Fintechと伝統的企業


Fintechへの関心が高まっています。平成27年5月19日に金融庁は金融審議会で金融グループの業務規制緩和に関するWG(Working Group)第1回会合を開催しました。ここでは、海外における金融業務規制の変遷を整理しつつわが国での制度変更に関する要望事項等を例示した議論がおこなわれました。翌日の日経新聞では、銀行にもスマホ決済を認める方向との大きな記事になっていました。

金融持株会社が金融関連IT子会社を保有し、グループ全体の戦略的IT展開を可能にする。その子会社ではスマホ決済等のFintechを開発、提供することを想定しており、その為にITベンチャーへの資本参加等を通じた先進技術の取り込みを可能にするといった内容です。日本では銀行口座保有者が多いので、銀行がこの種のサービスを開始すると一挙に普及する可能性があるとも書いていました。随分と古いパターンの論理展開であります。

同じ19日にITProが、日本IBMとVCのサムライインキュベーション、サイバーエージェントが提携してベンチャー支援プログラム(BlueHub)を発表したと報道していました。創業3年以内のベンチャーから選考し、IBMクラウドの無償提供、資金調達、マーケティングなどを支援し、技術的サポートもします。今回は第二弾のプログラムで、IoT関連を得意とするベンチャーを8月までに5社ほど選ぶそうです。昨年9月にはビッグデータ関連のベンチャーを選考したそうで、スマホ向け高機能GPS、SNS上の写真からマーケティングのネタを見出す画像認識と解析の技術、農業ERP、遺伝子解析サービス、チームスポーツのマネジメントアプリの5社が選ばれています。全く異なるアプリ分野であることが面白いと思います。こうした中からも、金融サービスに係わる使い方が出てくることでしょう。

5月21日の日経新聞は、富士通やNTTデータがFintech事業に参入すると報道していました。富士通はベンチャー30社と金融10社によるコンソーシアムを9月までに立ち上げ、意見交換を通じて新サービスを考案し、新システムの開発や運用などのビジネスをしたいとのことです。現在、募集活動中で、参加予定IT企業は十数社決まっていますが、その顔ぶれを見ると、とてもベンチャーとはいえず、昔馴染みの会社が大半です。誘われている銀行の話を聞くと、「意見交換してどうするのか。情報収集だけなら富士通に報告させればそれで済む。」との声が多いのが実情です。

NTTデータは、スペインの子会社が持つ世界50万社のベンチャーDBを活用して金融機関のニーズに応えるベンチャーを捜すビジネスを始めるそうです。料金は3千万円程度からで、19年までに関連事業を含めて累計100億円超の売上を目指すということです。NTTデータがこうした計画を記者に伝えたかは全く疑問で、これでは、旧来型ビジネスにFintechの7文字を被せただけに見えます。おそらく、日経新聞産業部のIT業界担当記者なのでしょうが、Fintechの背景にある銀商連携、モバイル・ファースト、デジタルマーケティング等、Bank3.0やIndustry3.0といった世の中の流れを皆目把握していません。金融機関の経営陣をミスリードして「なんだ、Fintechも所詮はITベンダーの営業用ジャーゴンだったのか。」となってしまうのが怖い。取材先の説明や資料を鵜呑みにして、そのまま報道するようでは日経の品格が疑われる。

Fintechが普及するとして、在来の垂直型大手IT企業に主役になって欲しくはありません。彼等は、金融機関との取引に何億、何十億円といった案件を求めています。それでなくては、売上を維持できません。(この状況が、わが国金融ITを革新できない大きな原因です。)しかし、そんな規模のFintechはありえません。スピード、変化自由度からしても全く対象外です。サービス利用者の受容度もやってみなくては判りません。当初は駄目だったとしても、UIを変えた途端に普及するかもしれません。逆に、普及していたサービスが突然使われなくなることもあるでしょう。銀行や大企業には無理です。そうしたブランドを頼りにせざるをえないベンチャーもFintechには向きません。

Fintechには筆者も関心があるので、いろいろと情報収集したり、仲間と議論をします。一人一人が全く異なるニーズを並べます。それも贅沢で我儘で自己中心です。金を払う気もありません。(月2、3百円なら可能性ありですが。)それでいて、次に議論する時は考えが変っている。パターン化したサービスやアプリでは無理だと直ぐに気付きます。では、米国のようにアグリゲーションをハブ・アプリに据えるかとなります。ところが、日本では取引明細照会専用のID/PWが殆どありません。アグリゲーション・サービス提供者に資金移動も可能なIDとPWを登録するのは、残高の少ない人だけでしょう。その人が、アグリゲーションに手数料を払う筈もありません。ここをブレイクするアイディアがあれば凄いことになりそうです。

Fintechは個人や利用者に向けた金融サービスをITでより便利で高度なものにするという意味がありますが、戦略的にはカスタマー・インタフェースの確保が目的です。その為に、より多くの(数十万、数百万)の利用者に使ってもらうアプリや使い易さ(UI)が必要となります。個人がマイナンバーのマイポータルを使うようになると、もっと、自分用のマイポータルが欲しいと思うでしょう。既に類似のプラットフォームはGoogleやマイクロソフトなどが提供しています。この個人用クラウドに、IT素人でも簡単にアプリを作れるツールを提供すれば、銀行や大手ベンダーなどが出る幕はなくなります。ひな形となるテンプレートを無償で提供すれば良い。それを自分用にカストマイズします。その人達にアクセスしたいと銀行が思うのであれば、そのポータル運営者や個々の利用者に料金を払う。

ビジネス・モデルはプロダクト・アウトでなくなるばかりか、サービス化しつつDIY化するでしょう。免許が必要な機能だけ免許事業者と接続すれば良い。そして、以前は料金を取っていた者が、料金を支払う側に廻るトレンドです。ビジネスの鍵は、カスタマー・インタフェースを握るか、キラーコンテンツを握るかです。既存の事業規模やブランド、そしてビジネス慣習は、邪魔になります。

                                        (平成27年5月22日 島田 直貴)