IoTと金融ビジネス


日経BP社のWebニュースITPro2015年2月5日の掲載記事です。IDCの調査によれば、昨年の国内IoT市場規模は9兆3645億円だったそうです。年率11.9%で成長して2019年には、16兆4221億円になると言います。IT市場の規模は14兆円強ですが、成長が止まっていますから18年頃にはIT市場よりも大きくなります。ちなみに、米IDCの予測では、13年の世界IoT市場は1.3兆ドルで年率13%伸び、20年には3兆ドル台になるとしています。それにしても、大きな新市場です。規制の少ない米国が主導するそうです。

IoTでも日本市場は世界の6%しかなく、伸び率は世界平均よりも低い。IoTは生産性や付加価値に直結することを考えると、日本経済の復活は無理なのかなんて暗い気持ちになってしまいます。頼りは大手製造業等が海外で、業績を上げて本国にたくさん仕送りしてもらうことしかないのか。日本のIT市場が伸びないのは、国内市場が成熟して飽和したからなのか、守りのIT化ばかりで収益に結びつく攻めのIT化がなぜ進まないのか。自分が経営者なら、果たして攻めのIT化を進めるだろうか?だとしたら、ジャーゴンに惑わされることなく、何ができるのかなどと考えてしまいます。

最近思うのは、わが国IT産業は、国際競争力を期待できないドメスティック産業であり、農業の二の舞だということです。メインフレームやサーバー中心のビジネスモデルを米作りに例え、SIを信連や共済を含めて丸抱えする農協組織に例えれば、その類似性が判ります。明らかに経産省は産業政策を間違えました。今でも、気付いていません。大手ベンダーでは、日立が社会インフラを戦略的ターゲットとして再興しつつありますが、現場は相変わらずサーバーとSIです。東芝やNECもユビキタスを標榜しますが、実態は変っていません。

今、わが国で使われる主要技術は殆どが海外製です。クラウド産業に至っては、データセンターでNTTコムが頑張ってはいるものの、規模も技術も米国が圧倒しています。早晩、クラウド産業のシャッフリングが始まります。国内クラウドベンダーの多くはアマゾンなど米系クラウドの代理店になってしまう危険性が高い。それが嫌なユーザーは、プライベートクラウドを使うことになり、コストは下がらない。

では、ユーザー企業はそうすれば良いか。地力をつけて、海外製だろうが良い技術を使いこなして本業の生産性と付加価値を上げるしかない。今から、その準備を始めるべきである。そんなことは判っているが、そんな先のことに廻す人と金はない。仕方ないから、技術も技術者も国籍を問わずに、使いこなすマネジメント力で頑張るか。そんな能力があるなら、今、人と金の工面が出来る筈・・・と堂々巡りです。

IoTですが、市場を構成するのは端末が中心で、14年の設置台数は5億5700万台だそうです。それをストレージに蓄積してサーバーを使ってデータ管理・分析します。そのソフトの市場とコンサルタントやセキュリティなどのプロフェショナル・サービスが市場を構成します。

少し前ですと、コマツの建機に載せたセンサーや車などのGPSが代表的な使い方でした。今日ではエネルギー産業でスマートメーターなどが普及し出しています。小売業や製造業などでM2M活用も進んでいます。大変なIoTブームなのですが、金融界ではIoTやユビキタスやM2Mは話題になりません。ウェアラブルやコネクテッド・デバイスも、関心が低いようです。

1970年代末、世界最強といわれたシティ・コープのウォルターリストン会長は、銀行にとっての最大の競争相手はシアーズやKマートなどの大手小売業だと言いました。リテール向けチャネルで競合すると考えたのでしょう。今日では、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン会長が、グーグルやフェイスブックなどネット企業が競合先になると言っています。現金や小切手が電子化され、顧客情報も顧客毎の取引情報もネットワーク上で収集、蓄積できる時代となりましたから、もっともな発言です。最近では、グーグルやアマゾンがいつ銀行業に参入するかが注目されています。

しかし、こうした先読みに何か意味があるのか疑問になることもあります、シティにかつての栄光はなく、ウェルスファーゴやBOAのように、技術先導ではなく、あくまでも本業を忠実に遂行しながら、新しい客層にチャネルや商品、サービスを徐々に合わせていく銀行が安定した成長を実現しています。JPMチェースにしても、銀行名は昔の名門銀行ですが、その実態はケミカル銀行です。決して、ITに振り回されてはいません。ただ、邦銀のように誰かが成功するまで何もしないということでもない。要は、柱となる市場や顧客基盤があり、現ビジネスとエマージング分野のバランスとをどう変えていくか、そのトランジットのタイミングとスピードが勝ち残りに不可欠ということになります。方向が判っているだけでは意味がない。経営にとっては可視化と変化スピードが、なんとしてでも欲しいということです。

IoT化が進んで、いろいろなモノがリアルタイムで管理可能になるとすれば、金融に何が起きるか。価値が移動するところに、必ず金融ビジネスのネタがあると言います。また、価値にアービトレージやボラティリティがあれば、より高い金融収益が望めるとも言います。IoTは、その源流データを提供してくれます。ストック・ベースの金融に加えて、これからはフロー・ビジネスの金融が市場価値を高めるでしょう。従来の担保ベースの間接金融は、情報ベースの市場型金融に変っていきます。これを伝統的金融機関が主導できるか、追随できるか。融資と投資の意味を考え直す必要が出てきます。

伝統的金融機関には無理だとする意見があります。しかし、伝統的金融機関を排除しなくてはならない理由はなく、むしろ、その継続性や安定性、確実性は残したい。それが、今、金融庁が制度改正を前提に検討を急ぐ、銀商連携ということなのでしょう。金融業界、そしてIT業界の双方に従事する人達が、自らが何を知り、考え、動くべきかを見直す必要があるように思います。冒頭の農業論と同じことです。ただ、農業と違うのは、時間がないことです。。

                              (平成27年2月10日 島田 直貴)