マイナンバー関連調達と入札制度

今年の10月5日にマイナンバー制度が施行されます。通知カードが配布され、来年からは個人番号カードへの切り替えが開始され、税務処理などに共通番号の記載が義務付けられます。メディアでは、マイナンバー制度の普及に向けた、個人番号カードやマイポータルへの付加サービス追加案が連日のように報道されています。しかし、システム対応に携わる人達からは、期限が守れそうにないとの声が聞こえてきます。技術者不足もありますが、詳細仕様が決まらない、または、決まってはいても余りにも遅すぎた、予算措置が伴わないなどが理由です。

報道では枕言葉のように3兆円の特需だというのですが、そんな楽観的な話は現場から全く聞きません。第一に、中小企業や一般個人の関心が全く高まらない。中小企業で年内に準備できる企業は10%未満です。個人に至っては自分が関係すると思っている人は20%前後だそうです。そもそも通知カードを発送して、本人に届く率はどのくらいあるのでしょう。通知カードを受け取っても、個人番号カード発行申請をして、役所に本人確認と暗証番号登録に出向く、それも、平日に行く人がどれだけいるのか?金融機関としては、当面は通知カードで面倒な本人確認をしなくてはならない時期がいつまで続くのか?そこに、年金機構のようなトラブルが出てくるとセキュリティの見直しや対策の手直しが発生する。こんな事案はまだまだ続くでしょう。

第二に、約1800ある地公体で準備が間に合う役所がどれだけあるのか?地公体のITコンサルをしている知人の話では、半分もないのでは?というのです。地公体は、平成29年7月の情報連携開始に向けて、テスト期間15カ月として、平成28年3月までにシステム整備を行なうというのが政府の計画です。その内容は、税務システム、社会保障関係システム、住基システムの改修と追加です。税務関連は国税が早め早めに仕様をまとめましたので、準備が進んでいるようですが、社会保障関連は混とんとしているそうです。業務の複雑性もあるのでしょうが、担当省庁の能力差が歴然と出ていると感じます。

地公体、中小企業、個人で期限までに対応できない場合は、どうなるのでしょう。多くの場合は、新旧の二重処理となるのでしょう。ただ、税務関連は役所側の準備は間に合いそうです。しかし、番号提供側の問題で記入不備の書類が大量に発生します。税務署が受けてくれるでしょうか?書類不備で突き返されて、番号収集をやり直してから、再提出するとして、延滞金や課徴金が発生するのでしょうか?金融取引の利子や配当、給付金など、金融機関が介在する場合、金融機関と顧客との間でトラブルになるでしょう。その上、金融機関は共通番号収集態勢を何年も維持することになりそうです。

第三は中央省庁のシステム準備です。入札までは何とか進めているようですが、開発は順調なのでしょうか?入札段階でもいくつかトラブルが発生していました。落札したベンダーがその後で辞退したこともあります。業務要件やシステム要件が入札仕様と異なることが理由のようです。符号管理や関連システムとのインタフェースを担当する情報提供ネットワークシステムやマイポータルなどに、未来構想のニーズが多方面から寄せられます。仕様は大丈夫でしょうか?元々が相当に複雑なシステムなのに、途中で仕様変更をやたらと求められても対応できる訳がありません。特に、現行システムの大幅改修となる社会保険、ハローワーク、労災、医療など厚労省関連は大変なことだと思います。

最近、韓国の入札制度に関する資料を見ました。韓国政府のIT分野における調達制度を説明するもので、契約方法の分類や各方法の原則、資格要件、入札タイプの採用基準などをまとめています。日本と大きく異なる点は、調達側にシステム開発のスキルのある要員がいることが大きいのですが、制度面では、@技術と価格の評価比率が9対1です。日本では多くの場合、5対5なので、余り差のつかない技術評価に殆ど意味がありません。結果、安いのだが動かない、品質が悪い、あげくは保守メンテでしっかり回収されるということになる。

A技術評価にも工夫がなされており、韓国では外部の有識者による第三者評価があります。日本でもこうした第三者評価を採用しようとの意見がありましたが、適当な有識者がいない。元大手ベンダー在籍者や学者が候補になるでしょうが、学者も特定ベンダーと関係を持つ人が多いし、実務経験は殆どない。結局は、コンサルを使った○×評価になるのですが、そのコンサルが次工程落札業者の下請けとして大きな金額を受注することすらある。

B案件規模によって大手SIerの参画を制限して中小企業の受注機会を広げる工夫がなされています。これも日本では実効性が危うい。中小SIerの多くは大手ベンダーから継続的な受注を受けており、元請ベンダーの影響から抜けられない。こうした関係を長く続けることで、中小ベンダーでは、プロジェクト管理能力や運転資金力で独立性が失われる。

こうしたピラミッド構造にわが国のIT産業は固定化されてしまっています。その頂点にある大手ベンダーは、数百万や数千万円といった案件には、手出ししない。逆に、大型案件を一つでも失うと会社全体の業績が大きく減衰してしまう。だから現在の仕事を守ることに注力する。こうして新しいチャレンジによって、より速く、安いシステム作りをするインセンティブが消えていく。この構造を変えるには、マイナンバーのような国家プロジェクトが良いきっかけになる筈でしたが、そんな時間的余裕はなくなってしまいました。

IT産業改革の切り口としては、経産省や総務省主導のプロジェクトでは駄目なようです。どちらもユーザー視点ではなく、ベンダー視点だからです。財務省のような他省からの横槍に動じず、ITスキルはなくともプロジェクト管理をできる人材のいる役所が、有望な中小SIerやベンチャーを活用して、大手ベンダーが青ざめるような費用、コストで素晴らしいシステム構築、運営をしてみせるしかないと思います。財務省には、それに適した業務がふんだんにあり、それらに博物館並みの古いシステムを使っています。財務省をIT入札特区にするような仕組みを考えたいものです。その時に、韓国の入札制度などが参考になるでしょう。

                                   (平成27年6月30日 島田 直貴)