欧米におけるFintech動向 (アクセチュアのレポート)

メディアがFintechの記事を掲載する時に、アクセンチュア資料としてFintechに関する投資額を参照することが多いのですが、筆者はその資料を見ていませんでした。いつも、120億ドルの投資が行なわれていると書かれます。必要があってアクセンチュアのサイトで、その根拠を確認する為に調べてみました。

http://m.accenture.com/jp-ja/Pages/insight-future-fintech-banking.aspx

この金額は、財務データ調査会社CB Insights社のベンチャー企業向け投資額調査からFintech関連ベンチャーを抜き出したもののようです。そのFintech関連企業とは、銀行業務や企業財務、キャピタルマーケット、財務データ分析、決済、個人向け財務管理等に関する技術を提供する企業と定義されています。日本のメディアが書くような銀行業務に直接関連する業務よりは、数段、広範囲であることが判ります。更に、投資額には、M&AやIPOを含んでおり、例えばレンディング・クラブがNYSEで8億6500万ドルを増資したとか、ファースト・データがKKRから35億ドルのプライベートエクイティ増資をしていることを見ると、120億ドルという数字の一人歩きは誤解を招きます。やはり、原典を確認しなくてはいけませんでした。

このレポートは、今年3月26日に同社が主催したロンドン先進テクノロジーラボの会合で発表された「The Future of Fintech and Banking」とういう題名のレポートで、日本では今年6月5日に和訳公開されています。随分と前に公表されているのに、これまでメディアの書く120億ドルという数字見て驚いていたことを反省した次第です。

このレポートで感心したことは、扇動的な表現は一切なく、使用する数字には必ず注釈等で根拠を示していることです。また、主要な金融機関のCIO等IT責任者25名を対象に調査した結果をインサイトとして参照しています。これが大切です。将来の見通しとして二つのシナリオと銀行がデジタル時代の勝利者となる為の3つの行動指針をあげています。どれも至極もっともな内容ですし、その説明は深く考えた上でのものです。米国では、Strategic ThinkingとDeep Thinkingが今でも当り前なのだと安心しました。

シナリオは、1.既存の銀行がデジタル革命で破壊される。2.銀行は事業目的を拡大しつつビジネスモデルを再構築する。の二つですが、1が自行におこり得ると考える金融CIOはいないものの、今のサービスが複雑かつリスクが高過ぎ、規制面でも新規参入者に比べて不利であることが脅威だとしています。勝ち残る為の指針(原文の方が正確なので原文で)は、1.Act Open 2.Collaborate 3.Investの三つです。詳細は、アクセンチュアのレポートをご覧ください。 

銀行による幾つかの事例も紹介されていますが、どれも、APIやコラボレーション・ツールに関するもので、代表的なケースとしてビットコインのブロックチェーンをあげています。これはアルゴリズムと言えるでしょう。日本のような小口決済サービスやモバイル・アプリUIなど小粒な話は出てきません。コラボにしても表面的な話ではなく、最大の課題として企業文化をあげています。これを認識しているか否かは大きな違いです。ベンチャーを出資等で取り込んでも、銀行の確実性や安全性を唯一無二とする文化ではベンチャーの良さが消えてしまいます。自民党財金部会が、ビットコインなど仮想通貨を銀行にやらせたら、駄目にするだけだと指摘したように、銀行界以外から見れば、銀行文化はイノベーションの真逆にある。その壁をいかに破るかが、最大の課題であることを認識する必要があります。そして、その銀行の資金とブランドを頼りにするようなベンチャーにイノベーション力があるのか疑問です。

米アクセンチュアは、2010年にNY、2012年にロンドンでスタートアップのフィンテック企業支援を目的とする先進金融テクノロジーラボを設置しています。2014年には、香港とダブリンにも同様のラボを作っています。昨年秋から慌ててブームを作る日本より随分と先を行っています。ドッグイヤーで考えると、それ自体が古い概念となりましたが、4年の差は余りに大きい。わが国でも大手、中堅のIT企業が同様のプログラムを開始したり、シリコンバレーにリエゾンを置き始めましたが、彼我の差を埋める強みがわが国にないのが実態です。富士通のように米国拠点をFintechベンチャーとの交流の場とするのは、ラーメンや寿司ばかり食べているリエゾンより数段マシですが、そこで得た情報やインサイトを国内で活用できるのかが次の課題となります。

金融庁が主導する金融サービス革新運動は、政府の日本再興戦略が基盤です。再興戦略はグローバリゼーションと地方再生(創生)という、相反するベクトルを盛り込んでいます。コモディティであればグローバリゼーション一本でよいかもしれませんが、非コモディティの世界には、ローカリゼーションが不可欠です。金融業界が大井川の渡し人足にならないように、我々は金融サービスのグローカリゼーションとデジタル化の将来イメージを追求しなくてはなりません。日本で難しいのは試行錯誤が許されない世界だということです。ニッチから始めるのも一法ですが、数打って1本当たれば良しとするしかないので、経営トップの決断次第となります。さしてコストのかかる話ではありません。メガバンクは法人向けから始めるか、個人向けで挑戦するか迷っているようです。筆者は事業性個人や富裕個人とのコミュニティ作りから始めるのが良いと思っています。

                              (平成27年7月28日 島田 直貴)