通販サイトの事業性融資


平成27年1月5日の日経新聞です。ジャパンネット銀(以下JNB)が、ヤフー通販サイトの出店事業者向けに融資するという記事がありました。決算書による審査ではなく、販売情報や顧客層の評価を元に審査します。こうした審査方法は、日本の銀行では初だと言います。(筆者注:銀行としては初かも知れませんが、アマゾン、楽天やGMOペイメントなどが、以前から行なっています。)

融資希望事業者にとってのメリットは、手続きがネットで完結し、仕入れ資金などの小口資金も早ければ翌営業日には融資を受けられる。融資額は100万〜1000万円で担保、保証人不要です。銀行は、ヤフーから出店者の商品販売情報や顧客評価情報を入手して審査しますが、その審査モデルを三井住友銀行の協力で開発したそうです。ちなみに、三井住友銀は、ヤフーと提携してJNBを設立し、ともに41.16%の株式を保有する親会社です。

筆者がこの記事に関心を持ったのは、ヤフーが自ら事業性融資を行うのではなく、JNBと三井住友銀を使ったからです。昨年から、ヤフーの金融事業戦略が高い関心を集めていました。何故なら、大手通販サイトが蓄積する顧客情報、出店者情報、商品販売状況、決済情報は宝の山で、それを使った様々な新ビジネスが始まっているからです。中でも金融サービスが魅力的で、各種決済サービス、個人ローン、事業性ローンなどが展開されています。特に事業性ローンについては伝統的銀行にはできない融資モデルが構築できます。業界筋では、ヤフーも何か新施策を打つ筈で、自分で銀行を作るのではないかと噂されていました。筆者は、事業性融資だけなら貸金業登録すれば済むので、銀行に参入するとすれば決済と預金にも手を出すのだろうと思っていたのですが、外れました。

通販サイトは、出店者の販売情報を蓄積すれば、季節変動やヒット商品などのトレンドが掴めます。適切に分析すれば、その事業者のマーチャンダイジング、顧客層の善し悪し、資金繰り、サイト上でのマーケティング/セールス技術などが生々しく把握できます。銀行が過去3年の決算書やキャッシュフローで審査しても、それは余りに古い情報ですし、加工され過ぎています。通販業者は決済情報の上流を抑えることができるのです。とても、銀行が太刀打ちすることができません。

以前に本人から聞いた話です。その人は年間売上数兆円という大企業の役員でした。大阪の子会社(といっても、2兆円規模の売上)の役員で転出しました。大阪出身なので永住しようと思い家を買うことにしました。ところが、銀行がローンを貸してくれない。理由は、勤務年数が足らないからだそうです。相当に怒っていました。その人は財務担当役員でしたが、その銀行に、その後どう対したのかは聞いておりません。ある新設銀行は、勤務医や共稼ぎ教員向けの住宅ローンで有名な銀行です。セカンドハウスや高齢者など、普通の銀行が扱わない住宅ローンにも前向きで高収益を上げています。審査は、生活通帳のチェックが中心です。数分で済みます。定期的な収入がわかり、資金使途や生活ぶりが掴めます。それで充分だと言います。事実、その銀行の住宅ローン不良化率は、他行の数分の1です。それでも金融庁検査では、こんないい加減な審査でリスク管理ができるのかと指摘されるそうです。

こうした古い融資モデルが崩れつつあります。第二次産業が相対的に縮小、空洞化していくので、従来の設備資金融資は減少する一方となります。設備を持たないサービス産業に急速にシフトしていきます。設備資金融資ならBS/PL審査で良いかもしれません。しかし、運転資金となると財務会計情報だけでは判断できません。

そこで、銀行は電子債権、ABLなどで売掛金や在庫を担保とする融資を強化しようとしています。全く旨くいっていません。ニーズがないからではありません。仕組みが中途半端で、企業、特に中小企業にとっては面倒なだけだからでしょう。売掛金を担保に金を借りると信用不安に結びつくなどという話もありますが、本当にそうでしょうか。債権譲渡には、双方の承諾が法的に必要だ云々と銀行は言います。そんなことは商品設計の段階から判っていた筈で、どうも設計時の優先順位が違うように思います。取引先に都合のよい設計をし、それに法制度が合わないのであれば制度を変えるか迂回の方法を考える。それが普通の事業会社です。

筆者が最近注目しているのが商流ファイナンスです。特にPO(パーチェスオーダー)融資です。受けた注文に対して一定条件で融資をする。例えば、下請け企業が受注すれば、資材の仕入れや人的手当てなどの資金が必要となります。それを融資するのです。米国では相当の勢いで普及しているそうです。国など公共機関は膨大な発注を行いますが、納品後の支払いサイトが2、3カ月だそうです。その間の資金繰りを支援できれば、随分と喜ばれることでしょう。発注者への確認と支払い確約、納品条件や返品率などの情報も必要でしょうが、まずは中小企業でも使い易いスキームを設計することです。

ビッグデータが騒がれますが、伝統的金融の世界では使える情報項目が少なすぎます。ビッグデータ騒動は、ゴールドラッシュのようなものだと感じています。金を掘るよりも、金掘り用のザルや鍋を売った方が儲かる。海岸の砂をいくら掘っても出てくるのは砂。闇雲に掘っても駄目です。金のある所を見つけるには科学的な分析か天才的な経験と勘が必要です。しかし、IoTの世界が実現すると、極限すれば万物が情報分析の対象となり、ITで分析できる。その結果は全て金融ビジネスの対象となり得る。大変な金融サービス市場が出現します。何であれ価値が移動するのであれば、そこに金融の仕事があると言います。

それを伝統的な金融ビジネスの視点から開拓するのか、情報分析事業の視点から開拓するのか。近い将来、情報産業事業者と金融サービス事業者の強烈なバッティングが起きることになります。金融行政における他業禁止原則を急いで見直すとともに、金融業界は現在の事業定義をリセットし、何をビジネスとし、それに必要なスキル等コンピテンスは何かを見定める必要があります。現在の制度を未来永劫と考えるととんでもないことになります。行政の対応が遅いようであれば、海外で先行学習するくらいの覚悟が要るでしょう。

                                                     (平成27年1月6日 島田 直貴)