常陽銀行が非対面サービスを強化 (オムニチャネルとコグニティブ)


平成26年11月7日付ニッキンに「常陽銀が法・個人の非対面を強化してオムニチャネル態勢を構築」という記事が載っていました。地銀を含む地域金融機関は、地域密着をフェイス・ツー・フェイスと同義とし、ダイレクトチャネルはあくまでも対面の補完的機能と限定してきました。このことが、一部の信金などでネットバンキングやテレフォンバンキング廃止論に結びついています。しかし、ダイレクトチャネルに対する顧客ニーズは強まる一方で、地域金融機関におけるネットワーク戦略とフェイス・ツー・フェイスをどうバランスするかは頭の痛い課題でした。常陽銀行が、オムニチャネルでこの課題の解決策を見つけたのかと思いながら記事を読みました。

顧客の質問や反応に対して適切にタイムリーに対応する為にネット、電話、店舗など複数チャネルを一つの組織に融合して、緊密な連携を取れるようにし、支店長経験者3名を含む100人態勢という大組織を設置しました。対象は個人だけでなく、法人に対しても電話によるビジネスローンなどをサービスする。個人ローンでは即日回答を実現するなど、ダイレクトチャネルを前提とした商品設計や業務プロセス設計を行う。営業のフォローや小規模法人の管理などで営業店業務を補完するなど、単なるチャネル統合というよりは、販売と事務の再設計をしたという内容でした。

常陽銀のサイトを見ると、今年の8月25日付でニュースリリースしていました。個人向け電話サービス、法人向けビジネスローン、個人ローンの審査実行を担当する3チームの他に、企画グループを新設しています。ニッキン記事によれば、企画グループには、営業、ネット、企画、セキュリティの担当者4名が配置されたそうです。

オムニチャネルは最近注目される概念ですが、異なるチャネル間で連携して個別客、商品を一元的に管理して顧客管理や販促を行うこととされます。当然ながら、顧客との接触履歴、取引履歴はもとよりWeb上での個別客との受発信検索履歴や推奨商品の在庫・価格などのデータ連携も必要です。システム対応としては、システム連携とデータ連携が不可欠ですが、これは簡単に構築できるものではありません。常陽銀がどのようなシステム手当てをしたのか報道されていません。以前に導入したETLツールだけで済むとは思えませんが。

何よりも組織態勢と顧客接点を担う人材が重要な成功要因です。日本のビジネスでは、こうしたコンシェルジュ的サービスが伝統的に提供されてきましたが、最近ではメカニカルなチャネル経由での顧客接触が増えてしまい、反省気運が強まっています。大半の取引がATMやネット経由となり、銀行の差別化が難しくなっているためです。

当初、オムニチャネルは送客サービスと理解されていました。ネット客をリアル店舗に誘導する、リアル店舗の顧客をネット経由で優遇しながら固定客に育成していくなどです。やはり、米国初の発想でして、顧客の固定化とクロスセルが最大の目的です。ネットチャネルの利便性と離反率の最適化も重要です。日本でも小売業などは、米国と同じ発想で、最近ではデリバリー・チャネルを重視し出しました。即日宅配などのサービスです。アマゾンのドローンによるPrimeAirなども、この動きの一環です。距離的に遠くて、人口密度が低く、最前線にオモテナシのできる人材を多くは配置できない米国ならではの戦略です。日本とは前提が全く異なるので、筆者はオムニチャネルに余り関心を持てず、やたらとそれを標榜するITベンダーを怪しげに見てきました。

日本の金融では、みずほ銀行が4月に設置したインキュベーション室が注目されています。11月には、コールセンターの通話を音声認識し、IBMのワトソン技術と組み合わせて情報分析力を強化して、O2Oチャネル高度化を図ると発表しています。その対象となる我々個人としては、機械の分析対象となるのは愉快とは言えませんが、逆にワトソンをからかうという楽しみ方が流行るかもしれません。

顧客から接客の評価を得るには、人的対応のレベルが決め手となることは今後とも変わらないでしょう。その点で、十年前頃のシティバンク・コールセンターの女性オペレーター達は見事なものでした。海外送金の複雑な手続きや税金に関する質問などに、即座に簡潔な回答をしてくれました。(それが消えるのは寂しいことです。) コグニティブが直接、顧客に対応するのではなく、間に入る人的チャネルに専門知識と最新情報に、個別客に適した回答方法まで合わせてサポートするのであれば、大きな成果に結びつくと思います。採算の問題は別にありますが。

最近、LINEなどSNSを顧客チャネルに採用する銀行が増えています。利用者が少数の内は、行員がチャトすれば良いでしょうが、増えてくると、とても対応できませんし、トラブルの元にもなりかねません。そうなるとコグニティブなどの活用が不可欠になります。しかし、現時点では、常陽銀行のように、人の確保と育成を先行させ、ノウハウを蓄積するのが正しいと思います。そうであれば、ルールベースの方が適していると思ったのですが、IBMの定義によればBRMSもコグニティブの一部でした。

25年前にブームで終わったエキスパート・システムなどのAIが、ようやく実用期に入ったということでしょう。筆者がワトソン研究所でワトソンの初期モデルを見たのが1979年ですから、米国企業にもしつこいというか、気の長い会社があるものです。これからは、使い込むことでコグニティブ・コンピューティングが級数的進化の段階に入るかもしれません。金融機関も、この分野で先行すべくチャレンジする価値はあると思います。

                                (平成26年11月18日 島田 直貴)