金融庁が規制緩和 (ITと金融の融合を促進)


ニッキンの平成27年1月1日号の記事です。(12月26日配送) 金融庁が銀行法、資金決済法などを改正して、ITを活用した金融サービス革新を促進し、国際競争力の強化を図る方針だとの記事です。

金融審議会の決済高度化等SGは、企業のニーズ、金融機関から決済関連サービス状況、ノンバンクから新しい決済サービス、学識経験者から決済サービス現状の評価などを集中的にヒアリングしてきました。当初は、決済業務に限定した検討を予定していたが、わが国金融サービスが、ITを戦略的に活用する諸外国に劣後していると危機感を強め、IT戦略やグループ戦略全般の見直しが必要と判断したとのことです。

EU、米州、ASEANなどが、数年前から国際協調しつつ決済のクロスボーダー化を進めていることは、金融庁も日銀も承知していた筈です。しかし、海外の大手金融機関がスマホ決済など決済革新を本格化させているのに対し、わが国金融界は動く姿勢を見せていません。それが、金融庁の焦燥感というか、自民党財金部会メンバーの危機感に結びついたようです。議員達は、二言目には議員立法をちらつかせるそうです。

ニッキン記者が、金融庁担当者からどの程度の深さで取材したかはわかりませんが、記事の内容は12月16日のSGで金融庁が提示した論点整理を越えるものではありません。その論点については、当サイトで前回コメントしました。ただ、金融界全体としては、自民党や行政当局の危機意識を理解していないようです。この記事でも、単に決済サービス高度化で国際競争力を高めるといった程度の論調です。

金融庁は、個々の決済サービスの評価や課題を整理することをSGの目的にしていたとは思えません。大蔵省の時代から、まずは鳥瞰図を整理し、ToBeモデルを作り、課題となる箇所に時間軸をもって制度対応の手当てを行うことが、政策官庁の基本的行動パターンです。それにしても、わが国の劣後状況が放置できないところにまで来ているとの認識があるようです。昔からの金融行政の原則そのものが時代に合わなくなっていると認識しているのかも知れません。

クレジット会社等ノンバンクが新決済サービスを試行しますが、利用する技術もアイディアも海外製です。そこで使われるプロトコル(テクニカルもビジネスも)は、わざわざ国内標準にジャパナイズしてしまう。これでは国際連携から自ら鎖国化することになります。このままでは、長年に渡って蓄積してきた決済インフラが無駄になるどころか、革新の阻害要因となる。

一方で通販や資金決済業者が商流・決済情報を活用して金融サービスを拡大しています。銀行機能が欲しいが、銀行との提携も思うにならない為、自ら銀行を設立する動きが顕著になっています。大手通販や小売業などでは、グループ企業間で顧客別取引情報を共有して、効率的なマーケティングやCRMを構築し、ビッグデータをBIで分析してモバイルで顧客接点を充実させています。他業禁止の金融機関には、制度的にできないことです。結果として、金融機関はIT利用すらも劣後することになる。

出資比率規制は、金融機関には不公平なハンデキキャップです。国民経済的にみると社会インフラとして構築した銀行決済システムを陳腐化させ、経済活動の発展を阻害します。ノンバンク等に決済を認めても、安全確実廉価便利な代替インフラが保証される訳でもありません。

オープンネットワーク時代の業務規制は、従来とは異なる線引きが必要になります。金融庁がどう整理するのか見ものです。売り上げ比率規制でいくのか、出資比率規制なのか。それとも銀行に対してクレジットを含めた業務範囲を広げるのでしょうか。他業禁止原則の原点に戻った議論が必要になることでしょう。この問題は、資金決済法検討の段階で大きなスケッチを描いておけば、今回は線引きをずらすだけで済むのですが、残念ながら前払い証票や電子マネーなどの安全性と利便性を議論するだけで制度改正をしてしまいました。今回、仕切り直しとなります。

もう一点興味深い制度改正テーマは、ITベンチャーと金融機関の提携に関する検討です。米銀等が積極的にITベンチャーを取り入れて、自らが保有していない技術やアイディアを利用していることに触発されています。非常に面白い視点だと思います。筆者も時々、金融サービスを手掛けるITベンチャーの若い経営者に会います。皆さん、クールでスマートです。会った後には爽やかさが残り、元気をもらった気になります。

銀行員と話すと、何でも知ったかぶりで、天動説的な思考と価値観という大きな勘違いをしている人が時々います。トップになるような人は、そんなことはなく、率直で謙虚で明朗なのですが。どういう訳か、外部と協業する時に出てくる銀行員は、勘違い派が多い。金融機関は一般事業会社との協業や提携を何故これほど軽視するのか理解できません。ITベンチャーと金融機関が協業するには、金融機関の役員自らがチームを組成して引っ張らないと駄目だと思います。せめて、社会に有用な人材を潰すのだけは止めて欲しいのです。

金融庁が折角、制度改正してもそれを活用できなければ意味がありません。金融機関の経営者にお願いしたいのは、検討を指示するのを止めて、やれと命令して欲しいことです。そしてやることが決まったら、組織を使おうなどと思わずに、自らチームを率いて実行して欲しいのです。組織で濾過してしまうと、銀行以外には通用しないサービスとなり、革新とはほど遠くなってしまいます。それを繰り返すことで組織文化が変わります。金融サービス革新には、この方法しかないと、最近思うようになりました。来年は、脱銀行組織で金融サービス革新元年となることを期待しましょう。

                                (平成26年12月29日 島田 直貴)