金融と技術の融合

日経新聞が平成27年7月15日から新・金融立国☆☆アメリカ☆☆という連載をしていました。第1回はリーマンショック後の金融規制改革(銀行からすれば強化にすぎないが)の中で金融と情報技術の融合が改革を推し進めている。モルスタCEOから金融ベンチャーに転じたジョン・マック氏の「シリコンバレーで起きている金融革新を知ったら銀行経営者は眠れなくなる。」という台詞に、この連載に対する強い期待を持ちました。

第2回では、SNSの利用状況を与信基準とするソーシャルレンディングや若者向け証券会社などを簡単に紹介しながら、シリコンバレーが西のウォール街になりつつあると結んでいました。金融とITの融合で金融革新を進めるというテーマは日本でも大きな命題なので、ますます、役だつ情報を期待したのですが。第3回はアクティビストの動向紹介に終わり、第4回は草の根金融の紹介でして、米国では学生ローン残高が150兆円で過去10年に4倍となったが、延滞額も16兆円だという数字には驚きましたが、それで連載が終了してしまいました。何とも食い足りない印象だけが残りました。

そして、自分はこの連載に何を期待したのかと不満が自分に向かってきました。すぐに転用できるアイディアを求めたつもりはないのですが、何か使えそうな情報を期待したことは確かです。自分で考え出そうとせずに、他人のアイディアに頼って、自分も典型的日本人だと少々落ち込んだ次第です。

メディアは電子決済など新しい(新奇というべきか)動きを大きく報道します。あたかも世の中が丸々変わるかのように。しかし、スマホ決済などが我が国や米国の全決済金額に占める比率は1%にも満たないことは書きません。そして、新しいサービスが直線的に、又は、級数的に伸びるかのように、読者に思わせます。新聞に書いてありましたねと、世間話ならそれでよいのですが、金融経営者にとっては、さしたる判断材料になりません。迂闊に乗れば、部下からの信頼を失いますし、場合によっては業績に悪影響を与えます。

ところで、金融サービスを革新する最近の技術とはどのようなものでしょう。米国では、数年前からモバイルとクラウドの影響が大きいとされています。最近では、IoTの影響も注視されています。しかし、具体的にどのようなサービスが可能で、それがどれほどのスピードと影響力を持つのかは誰もわかりません。我々、コンサルタントなどは、小さな事例を列挙して、金融が大きく変わると言います。その意味で先程嫌味を書いたメディアと同じです。メディアと違うというならば、我々は新旧の物理モデルと論理モデルを示して、新物理モデルの実現性と影響範囲を客観的に示さねばなりません。それを、現物理モデルの欠陥を指摘して新論理モデルのイメージを示すだけでは、金融機関の経営者を納得させることができません。しかし、これは従来のビジネスモデル設計や我々、旧人類の思考論理のようです。

先日、HTML5等の開発ツールや開発技術で先行するIT企業を講演依頼で訪問しました。オフィスの雰囲気も社員の服装、物腰など全てが我々世代とは別世界でした。その後日、講演を聞いて、更に、別世界だと痛感しました。Webの世界では、スピードや投資規模が桁違いに異なり、開発手法もアジャイル中心だと承知しています。驚いたのは、ある程度の品質でプログラムが出来たらリリースしてしまい、利用者からのクレームを反映して改良を重ねるということです。従来の銀行には全くない発想です。緻密なカットオーバー基準を定めて1年も総合テストを繰り返すなんて、モバイルの世界では考えられません。モバイルでは利用者を開発に参画させると言えば、好意的に過ぎるでしょうか?

そのモバイルに向く金融アプリケーションは何があるでしょうか?筆者は、残高照会と顧客とのO2Oコミュニケーションが良いと勧めます。残高照会をモバイルにシフトすれば、既存のIBシステムの負荷は9割減となります。相当なコスト削減になる筈です。それとO2Oコミュニケーションを通じて、クロスセルの可能性が高まります。90数%が不採算客とされるのがリテールバンキングです。コストを抑えつつ、モバイルでマーケティングとセールスを行うことで採算顧客率を5%でも10%でも上げられれば、大きな成果となります。マーケティング関連の社内提案をIT部門から上申することは難しい。それは、営業統括とか業務統括と言われる部門のミッションです。つまり、今の金融機関組織構造には、技術革新をビジネスに取り込む仕組みがないということです。行政当局もそれを知っているから、経営陣にITへの参画を求めているのでしょう。

そこでFintechが注目されることになります。先日の日経新聞の小さな記事ですが、FIntechとはITを使って新しい金融サービスを開発するベンチャーのことだと書いていりました。確かに、Fintechベンチャーという表現は使われますが、思わず、いい加減な定義変更を大新聞がするんじゃないとクレームしたくなります。以前にも書きましたが、我が国ベンチャーの多くは、単発的な新サービスのアイディアだけです。ある意味で一発芸人です。その点、米国での成功事例を見ると、必ず、ビジネスモデルとしてサービスと技術を組み紺でいます。勿論、失敗事例は山のようにあります。ビジネスモデルも新サービスも思いつかないから、金融素人のベンチャーを頼りにするというのは情けない気がしますが、リリースありきのIT時代に対応するには、ベンチャーに試行錯誤させるのも良いかもしれません。

日本で講演をする時、評判が良いのは、具体的事例で詳細な内容を話すことです。画面のサンプルやコード体系を示せば、大いに喜ばれます。同じ話を米国でやると酷評されます。お前は俺をバカにしているのか、そんなことは自分で考える。全体の構造や仕組みを示して、長所短所を説明しろ。自分で経験があるのなら、そこから学んだことを紹介しろときます。この文化の違いが、若い人がやるベンチャー企業にも出ているような気がします。

さて、モバイル、クラウド、IoTといった技術を使って、どのように新しい金融サービスやビジネスモデルを作ればよいのでしょうか?やりながら考えるで良いのか、どの程度まで事前に詰めるべきなのか?恐らく、その基準はありません。これからの金融ITは基準のない世界だということなのでしょうか?それでは、少々、無責任にも思えます。やはり、狙う市場セグメントの特性から、許容される時間、費用、陣容を限って、その範囲内でアジャイル的に試行錯誤する。そのときに、利用者からの厳しいフィードバックを覚悟しつつ、最低限の品質ラインを定めておくのでしょう。

金融機関の財産である業務堅確性は、そうそう安易に放棄するわけにいきません。しかし、生き残りには変化対応力も必要です。業務堅確性は維持したが衰弱死したというのでは笑い話にもなりません。ニッチのセグメントを抽出し、そこにβ版として新サービスを提供することで、革新と堅確性を両立させる方法もあるでしょう。

                                   (平成27年7月20日 島田 直貴)