デビットカード (異業種提携で新型デビット)

ニッキン平成27年1月9日号の記事です。金融界が流通業など異業種と提携したり販促機能を付与することで、デビットカードの拡販に動いているという内容です。これまでデビットカードは、ブランドデビットが中心で、クレジットとの差別化や顧客拡大、利用促進の方法が限定されているが、異業種と提携することで提携先の特典や独自サービスを取り込める点が新しいといいます。

それが新型デビットカードといえるか疑問ですが、デビットカードに利用者特典を付与するために提携戦略が重要であることは確かで、デビット発行銀行の多くは既に実施しています。何故、この記事になったのかと思ったら、TISに相談が相次いでいるとの記述がありました。TISの広告記事ということでしょう。

TISは、昔からJCBなどクレジット関連システムの大手で、実績も豊富です。ここ、数年はデビットに力を入れています。筆者はデビットに懐疑的でしたので、TISがこの分野に力を入れ出したのを見て、アメリカのようにはならないのにと冷たく考えていました。米国の決済は、本来がデビット中心であり、銀行のキャッシュカードとも一体です。日本のカードとは根本的に異なる歴史と特徴をもっています。

筆者がデビットカードは日本で普及しないと思っていた理由の一つに、Jデビットの失敗があります。失敗というと関係者に怒られるでしょうが、成功とは到底言い難い。その原因は数々あります。利用店舗網が貧弱、預金口座から直接引き落とされ、利用時に預金の暗証番号を入力する、ポイントなど特典が少ない。これでは利用者に何のメリットがあるのか。加盟店にとっても、手数料、資金化サイト、オーソリ端末、売上伝票起票など手間暇かかる割にはメリットが見えません。これだけ普及条件を満たさないまま放置するというのは、経営陣が余りに消極的ということです。

ところが、最近、考えが変わってきました。デビットカードの弱点が急速に解消されていること、電子マネー等が普及の結果、クレジットから除外されている層でもキャッシュレスの利便性に慣れたことです。例えば、大手百貨店のプリペイカードを使う高齢者は数十万人と言われます。月1万円程度を積み立て、年数%に相当する割り増しが付与される。商品購入の際にも数%割り引きがあります。それでいて、支払いは瞬時に完了する。現金払いや預金よりも数段有利で便利です。

デビットカードは、30年ほど前、バンクPOSカードとして日本でも導入されました。全く普及しませんでした。規制でがんじがらめとなり、サービス強化が進められなかったからです。ある地銀はそれでも、熱心に普及させようと頑張りました。この銀行は、当時、頻繁にNHKニュースなどメディアに紹介され、我が国でも先駆的銀行と評判になりました。しかし、実益はありませんでした。撤退したくとも少数ながら加盟店とカードホルダーが残ってしまいました。完全にサービスを停止するまで十数年を要しました。大変なコスト負担だったでしょう。稀に加盟店で顧客がバンクPOS支払いを求めると、レジ係は処理方法がわからない。銀行のヘルプデスクに問い合わせます。店の奥からからオーソリ端末を引き出して、電話での銀行ガイダンスに従って支払い処理をする様子を想像するだけで、顧客の苛立ち、加盟店の焦り、銀行担当者の苦汁とコストが目に浮かびます。新サービス開始には必ず撤退戦略を用意しておくべきだという筆者のコンサル原則の一つになった経験です。

クレジットにはユーザンスがあり、分割・リボ払いがあります。それはそれで有難く、5月の公金納付集中時期には、急激に利用が増えるそうです。しかし、クレジットには加盟店手数料と年会費がかかります。やがて、クレジットとデビットとの加盟店手数料差を価格に反映する加盟店が出るでしょう。デビットが小口決済から普及する可能性を感じます。現在は、デビットにも1千円から3千円の年会費を取るケースもありますが、スマホをカード代わりにすることで会費不要となると思います。

何よりも、クレジットでは決済情報を入手できない銀行が、デビットを発行することで生の決済情報を入手できることは、戦略的に重要です。最初はクレジット難民とされる高齢者や若年層に的を絞るでしょうが、ファミリーカードなどにより、全年齢層に広げられる可能性があります。プリペイや利用額制限と組み合わせたり、使途を限定すれば痴呆老人や幼児にも持たせられます。公金給付とも連動できるでしょう。

デビットの怖い点は、預金口座から即時引落しされることです。暗証番号も同一のことが多い。ある人は、引落し口座に別段勘定を設けて、それに利用限度をつけ、暗証番号を別とすれば、この問題を解決できると言います。将来は生体認証化(顔と指紋の多重認証など)するなどしてスマホ決済化すれば、普及可能性が更に高まります。

クレジットカード業界は現金の置き換え、すなわちキャッシュレス化に成長の道を求めています。ですからデビットにも力を入れます。日本は、キャッシュカードとクレジットカードが分断された世界でも特殊な国です。この制度が改正されるとしても時間がかかります。ましてや数億枚発行されているクレジットカードを置き換えるのは、物理的に無理でしょう。しかし、マイナンバーで預金口座との紐付けが義務付けられます。現在の磁気ストライプ型キャッシュカードも遠からず、チップカード化と生体認証化が進みます。新カードはモニターと通信機能を持つでしょう。既にカード型のOTPトークンデバイスがあります。そうなるとスマホかポストスマホでも良いことになります。1台のデバイスに複数のカード機能を取り込めます。

地方銀行業界には、かつてバンクカードといってクレジット、デビット、キャッシュカード機能をあわせもった究極のカードがありました。いろいろな政治的事情もあり大きく普及することなく、今では横浜銀行が買収して、その子会社となっています。もったいないことをしたと思います。しかし、地銀の多くは、バンクカードに手出ししたことを失敗と思っているようです。カード機能は素晴らしかったのに売り方を間違えたのですが、商品の所為にしています。銀行には普及環境を自分で作るというマーケティング戦略がありません。金融サービスに関わるあらゆる業者の人達には、様々なアイディアを銀行に持ち込んで欲しいと思います。商品・サービスのアイディアだけでなく、マーケティングに関するアイディアも欲しい。聞く耳のない銀行員もいるでしょう。しかし、理解できる銀行員もいます。皆のアイディアを登録しておいてその知財権を担保できるような場を作れないかなどと思います。

                                                  (平成27年1月13日 島田 直貴)