日本郵政の中期経営計画


日本郵政グループは、平成27年4月1日付で2015〜2017年の中期経営計画を発表しました。主要メディアは、そろって同グループの利益計画を報道し、M&A等による収益確保・拡大の方針を強調していました。今年の秋に上場を予定しているので、利益計画や事業拡大計画に焦点があたるのは仕方ないのですが、筆者のようにJPグループ株に全く興味のない人間には、関心を呼ばないニュースでした。

一方、金融関連各業態は、即座にコメントを発表しています。全銀協から信金・信組・農協に至るまで、全く同じ反応でして、ここまで同じなら別々にコメントする必要もなかろうにと思った次第です。曰く、肥大化した規模の縮小、公正な取引条件、地域金融の安定維持を前提として、完全民営化までの道筋が明らかになっていない、民間金融システムとの融和策がない、政府関与が残る間は預金上限額緩和など認められないといった調子です。100年戦争と言われますが、まさに100年も同じようなことを言い続けている間に、環境がどんどん変っています。

筆者は以前から、神学論争は不毛であり、預金集めても運用できないのだから、民間は郵政に金を預かって貰えれば助かるではないか、仮にゆうちょ銀が融資に参入してもたいしたことにはならない(そんなノウハウも情報もない)、脱国債と海外資産運用といってもそんな人材が集められるわけがない(給料水準が違いすぎるし、運用に制約がありすぎる)。むしろ2万数千もあり顧客と密着(親密でかつ信頼されている)するチャネルを旨く活用することを考えるべきだと言い続けています。大多数の国民も国会議員も、民間金融機関の主張は既得権維持の為の主張で国民目線ではないと感じているのが実態です。国民投票したら、民間はボロ負けするのではないでしょうか?

今回の中計が発表されたというニュースを聞いても、また、エンピツなめた数字と言い古した標語を並べただけだろうと思い、中計を見ようとも思いませんでした。ある記者が、「中計で4200億円ものシステム投資を予定しているが、一体何に使うのか」と聞いてきました。「3年で4200億なら年1400億だから、数年前の半分以下で、驚くような金額ではない。何もしなくてもその位はかかる。」と答えたのですが、気になって中計をダウンロードして見てみました。

かんぽ生命の基幹系更改で600億、保険契約管理に500億、ゆうちょ銀ネットバンキングに12億(総投資額は35億)が期間中の主だったプロジェクトです。意外だったのは、ネットバンク刷新が35億だという点です。数年前の試算が200億前後でしたから、ゆうちょ銀の金銭感覚が大きく変ったことを顕わしています。むしろ、次世代郵便情報システムを開発することにより、システム・コストや業務効率化で600億円のコスト減、営業店端末CTM6導入で90億円のコスト削減を掲げています。旧システム・コストが余りに高かったということもありますが、昔であれば生産性を上げて人減らしすると言うと組合と大問題になったことと大違いです。郵政も随分変ったということです。

一点気になったのが、郵便事業や簡保事業には大規模投資案件があるのに、最大の投資額を持つ銀行事業には目立った新規案件がありません。昨年12月の住宅ローンシステム更改入札が、突如、中止となる事件がありましたが、経営陣がゆうちょ銀のIT投資を強力に抑制しているのではという感触です。ピーク時に年2000億前後使っていたのが、次期中計では1千億以下となる計算です。これは凄いことです。ゆうちょ銀システム部門もよく頑張っているということでしょう。

この中計を見て何よりも驚いたというか、感心したのは、メリハリの効いていることです、ゆうちょ銀は新規投資を避けながら上場基準を達成する業績を上げろ、かんぽ生命は保険金未払いなど不祥事を再発させない為の投資継続は認めるが、急いで上場基準を充足しろと言うかのようです。その一方で、郵便事業に関しては、抜本的な競争力強化の投資をふんだんに盛り込んでいます。グループの生死は郵便事業にかかっていると経営陣が信じているかに見えます。実態はその通りなのでしょう。

この主要3事業の他に、将来の事業基盤として、物販、不動産、提携金融サービスを上げています。こちらは、事業規模こそ未だ小さいが、経営陣が将来性に注目していることを顕わしています。物販と提携金融サービスに関して、具体的施策に目立つものはありませんが、昨年来の提携やM&Aなどを思い出すと、一連のシナリオが見えるようです。

そこでハタと気づいたのですが、現在、金融審議会で検討している決済高度化や銀商連携に係わる規制緩和を郵政グループは既に先取りしているということです。ITテクノロジーこそ旧式な同グループですが、新サービス1件当たり開発費数千万円で済んでしまう時代ですから、4200億円の1%42億円で先端技術を利用してFintechやネットビジネスを展開したら、民間金融機関はどう対応するのでしょう。民業圧迫反対と唱えても全く無意味でしょう。記者に冗談で言ったのですが、地域金融機関が神学論争(論争ではなく独り言かもしれません。)している間に、三菱東京UFJ銀行が郵政と提携したら、世界最強の金融機関ができるねと。これは論争ではなく、妄想ですが。

                              (平成27年4月12日 島田 直貴)