三井住友信託銀のシステム統合が完了

日経新聞の平成26年12月8日付け記事です。11月25日に最後の支店グループで新システムへの移行を終了して、2009年の合併合意から5年をかけたシステム統合が完了しました。旧中央三井信託の勘定系をアップグレードし、158支店を5ブロックに分割して、今年5月7日から順次移行を行ってきました。最後の11月25日に移行を終えて2週間経ちましたが、大きなトラブルもなく、無事に業務を遂行しているとのことです。

記事では、同行の新サービスや他行との提携、日本郵便との提携など、積極的な事業展開を紹介する一方で、メガ・グループとの競合や信託としては低い利益率など課題にも触れていますが、それが、新システムとどう関係するのか記述していません。

これからの金融ビジネスは、昔の銀証分離、長短分離、中小分離と異なり、顧客ニーズに合わせたフルライン金融の流れにあります。それも、個人の貯蓄を企業に廻すというマネーフローではなくなりました。今の企業は、マクロ的に見れば40兆円以上もの資金余剰にあり、資金需要のあるのは公共セクターだけです。しかし、この分野は手間がかかる割には利幅が少ない。

今日の銀行にとってのトップラインは、海外とリスクマネーと個人ローンくらいです。個人ローンといってもその殆どを占める住宅ローンは、低利ザヤで繰り上げ返済や貸倒れリスクが懸念される状況ですし、カードローン等は、成長と利幅が見込まれるものの規模そのものとしては、40兆円程度と多くは期待できません。こうした市場環境では、マクロ的に見るだけでは稼げません。例え当該セグメントの規模が小さくても、利益を期待できる分野を開発する開発力とスピードが勝負となります。

特許など知的所有権で自社商品を排他的に保護できない金融ビジネスでは、儲かるとなると競合他社も一斉に参入してきます。途端に利幅は消え、残るはリスクだけとなります。ですから、他社が追随してきたら、即座に別の新セグメントにシフトしなくてはなりません。それを繰り返すことが、これからの金融ビジネスのキーポイントになります。その変化対応力は、商品開発、システム開発、営業力次第ということです。

こう考えると、今回の三井住友信託におけるシステム統合が、単に預金取引の一元処理を実現しただけなのか、新しい金融ビジネスへの変化対応力を備えたものなのかが重要なのですが、筆者は全く判りません。

この統合プロジェクトの初期段階には、何回か外部コンサル・チームへ参加する話がありましたが、プログラム・レベルの話ばかりでしたので、筆者の出番ではありませんでした。5年もそうした仕事に専念することは、エンジニアには貴重な経験となりますが、筆者には時間の浪費になります。その事前打合せの際にも、様々な議論が空転するので、このプロジェクトは大丈夫かなどと心配になる場面がしばしばでした。ただ、住友信託も三井信託も仕事の仕方を昔から良く知っていたので、最後に決める人が出てくれば形を整えるだろうとは思いました。それにしても、大過なく移行を完了させたのは、凄いと思います。

銀行勘定システムは、旧2行ともIBM製品を使っていましたが、旧中央三井信託のシステムを残しました。信託業務は、旧住友信託のシステムで、規模と重要性からすると信託業務の方が大なのですが、一般個人利用者やマスコミから見ると窓口やATMの銀行勘定系に関心が集まります。両基幹系システムを方寄せ方式にしたのですが、廃棄するシステムから一部アプリケーションを移植せざるを得ません。特にアプリケーションの寿命が長い信託業務ではそれが多くなります。

ところが、古いアプリケーションは、制御系プログラムと密結合になっていることが多い。旧三井信託は、第二次オンラインで三井銀行がIBMと作ったJCCPという制御プログラム(80年代に保守を停止)を使っていました。そこで、一時は、JCCPとアセンブラーの経験者を探し求めて、旧三井銀行を始めとしたJCCP採用銀行経験者を追跡する騒ぎがありました。

多くの人は、既に現役を退いていました。それでも60歳代の人達が見つかったのですが大阪在住者が大半です。今更、東京に単身赴任する気はないとの答えばかりでした。この時、今後のシステム統合やレガマイ案件で、同じような問題が出てくると考えて背筋の寒くなる思いがしたものです。三井住友信託が、この問題をどう解決したのかは聞いていません。

合併でいつも思うのですが、この変化第一の時期に、システム統合に大変な時間、労力、資金を投じる意味が、いまだに理解できません。システム統合の後に、利用者にどんなメリットがあるのでしょう。

旧行の口座利用者が、双方の支店やATMで入出金できると言いますが、手数料ゼロである限りは、たいした問題ではありません。相互取引できないと因縁をつけるお客もいるでしょうが、そういう客は何にでも文句言う人で、ただ、威張りたいだけではないか?筆者も何回か利用銀行の合併とシステム統合を経験しましたが、何の変化を感じません。

あるキャッシュカードなどは、都銀13行時代のままです。それでも使えるのは、凄いですが、何か本末が逆になっている気がします。合併の都度、何年もの時間と何百億、何千億円もかけることは、合併の効果を先送りしているだけに見えるのですが。技術的には、ひとえに密結合のシステムで、アプリケーションやデータベースに相互運用性がないことが原因です。

これからのシステムは、こうしたアーキテクチャを全面的に直さなくてはいけません。それにしても、わが国の銀行もベンダーも新たなバンキング・アーキテクチャを実装可能なレベルで設計できません。何とも寂しいことであり、海外勢との競争に対応できるのか心配せざるをえません。IT産業は所詮、12兆弱の大きくもない産業です。いっそ、この産業を放棄して海外技術の活用に専念すべきなのでしょうか。もっとも、それにはユーザー側のIT人材を質量ともに、現在の3倍以上にしなくてはなりません。金融機関にそんな決断ができるとも思えません。

                                                        (平成26年12月8日 島田 直貴)