測数字であるFintech関連投資額が1兆円規模だとか、マネーフォワードが調べたとして日本ではそれが50億円程度だと書いて、今回の規制緩和の動きはグローバル競争において必要で望ましいことだと主張していました。

この記事には新しい情報は全く記載されていませんが、金融業界や金融IT関係者以外に、こうした流れになっていると認識してもらうには有益な記事です。そうだとして、Fintech関連のニュースは派手に扱われる一方で、情報の多様性や客観性に欠けているように感じてなりません。金融庁が検討を開始した経緯も、これまでの報告資料で繰り返し説明されていますが、それすらも、どこかの誰かが情報や考え方を誘導しているのではと思わざるをえない節があります。

Fintechに関しては様々な共同研究やコンソーシアムがスタートし、ファンドを立ち上げたり、米国西海岸にリエゾンを置く企業が続出しています。大勢集まれば良いヒントやアイディアが出てくるのだろうか?人をシリコンバレーに配置すれば役立つ情報が入手できるのだろうか? 何か、他人から貰うことばかり期待しているのでは?などと思ってしまいます。様々な機会でコンソーシアムの議論内容や個人としてのアイディアを聞きますが、これだという案に出会うことは今時点で皆無です。金融からの切り口ではFintechは無理かなどと思ってしまいます。

そういえば、日銀が昨年10月から今年7月にかけて実施した「ITを活用した金融高度化ワークショップ」の検討趣旨で「イノベーションが進まない理由の一つとして業務推進体制に問題はないか?」という指摘があります。銀行の人が何のことだろうと言うので、日銀の担当者に尋ねたところ「変化を求めたり、進めたりする組織文化や銀行員の意識のことなのだが、さすがに直接的に言えないので。」とのことでした。ポイントを突いていると思った次第です。金融庁としては、金融サービスを進化させるためには法律を変えるのが確実なのでしょう。ですが、銀行からすると、何をしたら良いのか、 誰か教えてというのが実態です。筆者は、まず手をつけてみる、走りながら考えれば良いと言いますが、それは銀行員がもっとも嫌う行動パターンです。また、少しやったけど失敗となると2度目のチャンスがなくなってしまいます。

今、費やしている膨大な保守運用費の2、3パーセントで良いから、この新しい分野に回せないのは何故なのか。障害が怖いのか、全体が見えていないのか、収益性に疑問があるからなのか、人材がいないからなのか。社内的にも対メインベンダーの関係においても、デッドロックに乗り上げているとしか思えません。ここをいかにブレイクするかが、CEOやCIOの最大の課題だと考えています。

FintechではITベンチャーの独創性に期待する側面が強いようです。関連する技術も、モバイルが中心に置かれていますが、IoTやディープラーニング、ロボット、ビッグデータなど非常に幅広い。音声認識やARなども面白そうです。どれもブームですし、利用する場合のコストなど障壁は殆どありません。それらと金融サービスを組み合わせると何かできそうだと期待するのは至極自然なことです。それなのに、大勢で集まっても何も出てこない。それでも、儲けを狙ったファンドや有料セミナー、海外視察ツアーなどが立て続いている。何か変だ、怪しいと思うのは筆者だけでしょうか?そう言いながら、原稿を書いたり講演しているのですが。

根本的な問題として、利用者にFintechに対するニーズがあるのか?対象とする層を絞れないことがあるようです。どの層を対象とするのか、法人か個人か、個別の顧客か集団におけるバリューチェーンを対象とするのか?個人なら高齢者か若年層か? 独身女性か子育て世代かダブルケアか?世帯単位か複数世代をまとめるのか?などなど切り口はいくらでも出てきます。

しかし、これらは従来からあるセグメンテーションの考え方で、今日ではもっとマイクロ・セグメントして、マスカストマイズしないとビジネスモデルが成立しません。そして、ワイルドアイディアの中から可能性のありそうなサービスを試行してみることになります。ヒットアンドアウエイ戦略ですから、金融機関にはもっとも不得意な行動パターンです。それを金融持株会社傘下のベンチャーやECが担当することになるのでしょうが、所詮、大きな組織におけるアドホック組織です。5年、10年経った後に、どのような姿になっているか、想像がつきます。ベンチャーにやらせておいて、成功したら買収するという戦術の方が成功率は高そうです。

Fintechの対象サービスは、決済、融資、会計、資産運用管理等に分類されることが多いのですが、そこから出てくるニーズは金利・手数料、リスク制御、利便性であって、ICT化すればするほどコモディティ化します。つまり、収益確保が難しい。セキュリティをサービス基盤にするという考えもありますが、それは金融機関が得意とする分野ではありません。他業種企業を代理店として、その企業の本業を補完するFintechサービスを開発する方が、より速く具体的なサービス戦略を構築できるのではないかと、最近は思っています。銀行代理店制度では、平成18年4月に大幅な規制緩和が行なわれています。今回の業務規制緩和は、早くて平成29年施行でしょう。代理店戦略を見直した方が、速くて実現性が高いと思います。

                           (平成27年9月10日 島田 直貴)