米でモバイル決済普及の兆し


日経新聞の平成26年11月29日報道です。アップルペイの始動を契機として、モバイル決済を導入する小売業者が急増しているということです。スーパー大手のホールフーズでは、アップルペイ支払いが15万件を越え、支払い手段の1%以上になったそうです。アップルと提携する金融機関の数は、1ケ月で500を越え、端末メーカーもアップルペイ対応の端末開発を急いでいるとのことです。

モバイル決済の急拡大は、安全性に対する利用者の意識が高まっていることが原因で、アップルは旨くアピールしたと言います。確かに米国では、大手小売業や金融機関などで大規模なカード情報漏えい事件が相次ぎました。POSオンラインやネット・バンキングを狙うサイバー攻撃が手口を巧妙化しつつ、大規模に、かつ短期集中的な攻撃を繰り返しています。ネット取引でのカード犯罪は、署名やパスワード無しの取引による被害が大半です。つまり、カード番号、氏名、有効期限だけでは、危険極まりない。アップルペイのような指紋認証が完全ではなくても、数段安全です。

日本では、特に銀行では、100%でないと、なかなか採用しません。リスク確率で判断する習慣がない産業のようです。月額1万円前後を支払ってホームセキュリティを使う個人世帯は、150万を越えます。セキュリティ会社は、火災や盗難を100%防止するとは言いませんし、利用者もそんな期待はしていません。2年程前ですが、原発事故の放射能除染に竹炭を加工したペンキで実験したそうです。90%の効果だったそうですが、その建設会社は100%でなければ、意味がないと結論したとのことです。この話を聞いた時には、腹立たしくもあり、国際競争ではとても通用しない判断基準に落胆もしましたが、結局は笑うしかありませんでした。

同様に金融業界では、指紋認証など生体認証は、精度が100%ではないからと汎用的に活用する段階に至っていません。顧客のリテラシー・レベルには大きな差がありますが、全顧客・取引に対応することを前提にしていると、リテラシーの高い人が道連れにされます。何故、複数オプションを顧客に提供しないのか。コストが高くなるからです。では、顧客に負担させればよいではないかと言うと、答えは必ず「お客は負担してくれない。」です。負担してくれるお客から始めればよいではないかと言うと、答えは「弱いお客を見捨てるようなことはできない。」です。更に、「どうしてもというなら、行政が主導、指示して欲しい。」と来ます。結局は、上が決めるまでは実行しない。さりとて、上が決めるように誘導することもない。

どうしたら良いかとの議論になります。理解と決断力のある経営トップのいる金融機関を捜して、そこに集中的なサポートを行うしかない。誰がサポートするかと言えば、行政やコンサルや専門業者がボランティアでやるしかないと思います。

話をモバイル決済に戻します。アップルは、利用者から手数料を取らず、銀行から取るそうです。セブン銀が、他行からの手数料収入を主たる収益源とするのと同じだと思っていました。銀行は、お客を他に取られるのではなく、間に入ったサービス提供者に通行税を取られるということです。先日、海外の決済サービスに詳しい人の話を聞きました。アップル社によるApplePay事業戦略説明会を聞いたそうです。モバイル決済で銀行から得る手数料は、アップル社全体収益の0.1%に満たない計画だそうです。決済手数料が目的ではなく、他に何か狙っているようだと言っていました。

日本でもEdyが楽天に売却されたように、小口決済単独では儲かりません。損益分岐点を100万件と設定して頑張り続け、達成する頃には競合が発生し、単価が下がって販売経費が上がってしまいます。それを繰り返す内に、体力を消耗してしまいます。楽天のようにECを展開して、決済サービスが重要な差別化手段となるのであれば、事業計画の柱が変ります。アップルは何を狙っているのでしょう?

ネット・ビジネスにおいて、利用者の検索履歴やページ遷移情報は、砂金を含んだ海岸のようなものです。ただし、その分析手法や結果の使い方は、既に、マチュアになりつつあります。そこに、決済情報が加わると、ビッグデータの分別や活用方法が大きく変ってきます。つまり、今は決済情報を巡る覇権争いの真っ最中ということです。銀行は、決済情報を収集するのに、都合の良いポジションにありますが、海外と違ってクレジットを本業にできません。またまた、別の業者が顧客基盤との間に割り込んできます。決済代行業者も事業を拡大しています。顧客側の立場でのセキュリティ・サービスも出てくるでしょう。その点、米国金融機関はしたたかなのでしょうか。気楽にアップルなどと提携します。ネットワーク・ビジネスでは、提携戦略は最も重要な手段です。わが国の銀行が、他業との提携を禁止されているとは、聞いていないのですが。

                                                 (平成26年12月1日 島田 直貴)