個人向け融資のクラウド・サービス(ebsが発売予定)

日経産業新聞、平成27年8月27日号の記事です。アーネスト・ビジネス・ソリューション(ebs)が、住宅ローンなど個人向け融資販売支援ソフトの新版を9月に販売開始するという記事です。アマゾンのクラウドにも対応して、初期投資額を5分の一に抑え、IBMなどIT大手を通じて販売すると書いています。

筆者はebs社と親しくしており、当該ソフトeSCOFI(エスコフィ)も良く知っているのですが、改めてebsの公表資料を見てみました。

http://www.earnest-business.com/File/eSCOFIV30_201509.pdf

eSCOFIは販売支援というよりは、勘定処理を含んだ個人ローンの総合パッケージです。日本には、個人ローンの総合オンライン・パッケージは、余りありません。しかも、特定のユーザー向けに開発したものを、転用販売するので、リファレンスとしては有効ですが、大幅なカストマイズが発生するのでパッケージの意味をなしません。3割以上カストマイズするのなら、全面的に新規開発した方が速い。その点で、eSCOFIは、整然とモジュール化、テーブル化されており、カストマイズも稼動後の保守も大変効率的です。大手銀行やネット銀行などで長年の実績もあります。

新版は、インフラを変更してTPモニターをWebSphereMQないしはOracleAQへのリクエスト方式とし、オープンソースのGNU COBOL、WebサーバーにはApache Foundationなどを採用することで、ライセンス費用を抑えつつ、仮想化環境での稼動を可能としました。その結果、AWSなどIaaS上で動かすことが可能になったということです。技術仕様からすればAWSでなくても良いのですが、動作確認ができており、費用やセキュリティ等から判断して、AWSを推奨することになったようです。

アプリケーションは、住宅ローン、目的ローン、カードローン、外貨ローン等に関して、申込み、承認、実行、条件変更、完済まで一連のプロセスをカバーします。クラウドを使ってシミュレーション機能や海外での利用にも簡単に対応できるそうです。価格はオンプレかクラウドか、全ローン商品か個別商品かによって異なりますが、住宅ローンをクラウドで提供する場合の最少構成で、初期200万円、月額20万円(訂正:当価格はシミュレーション機能の価格で、住宅ローンの場合は初期1千万円、月額120万円からが正しい価格で、訂正させていただきます。)と極めて安く設定されています。オンプレの総合個人ローンであっても、ソフトが3千万円超として大手銀でも億円単位で済むでしょう。少し以前に、ある大手銀に住宅ローンだけで200億円と見積もったベンダーがありましたが、それに比べると、導入費用、運用費用、リスク、業務変更の容易性等、比較になりません。

金融機関が採用する場合の問題としては、規定集や操作マニュアル、審査モデル、外信接続、リスク管理、対顧コールセンターなど周辺業務のシステム化をどうするかということでしょう。周辺システムの方が本体のeSCOFIより相当高くなりそうです。また、金融庁免許事業者にとっては、バックアップやBCPのコスト、クラウド利用におけるセキュリティと外部委託先管理が大きな課題として出てきます。ノンバンクには、そうした制約がありませんのでコスト、スピードにおいて金融機関は、競争劣位から抜けられません。eSCOFIのような製品が続くと、こうしたハンディキャップはますます大きくなります。怖いことです。匿名化など対策が必要です。

最近、金融関連株式の運用を担当する機関投資家やアナリストと話をすることが増えているのですが、毎回のように聴かれることが、どうしてローンやカードのシステムはこんなに高いのだ?年間100億も利益がでない会社がITに数100億円も使うことをお前はどう思うかと聞かれます。「某大プロジェクトで相場が1千億円単位になってしまったのです。実需よりも、幾らかけるかでシステム刷新計画を作っています。適正なベンチマーク価格がないからでしょう。」などと言って、誤魔化しています。新国立競技場建築費が検討を重ねるにつれて3千5百億円となり、そこから削りに削って2500億とした。だからこれ以上安くは作れないと思いこんだ某官庁役人達を笑えません。

最近、また、住宅ローンの融資額が増加しているようです。メガは縮小一途ですが、地域金融機関が頑張ってしまっている。確かに住宅新築数も持ち直しています。しかし、マクロ的、長期的に見れば怖いことこの上ありません。個人ローン以外にトップラインを伸ばす術がない地域金融機関の現状を考えれば、個人向けローン・システムでは、コストを抑えて変動費化し、サービスの拡大と縮小を迅速に行なえるようにすること、外部専門業者との柔軟な連携などが不可欠です。また、審査スキルをあげて、少しでもプロパー融資比率を高めることが重要です。

個人向け融資では関連する業務やシステムが多様です。その本丸である基幹システムが、これほど安く、速く作れる時代になったことは、金融ITの今後の方向を示しています。しかし、伝統的金融機関は、検討するとしても長い時間と労力をかけることでしょう。3ヶ月で動かせるシステムを1年以上かけて検討することに疑問を持つべきです。5億かけて十数年使うのか、1億で5年間使うのかという時代です。この事業分野では、スピードを重視して信用情報と与信ノウハウを蓄えながら、顧客基盤を抑えることが重要です。前回、当コラムでBimodal化の必要性を書きましたが、個人ローンの世界は、ウォーターフォールITの世界から、アジャイルITの世界に移行しつつあると認識すべきでしょう。

                               (平成27年8月30日 島田 直貴)