ムーアの法則 (インテルがFPGAチップのアルテラを買収)


平成27年6月1日、日経BP社ITProが「インテルがアルテラを150億ドル超で買収交渉、近く発表の見込み」と報道していました。ニュースソースは、NY時間5月29日付のNYタイムズなどです。今年3月にもこの買収交渉が報道されましたが、4月に入って交渉が決裂。ところが、アルテラの大株主が、インテルへの売却を求めるという波乱の経緯があります。結局、6月1日にインテルは167億ドルで買収すると発表しました。40ドル弱の株を60ドルで買うと言うのですから、多くの株主は歓迎するでしょう。

インテルが何故、2兆円もかけて年商20億ドル弱の製造設備を持たない半導体設計ベンダーの買収に拘るのでしょう。アルテラは、FPGA(Field−programmable gate array)という新しいアーキテクチャのチップ設計企業です。ここ数年、ムーアの法則の限界が叫ばれてきましたが、インテルやIBMなど集積回路開発企業は、様々な工夫により集積度を改善してムーアの法則を実現し続けてきました。そこに、製造技術ではなく、新しいアーキテクチャによるイノベーションを進めるベンチャーが出てきました。その技術がFPGAであり、メニューコアであり、GPUなどです。

特にFPGAは、論理回路をソフトウェア技術者でも自由に書き換えられ、画像処理、圧縮、暗号化、機械学習などの機能を高速かつ省電力で処理します。昨今のデバイスと通信の高速・高機能化とコグニティブ・コンピューティングやビッグデータ解析、IoTの普及などを考えると、集積度を上げるだけでは、今後の半導体ビジネスに対応できないと思われています。その点、FPGAは、データの入力から応答までを超高速処理できるので、従来のCPUに変ってアクセラレーターとしての役割を期待されています。マイクロソフトなども研究開発に力をいれており、Skype音声翻訳やディ−プラーニング演算などでの利用を想定しているそうです。

筆者は1971年に就社しましたが、半年後にコンピュータ・アーキテクチャの1週間合宿研修を受けさせられました。当時は、トランジスタですら黎明期でコアメモリーが良いか、ユニバックのワイヤ・メモリーが良いか、バイトかワードかなどといった講義から始まりました。中心はコンピュータ・アーキテクチャです。何故、CPUと主記憶域を分けて、その間にバッファーを置くのか、それぞれには、どのようなMPUや記憶デバイスを使うのか。記憶デバイスの高密度化と省電力や耐熱処理にはどのような技術を使うのか。全体のバランスを取りながら(これが難しくて、ただ速いだけ大きいだけでは無意味)、OSやファームウェアを使って並行処理やロールイン・アウトのアルゴリズムを組み込むなどといった講義が中心でした。専門技術的な講義ではなく、素人でも理解できるように噛み砕いた講義でした。この時のテキストは今でも自宅の書棚に仕舞ってあります。この時に教わったアーキテクチャは、今でも余り変っていません。

その1970年代ですが、電電公社の有名な方で北原安定さんという技術部門担当副総裁(データ通信・処理事業の責任者)がおられました。INS構想を打ち出したことでも有名です。正確な表現は覚えていませんが、北原氏がムーアの法則を紹介しながら遠からず日本国内のコンピュータ処理は数台のコンピュータがあれば十分となる。よって金融機関は、自前のシステムを持つ必要がなく、NTTが提供する直営オンライン(今の共同オンラインを国の機関が提供)を採用した方が良いと主張しました。当時の地域金融機関にとって電電公社は、国そのものであり、そのカリスマ的存在である北原さんの説は大きな影響を与えました。筆者は、それでは、民間のコンピュータ関連企業は全滅となるが、そんなことには絶対にならないと思いましたが、地域金融機関の人達は全く聞き入れてくれませんでした。

その北原さんですら、当時、日本にあったコンピュータの処理能力が、今ではPCサーバー1台で済むようになるとは想像していなかった筈です。ましてや、米系大手クラウド業者が1社で200万台以上のサーバーを使い回すなどとは。これからも、ますます進化すると考えるしかありません。ムーアの法則は形を変えるかも知れませんが、続いていくことでしょう。

問題は、こうした技術をいかに使いこなして、各自の目的実現に結びつけるかということです。米国のように、M&Aで時間と技術を買うという方法も必要でしょうが、2兆円で買って貰える技術を作り続ける社会の力をいかに創るかが重要です。日本政府(というよりは経済産業省)は、少額の資金提供をエサに、共同研究の仕組みを作ろうとしています。何か、北原さんのムーアの法則説が思い浮かびます。民間版のベンチャー支援プログラムも相次いでいますが、これも経産省の仕組みを民間版にしただけに見えます。そんな場に、情報と資金を求めて集まるベンチャーに独創性とスピードを期待できるのでしょうか?インテルとアルテラのM&A話から、妙な方向に考えが飛んでしまいました。本音を言うと、日本政府や大手IT企業は、新しい技術分野に口を出さないで欲しい。ビジネスモデルがまるで違うのだから、妙に入り込まれると芽が摘まれてしまいます。インテルがアルコアのスキルと技術を活かしきれるかを見守りましょう。我々は、それを使いこなせば良いのですから。

                                (平成27年6月2日 島田 直貴)