ビットコインのその後と東京地裁の判決


昨年の前半は、ビットコインの話題で持ちきりでした。筆者も各方面から執筆や講演の依頼を受けて発信を続けたのですが、自分自身は、どうも妙な動きだと違和感を感じていました。というのは、MTGOXの破綻に端を発して、仮想通貨を通貨として認めるか否かの議論に終始し、古式豊かに貨幣論をぶって仮想通貨を全面否定する人と、社会のイノベーションだとして普及促進を唱える人に二極分化した議論ばかりでしたから。筆者は、当面は試行錯誤しながら、最終的には利用者が判断する。その判断に必要な注意点だけ示しておけばよいとの考えでしたし、今でもそうです。

平成27年7月31日に警視庁は、MTGOXの仏人社長を電磁記録不正作出・同供用容疑で逮捕しました。MTGOXのコイン消滅がサイバー攻撃によるものではなく、同容疑者が取引システムを不正操作して詐取した疑いということです。昨年の議論の中では、誰もその可能性を指摘していませんでした。

8月6日には、MTGOX破綻により損害を受けた人が、同社管財人を相手にビットコインの返還を求めた訴訟で、東京地裁が判決を下しました。仮想通貨には所有権が認められないのが民法の定めだとして、原告の請求を棄却しました。え、どういうこと?というのが多くの人の印象でしょう。判決によると、所有権を主張できるのは、排他的に支配できる有体物を対象とする場合であって、仮想通貨には排他的支配の実態がないとのことです。原告は、弁護士を立てずに自ら訴訟を進めたそうです。裁判は一般常識で判断するものではなく、あくまでも法理論に従って判断されます。その為の理論武装や法廷戦術が不足したのでしょう。裁判は、極めて技術論的なものです。

しかし、所有権を認められない仮想通貨では決済や経済的価値の流通性を確保できないではないかとの不安が出ます。債権論に基づく損害賠償請求であれば、別の結果が出るのでしょうが、それはMTGOXと利用者の契約条件次第となります。今、世界で広まりつつある仮想通貨とは、随分と脆弱な約束ごとなのか?つまるところは、法律が社会の変化についていけないということか。それならば、ロシアや中国のように、仮想通貨の取扱いを禁止した方が、社会的合理性があるのではないか。自民党と政府は、昨年の春に、仮想通貨を通貨でもモノでもない、新しい概念として価値記録媒体であると定義した上で、既存の業法の範囲外のものとして銀行など業法で規制を受ける業者の取扱いを認めないとしたまま、何ら動きをみせずにいました。

ところが、犯罪組織やテロ集団が、資金移動やマネロンに仮想通貨を使う事例が増えてきて、今年6月のエルマウ・サミットでは「仮想通貨及びその他の支払手段の適切な規制を含め、全ての金融の流れの透明性拡大を確保する為に更なる行動を取る。」と首脳宣言に盛り込まれました。同月にはFATFも、「各国は、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、登録・免許制を課すとともに、顧客の本人確認や疑わしい取引の届け出、記録保存の義務等のマネロン・テロ資金供与規制を課すべきである。」というガイダンスを発表しました。各国は、仮想通貨の規制方法を早急に準備することになったのです。

このことは、仮想通貨業者にとって悪い話ではありません。むしろ、国際的な共通ルールと国による規制と監督により、仮想通貨の信頼性を確保できるので、普及促進効果が期待できます。金融庁は、金融審議会の決済高度化WGでの討議テーマの一つに仮想通貨や新しい決済手段に対する規制のあり方を提起しています。そうそう簡単に結論がまとまるとは思えませんし、各国の歩調と合わせる必要もありますので、今年は基本方針を定める程度で、来年一杯かけて詳細な規制案を固めて法律を制定する。その後、政省令案を作って、パブコメを募集、反映してから公布という段取りになるでしょうから、29年度からの制度開始というのが、今のスピード感でしょうか。

銀行界には仮想通貨を組織的に検討する動きは全くありません。別会社を作ってやらせるとか、仮想通貨業者と提携するとかの動きもありません。米銀などには、P2P決済手段としてサービス提供するところもありますが、日本では顧客ニーズがないとの判断なのでしょう。確かにビジネスボリュームとしては歯牙にかけるまでもない規模ですし、どこかで成功事例が出るまで待っても遅くはないかもしれません。普及すると、銀行にとって決済手数料が大きく減るリスクも嫌でしょう。でもそれで、良いのか?仮想通貨は決済手段で終わるものなのか。値上がり期待の投資商品化は拙いとしても、クロスボーダーの資産管理手段とはできないのか?新しい使い方は、やはりFintechベンチャーのアイディアや技術力に依存せざるをえないのか?規制の動きと合わせて、銀行界の柔軟性とチャレンジ力が試されるのが、仮想通貨かもしれません。

                                 (平成27年8月10日 島田 直貴)