米国モバイルバンキングとチャネル戦略 (大手米銀の動向とFRB調査)

現在、大手米銀には規制強化対応と並んでモバイルバンキング(MB)が最大のテーマだそうです。バンク・オブ・アメリカは5月6日にシャーロットで年次株主総会を開催しました。そこで、ある株主がモイニハンCEOに質問したそうです。「家の近くの支店を使うのだが、行員が減らされて、今ではテラー1人とドライブイン担当者しか顧客対応者がおらず、店の外にまで客が列をなしている。ほかの店に行ったが、同じ状況だった。こんなことでは、客が逃げてしまうと思わないか?」それに対してモイニハンCEOは、「テラーラインはモニタリングしており、適切な人員配置を行なっている。むしろ、MBユーザーは1700万人となり、こうした劇的に変る顧客の行動パターンに応えるのが、当行の基本原則です。」シャーロットの地元紙が報じたそうで、筆者は知人からの又聞きです。

実際、BOAは昨年に300店とATM500台を撤去する一方で、MBユーザーが200万増えて1700万人となっています。それでも店舗数は6千強、ATMは1万6千台弱あるというのです。国土がいくら広いとはいえ、BTMUの国内750店、ATM9千台弱と比べると、随分と緻密な拠点網でさぞかしコスト負担が重いだろうと判ります。ATM台数が少なく見えるかもしれません。米国ではCirrusやPlusのような巨大な提携ATM網があるので、自前ATMの台数を絞ることができます。米国でブリック&モルタル拠点が多い最大の理由が小切手です。長年、政府と銀行は小切手の電子化を図ってきたが、なかなか進まずにいました。それを大きく変えつつあるのが、スマホによる小切手処理です。手軽に処理できて窓口に並ばずに済むので好評です。大変な勢いでMBが広がっています。これに関しては、当コラムでも何度かご紹介しています。

ところで、BOAのライバルであるウェルス・ファーゴですが、BOAとは異なるチャネル戦略です。同行もMB顧客が19%増えて、昨年末に1490万人となりました。全取引件数の38%だそうです。しかし、店舗は4店を閉鎖しただけで6173店舗を維持している。ATMも、減らすどころか増やして12,822台ということです。同行の説明によれば、「お客は支店を使うのが好きなようで、来店数は減っていない。また、当行は支店を閉鎖してコストを減らさねばならない状況にはない。」とBOAに対する嫌みすら言っています。そして、MB化によってで来店客が急減するという一般的な観測は、同行には当てはまらないとも言っています。

ウェルス・ファーゴの現状認識の正しさは、FRBが5月に公表した調査「Consumers and Mobile Financial Service 2015」によっても裏付けられます。この調査レポートに関するコメントは次の機会に譲るとして、MB利用者の銀行チャネル利用動向は次のようにまとめられます。月5回MBを使うが、その一方で、95%の人がIBを月6回、92%がATMを月3回、36%がテレフォンバンキングを月2回、85%が月2回支店窓口を使っているということです。

この状況からすると、MBを含めたダイレクトチャネルは、支店業務を減らすというよりは、顧客サービスを向上させるツールだということです。ですから、コスト削減を狙ったチャネル戦略よりも、新規客獲得、既存客の深耕に目標をおかないと、とんでもない経営判断ミスを犯すことになります。結論からすると、多様なチャネルを商品やサービス内容別に揃えて、それをカスタマー・セントリックに連携させる必要があるということです。いわゆるオムニチャネルの考え方です。

次に問題となるのが、クロスセルで頑張っても、収益性の出て来ない客層が相当な規模であることです。その層を切るのか、または、手数料徴収や他産業との提携による新規手数料ビジネスを開拓するか、公共性を名分としてこの層での赤字を優良顧客による収益で補完するかの経営判断が必要となります。日本では客を切れないでしょうし、一行が先行して口座維持手数料をとるなど不可能でしょう。とすれば、非収益客には単純な商品とサービスの提供に留めて、優良客に付加価値の高いサービスを提供することになります。ただ、西欧大手行のようにマスリテールから撤退、ないしは縮小して富裕層ビジネスに特化するといった選択肢ではなく、数段階で顧客を分類して境目が見えないようにしつつサービスの差別化を図るしかありません。サービス差別化のポイントは、人的負担の多寡となるでしょう。そこにITをいかに活用するかというのが命題となります。

FRBの調査は、MBだけでなく、Mobile Payment(MP)に対する意識調査も行なっています。65%の個人はMPの必要性を感じておらず、利用する人は44歳以下、高学歴、高収入の人に偏っているということです。セキュリティに対する懸念が極めて強いことと、従来の決済手段に特段の不満がないことが、MPの利用意欲が高まりきらない理由です。MPを利用する人は、生活資金の効率的管理が主たる目的という印象です。メディアの報道とは大分異なり、意外な調査結果です。

MBやMPは、短期間で現存の銀行チャネルを置き変えるものではなく、営業戦略なしに他行横並びで単純に展開すると、新たなコスト増となるだけでなく、場合によれば顧客をまとめて他行へ取引変更させるビークルともなりかねません。とはいえ、これだと言い切れるチャネル戦略がある訳でなく、BOAのモイニハンCEOが言うように、変化し続ける顧客の行動様式に、タイムリーに対応することが、戦略ということになるのでしょう。その営業戦略ですが、作るのは簡単ですが、実行が難しい。コンサルや役人がいうような選択と集中は、一発退場のリスクがあります。要は柔軟な組織を作り、常に目標を共有しつつ、実行ありきなのですが、どの国でも銀行は、こうした組織文化が希薄なのが辛いところです。

                                   (平成27年6月18日 島田 直貴)