日本生命とNRIが資本業務提携


平成27年5月26日に日本生命と野村総研(NRI)が資本業務提携契約を締結したと発表しました。骨子は次のようなことです。

@日生はNRIの発行する第三者割当株を約260億円で購入してNRI株式の3.03%を保有する第8位の株主となる。NRIはこの資金をDC建設や販売用ソフト開発に使う。

Aクラウド、IoT、ウェアラブル、ビッグデータ、AI等先端技術を活用したシステム態勢を研究し、新たな保険ビジネスモデルを検討する。

この発表を見て、判るような判らないような提携だというのが印象でした。何故、NRIなのか?どうせなら外資ではないのか。何故、資本提携なのかといった疑問が湧くからです。

昔から、日生とNRIは親密な関係にあります。日生のシステム子会社NITには、他のベンダーも要員を出していますが、NRIは役員として中心的な役割を果たしています。また、非財閥系の日生としては、将来の合従連衡戦略において野村証券は最も望ましい相手でしょう。しかし、NRI株の3%を持った程度で野村本体と戦略的提携に至るとは思えません。

30年程昔、第一次AIブームの時、2泊3日のAIシンポジウムがありました。国内の大手企業のシステム企画担当者が集まって発表や情報交換をしました。その時に大手自動車メーカーや電力、鉄鋼会社とならんで日生は、花形の発表者でした。この頃の大手金融機関は大手ITベンダーに負けない程の先進技術を調査して、試行していました。今では対象技術が多様化専門化しすぎて、日生ですら先進技術を自力で入手する術がなくなったということなのか。

以前、コンサルをしていた企業で新システムのベンダーに中小規模の会社が第一候補となりました。しかし、価格がどうしても折り合いません。発注側は資金に余裕があるが、利益計画からして経費計上を抑えたい。ベンダー側は、その年は赤字が避けられないが、製品開発に資金が欲しい。そこで、両社経営者に資本参加を提案しました。双方の財務戦略に叶う提案だったので喜ばれました。見積額の半額で発注し、残りは株の代金として支払ったのです。NRIも投資資金を銀行借り入れではなく、顧客である日生から出資という形で調達したのかもしれません。ただ、この場合、他のベンダーは日生に対して先進技術情報の提供に慎重になるリスクが生まれますが。

26年度期決算発表が続いています。日生は銀行窓販や保険ショップなどに出遅れて、保険料収入額で戦後初めて首位の座を失いました。日生OBの現役経営陣に対する批判は凄まじいものがあります。現経営陣には耐えられない状況でしょう。大変な勢いで、M&Aを含めた施策を打っています。そんな中で、デジタル・チャネルやコグニティブ・コンピューティングがIT戦略の主要命題となっているのでしょう。その分野を保険ビジネスにも詳しいNRIと、一体となってIT戦略を考えたいのかも知れません。保険ビジネスに詳しいITベンダーは想像以上に少ないのです。

昨今のITは価格破壊が進むと同時に、極めて変化が速い。かつて、金融機関は、多少の遅れをとっても最後は組織力と資金力で晩回できましたが、今日では、少しの遅れが致命傷となります。顧客インタフェースを失うからです。規模よりもスピードと変わり身の速さが望まれます。これまでの金融業界の体質では、とても対応できません。大手金融機関の中にはこうした変化に気付いて、新しいアイディアを出す人もいます。しかし、社内調整に疲れ果て、スピンアウトする人が多い。そして、ブランドと組織力を失って埋没してしまう。その人達を応援する態勢や風土が日本にはありません。筆者などは相談されると、シンガポールかシリコンバレーに移りなさいとしか答えようがありません。本当は、一個人でも大手金融機関相手にアイディア勝負をさせてあげたいのですが。

5月7日付の当コラムでセキュリティに関連したコメントを書きました。その中で、「一人の天才がいれば、敵が何万人いようが勝てる。」と言いました。これは、人から聞いた台詞なのですが、その可能性が広がっていることは確かです。ただ、その一人が攻撃側であることが前提で、逆は全く成り立ちません。そこで、金融機関は実績があり、慣れ親しんだ相手と組みたがります。つまり、守りです。そこに革新が生まれるか?生まれないのであれば、30年前のAIブームと同じで、趣味の世界に留まります。

最近、提携戦略を発表する企業が増えているように感じます。以前から疑問に思っているのですが、こうした提携戦略の結果がどうなったのか、新聞は追跡取材をしません。調べる学者もいません。多くは、新聞発表して目的達成という気がしないでもありません。提携は、本業のプロセスや商品・サービスにロックインして、その成果に対する報奨制度がないと、数週間で社員に忘れられます。日生とNRIの今度の提携がどのようなフルーツを作るのか期待して待ちましょう。一年後に両者に聞いてみたいと思います。

                              (平成27年5月28日 島田 直貴)