日本再興戦略と垂直統合産業の将来


政府は平成27年6月30日に日本再興戦略改訂2015を閣議決定しました。全国紙各紙は、肝心の規制改革が不透明だ、具体性に欠ける、総花だとかで余り好意的な報道をしていませんでした。ただ、行政の総司令部である内閣が決めた方針ですので、全行政当局は最優先の施策として実行に努力します。予算や制度もそれに合わせて変更、執行されますので、無視するわけにはいきません。金融関係で言えば、無担保無保証による事業性評価融資や地域創生金融、そして、金融審議会で議論されている決済サービス高度化などが該当します。

ただ、その具体的施策の殆どは、再興戦略の基本方針からトップダウンで展開されている訳でなく、各省庁が既に手掛けている、或いは、計画している施策を抽出して、基本方針のカテゴリー別に仕訳けしただけと思われているので、再興戦略を全て精読する人は限られます。筆者も都合のよい所しか読みません。つまり、行政官やITベンダーが、「再興戦略で決まっているので云々」と言っても全く説得力はありません。

マイナンバーやサイバーセキュリティといった国策テーマがあるので、安倍政権の再興戦略では、随所にIT関連の施策が組み込まれています。その殆どが経産省所管なので、安倍政権の政策は財務省ではなく、経産省が作っていると言われるのでしょう。問題は、施策に予算をつけても、単なる助成金に終わりますし、助成金に頼るような産業や企業が成功した例がないということです。とはいえ、最近、余りに多くの行政官が再興戦略を参照するので、公開資料全体に目を通してみました。

内閣官房が公開している資料「日本再興戦略改訂2015」や「改革2020プロジェクト」などです。以下に関連する目標というか、希望なのか、計画なのか、方針なのか判りませんが、抽出してみました。所管官庁は関連する制度、施策、予算などを作成して、遅くとも来年までには着手することになります。民間である我々は、それを利用して、IT産業の活性化と利用企業や個人のIT活用を促進することに参加することになります。基本方針でITが関わるのは以下のようなものです。

◇イノベーション・ベンチャーの創出(シリコンバレーとの架け橋プロジェクトや大学間競争の促進)

◇第四次産業革命の推進(IoT、ビッグデータ、人口知能,サイバーセキュリティ対策)

◇ローカルアベノミクスとして地方のサービス産業活性化とITの活用

◇改革2020として官民プロジェクト(自動走行、先端ロボットがIT関連、他に水素社会、観光地経営、対内投資促進)

現在、国会に上程されている個人情報保護法とマイナンバー法の改正案や既に成立した電気通信事業法改正などは、第四次産業革命の推進策の一部と位置づけられています。新たな改革としてIT関連教育やモバイル分野の競争促進、IT外国人材を2020年までに倍増して6万人にするとかが並んでいます。

以前の成長戦略と違うと思うのは、人材や商慣習などソフトの要因に目を向けていることです。筆者は昔、マッキンゼーの7Sというチェックポイントを見た時に、自分がやっていた営業企画や営業推進の仕事が余りに不十分であることに気付き、ショックを受けました。その7Sとは、SurroundingGoal、Startegy、Structure、System、Staff、Style、Skillでした。今は少し修正されているようです。

それを自分が日本企業に提言する為に少し追加修正して、ビジネスシステムの主要8要素として使ってきました。@目標 A戦略 B組織 C手順 DITシステム E評価制度 Fスキル G組織文化の8つです。そして、@〜Dをハードな要素、E〜Gをソフトな要素としました。ハード、ソフトは外から目に見えるか否かで区分しています。問題は、ハードが命令とお金で簡単に変えられるのに対して、ソフトを変えるのは難しく、時間がかかる。ソフトはハードよりハードだということです。そして改革運動は、ソフトな要素によって成否が分かれることが多い。

行政機関や金融機関は、特にソフト要素が堅固に確立しています。それを変えようと、多少のショック療法や成功事例を強引に実施しても、頭の良い人達はすぐに見破ってしまう。自分達が変らないで済む為の理屈を対抗できないほど羅列してくる。要は、ゴールを共有するしかないのですが、これが難しい。銀行でいえば、メガは海外事業でチャレンジするしかなく、今はそれに追い風が吹いているので、変革のチャンスです。地域金融機関は地域創生がゴールなのでしょうが、それに必要なスキルが余りに広範囲で抽象的であることが悩みです。また、海外事業と違って短期間で飯のタネになり憎い。

さて、IT産業はとなると、製造業とサービス業混在なので、意外と難しい。再興戦略に沿ってIoT、ビッグデータ、人口知能等に力をいれるのは良いとして、それだけでは、今を喰えません。やはり、インダストリー4.0日本版なのでしょう。それも、それら新しい技術を活用する為のインフラがビジネスとしては大きい筈です。迂闊に、電子政府化などに力を向けてしまうとオリンピック景気と同じで、リバンドが怖い。売上の反動を保守運用費で吸収せざるをえなくなり、コストが高止まりしたままで、変革も止まってしまう。これが成功企業の罠となります。変る為には何かを捨てなくてはならないのに、そのタイミングが難しい。IT産業にとっては、ハードとSIがそれでしょう。

トヨタが凄くて、他社が簡単に真似できないことは、改善という変化をビジネスシステムに組み込んでいることです。トップが目標を示して、組織がそれに合わせるのは本当に難しい。垂直統合で固定化されている日本の金融界とIT業界は、水平分業とオープン化を前提とした産業の将来イメージが描けていません。結果として戦略も作れません。

昔、ある大手銀行に若手中心の「21世紀の自行像を描く」というプロジェクトがあり、講師として呼ばれたことがありました。「御行に21世紀はない。」というテーマで話をしたのですが、終始、漫才のような議論となり切迫感は皆無でした。その銀行は何年もせずに、国の支配下に入りました。ドラッカーの「変化とは捨てること。」「今から始めるとして、それは必要なのか、重要なのか。でなければ捨てなさい。」を思い浮かべます。変化を嫌う組織の言い訳は、「それを変えると顧客に迷惑がかかる。」です。迷惑をかけない方法を探しもしません。

                             (平成27年7月30日 島田 直貴)