金融グループの業務規制緩和  (金融審議会が議論開始)


平成27年3月3日に開催された金融審議会で金融庁は、金融持株会社に対する規制緩和の方向で諮問を求めました。翌日の各メディアは大きく「金融・ITの融合を目指す」「金融持株会社の規制緩和に着手」などと報道しています。この動きは、今年に入ってから、少しずつ全国紙にリークされていましたが、3日の金融審議会に金融庁が提出した事務局説明資料で全体像が見えてきました。同庁のサイトで資料が公開されていますので、ご確認下さい。

筆者は、しばしば、IT企業の社内研修で講演をします。今年は、毎回のように、金融審議会で何が議論されているかと質問しますが、この審議会の動きを認識している人は5%未満です。金融業界にとって規制当局の動きは経済動向と並んで、極めて大きな変化要因なのですが、IT産業の皆さんにその影響の大きさが理解されていないことは驚きです。お上の意向に従えと言う気は全くないのですが、金融機関の経営者が最も関心を払うテーマに無頓着では、顧客にビジネス・ソリューションを提案することができないだろうと心配になります。

今回の検討対象となる金融持株会社に対する緩和内容は3つです。@電子商取引ビジネスへの出資を認める。A金融関連ITベンチャー企業への出資を認める。B銀行間での決済関連事務の受託を容易化する。2016年の通常国会に銀行法改正案を提出することを視野に、15年中に金融審の意見取りまとめを目指す。その為に、金融持株会社や銀行の業務範囲拡大を検討するワーキング・グループを設置することを総会で決定しました。また、決済高度化のスタディ・グループも4月にワーキング・グループに格上げすることになりました。今後の議論推移を注意深く見ておくべきです。

今回の動きで、注意すべき点は下記のようなことでしょう。

@持株会社の業務規制を緩和するだけなのか、持株方式でない銀行はどうするのか。

A緩和の内容は、ECサイトの合弁事業と金融ITベンチャーへの出資だけなのか。

B銀行間や銀行グループ内での連携・協同を容易にする為に、決済関連事務の受託を容易化するとは、具体的にどんなことなのか。

@に関しては、なかなか根深い問題をはらんでいます。戦前の財閥が金融機能を利用して産業支配を進めた反省があり、わが国では取り分け厳しい他業禁止原則が貫かれています。銀行法だけでなく、独禁法でも縛りがあります。5年程前に、銀行局長経験者と話をしている時に、「他業は銀行株を100%持てるのに、銀行は5%しか持てないのは、不公平ではないか。昔のような金融による産業支配を心配する時代ではないし、金融市場がこうまで成熟してしまうと、他業との連携を踏まえた新ビジネスモデルを作れるようにすべきではないか。」と言ったところ、「原則というのは、事象を受けてコロコロ変えるものではないのだ。」と返されました。

今回、銀行ではなく、持株に認める方向というのは、この原則に対する一種抜け道という意味合いがあるのかも知れません。加えて、金融庁が事業継続性に向けて、新ビジネスモデル構築を促している地域銀に対して、経営統合や銀行単独ででも持株会社化して、新規事業を模索させようとしているとも見ることが出来ます。但し、持株会社設立の申請には、先に新ビジネスモデルを作る必要があります。持株化をしない銀行は、Bにある銀行間の決済関連事務アウトソーシングという道を作るということでしょうか。

AとBに関しては、新会社として持株を作っても成功の可能性に疑問が出てきます。銀行主導のメンバーで行なうECサイトが楽天やヤフーなどに勝てるとは思えません。楽天やヤフーからすれば、銀行との合弁化するメリットもないでしょう。あるとすれば、資金繰りが相当厳しくなった時です。今回、ECサイト、Fintech分野、決済サービス分野に銀行が部分的に参入できたとして、人口減や地域経済縮小で預金量5兆円の地銀で業務利益200億円が半減するという仮定に対して、減少額を補うビジネスには到底なりえません。行政としては規制緩和を通じて、より高度で革新的な金融サービス開拓を目指している筈です。しかし、金融審議会でその新サービスの具体像が出てくるとも思えません。

今回は、ノンバンクや海外事例等から金融業務のアンバンドリングが進み、そこからイノベーションが起こりつつあるが、今のままでは、銀行業そのものの根幹が揺るぎかねないとの危機感が見て取れます。つまり、銀行がやって良いという限定列挙方式の業務規制に限界が出ているということでしょう。銀行としては、非金融の持株会社を作り、時期を見て、銀行をその傘下に収めることで、始めてノンバンク系金融サービスと対等なビークルを持てるということになります。

伝統的金融機関としては、リテールも市場開拓の余地がありますが、法人向けビジネスの再設計が優先と思われます。その方が実現性は高く、時間的にもコスト的にも効率的でしょう。具体的には商流ファイナンスです。しかし、銀行界では一般的にEDIの方が重視されているようです。EDIを使って商流に入っていくのであれば良いのですが、どうも請求データの消し込み合理化をイメージしているようです。それではイノベーションにはなりません。新旧プロセスを併存する非効率が、金融界だけでなく産業界にも発生するだけでしょう。ペーパーフリーのSTP化を目指すなら、多少は効果が期待できますが。

金融界は、顧客と行政、そして、自らの慣習や制度でデッドロック状態にあるようです。そこから脱するには、今のステークホルダー全員の外側に出ることが必要だと感じます。今回の規制緩和はその一歩に過ぎませんが、その一歩に成功することが次に繋がると考えるべきでしょう。軽視も期待し過ぎも拙いようです。

                                    (平成27年3月8日  島田 直貴)