地方銀行の経営統合発表相次ぐ

平成26年11月4日に、日経新聞が横浜銀行と東日本銀行の経営統合をスクープしました。総資産16兆円の地銀首位ができ、新たな地域銀再編の受け皿になると報道しました。11月7日夕刊では、肥後銀行と鹿児島銀行の経営統合を報道して、九州名門銀行が再編と書きました。両ケースともに、当該行は決定の事実はないとしつつ、後日、経営統合を検討中であると発表しています。

こうした報道の直後から、当サイトの合併関連コメントへのアクセスが急増しています。社会の関心が高いのか、または、ITベンダーの皆さんが、この二つの経営統合から、何かビジネスチャンスがないか調べているのでしょう。そういえば、筆者がベンダー務めをしている時も、銀行合併は悲喜こもごもでした。SIビジネスを日本で初めて開始し、数百億円の開発案件を受注して全社で大喜びしたすぐ後に、合併でその案件が流れたこともありました。筆者のコンサルチームが大規模のコンサル案件を受注し、キックオフパーティを顧客とやった翌朝に、合併で全てが吹き飛んだこともあります。悪い話ばかりではありません。大きな顧客が破綻して、その事業を2社が分割して譲り受けました。その2社は他社がメインベンダーでしたが、破綻銀行のシステムを使うことになり、いつの間にか1軒の顧客が2軒になったこともあります。

合併を発表したばかりの経営陣に呼ばれて、どうしたら良いか、何に気をつけるべきかと問われることもしばしばでした。しかし、提言を活かしてくれる経営者は稀です。殆どが、政治的、営業的なバイアスで決まってしまいます。ところが、その決定の裏付けを現場に下問するので、そこから泥沼が始まってしまいます。最後は、基礎や全体設計ではなく、インテリアで決まる。いつものことですが、銀行経営者は家を建てる時もカーテンや絨毯で決めるのかとがっかりします。メディアがそれを煽ります。

合併発表で顧客銀行トップが忙しいだろうと、営業活動を控えている内に他社のトップアプローチで主導権を奪われ、引責した営業幹部もいました。社内では、あいつは人が良いからなどと言われましたが、合併予定銀行のトップにとってはシステムをどうするかは大問題で、手伝えることがあれば何でもすると申し入れるのが営業だと学びました。経営陣は、ITが判らないので外部のコンサルに聞きます。しかし、そのコンサルは一般論を知ってはいても(それも稀ですが)、両行のシステムを熟知していることはありません。それを勉強するには、数か月が必要です。間に合いません。自行内の話では、バイアスがかかり過ぎている。本音で相談できる相手はいないものです。そして、形式的な比較やどうでもよい妥協を積み重ねます。欧米のようなM&Aメソドロジーが確立していない日本の弱みです。

横浜と東日本の場合は、規模に大きな差がありますし、両行ともに外部委託中心ですから、IT部門同士の激闘は避けられるでしょう。まして、両行トップは国税長官経験の先輩後輩です。金融庁の現役幹部ともツーカーでしょうから、上層部の軋轢は心配ありません。むしろ、横浜銀行側が、妙な遠慮をすることが怖い。システムでいえば、横浜がNTTデータ共同のMEJARです。東日本は富士通での単独オンラインですが、20年前稼働ですから、放棄するのに大きな問題はないでしょう。合併ではなく、経営統合ですから、それも急ぐ必要はありません。移行の準備をきちんとすれば済みます。

肥後と鹿児島は少々ややこしくなりそうです。両行ともに地元の殿様銀行です。地元の見る目を気にせざるをえません。トップも共に実力派です。システムにも明るい。それだけに、物事を決める時のルールを先に決めておかないと、紛糾するかもしれません。システムに関しては、肥後は日立での共同Bankswareです。仲間は山陰合同とみちのくです。鹿児島はユニシスのBankVisionです。仲間は筑邦と佐賀です。この勢力図からすると、もし、システムを一本化するとして、BankVisionを選ぶのであれば、この経営統合に筑邦や佐賀銀が加わる可能性が出てきます。Bankswareだとすれば、両行ともに筑邦、佐賀とバッティングしないので競合上の問題はありません。いずれにせよ、共同スキームに残される銀行はシステム負担の割り勘が大幅に増える可能性が出てきます。当然、中途脱退のペナルティは契約に入っているでしょうが。いずれの組合せであっても、急ぐ必要はありません。システムを方寄せしても、年に何億も経費を減らせるわけではありません。むしろ移行コストで10年分くらいの費用がかかるでしょう。本当は、経営統合や合併に合わせて、戦略的な新システムを構築することが望ましいのですが、大変な数の要員と費用、そして3〜5年といった開発となり、その余裕は全くありません。結局は、システム結合、方寄せといったステップにならざるをえないでしょう。

それにしても、いつも思うことは経営統合に何の実利があるのかということです。確かに全体としては大きくなります。店の統廃合は、遠隔地合併では大きな効果を期待できません。本部人員を集中して、企画管理機能を強化できるかもしれません。その程度です。個別銀行が従来のままに活動を続けるのでは、提携と何が違うのか。経営陣が一本化されて、迅速な判断と現場の行動力に結びつけばよいのですが、そうしたケースは少ない。

合併や経営統合では、推進委員会が設置されます。地銀の場合、その事務局は数名です。十数作られる小委員会のアレンジだけで手一杯です。そこに監督当局から頻繁に説明報告を求められます。地元財務局であればまだしも、頻繁に本庁に出張します。見ていて気の毒ですが、最後は時間が解決するといったところです。

合併には100日ルールというのがあります。発表から100日以内に、新銀行のビジョンを示し、全行員がなすべきことを明確にし、工程表に従って粛々と作業を進める。一方で両行の現場レベルでの相互理解を深める。しかし、突き詰めると。どちらかの銀行トップによるリーダーシップが成功のポイントです。対等統合だから、双方の顔をたててとやると、双方の顔を潰します。そして、新しい銀行像を目指して、新たな施策やサービスをふんだんに展開することです。過去の経営統合も統合直後は、新鮮で興味深い施策を立て続けて出しましたが、2、3年もすると息切れするようです。持続性も欠かせません。トップ一人ではとても無理です。イノベーション・チームを作って、メンバーが交替で新施策を展開するなどの工夫が要ります。

それにしても、経営統合って何の意味があるのか、納得できないことに変りありません。経営トップを一人にして、全権限を集中するというのであれば、期待できるのですが。

                                           (平成26年11月12日 島田 直貴)