アップルのスマホ決済サービス 「Apple Pay」

アップルが9月に発表した決済サービスApplePayの情報が少しずつ出てきました。来年には日本でも開始される見込みだそうです。WSJ紙は、日本での反応が鈍いが、それはApplePayのNFCがタイプA/Bであり、日本では既にFelica(タイプC)が普及しており、新味がない為だと報じたとのことです。(筆者は記事を直接確認していません。) e-Bayからの事業分離を発表したPayPalも、ApplePayには新味がなく、支払い処理が多少早くなるだけであり、PayPalは支払い工程そのものを見えなくする(顧客操作をなくす)ことで、スマホ決済の価値を高めるとしています。

世界でも稀な程、多種多様な決済手段が乱立する日本で、それもAndroid端末の方が多い状況で、ApplePayが日本を席巻するとは筆者も思ってはいませんが、ApplePayにはスマホ決済進化のポイントが幾つか含まれていると思います。

@カメラの活用:利用者は自分のカードをiSightカメラで撮影し、iTunesアカウントに登録する。何枚でも構わない。店で使う時に、使用するカードを選べば良いので、何枚も持ち歩かずに済む。

A指紋認証:支払い承認は4桁の暗証番号ではなく、TouchIDに登録した自分の指紋で行なう。安全性が数段高まるでしょう。現在の文字列暗証では、セキュリティに対応できない状況です。

B支払い時にカード情報は使わない:支払いの都度、アップルがワンタイム取引番号を発行して、金額を確認した上で承認処理を行う。つまり、加盟店にカード情報は渡らない。カード情報は、様々なポイントで漏えいするが、最近、問題視されているのがPOSシステム狙いのウィルスです。APT攻撃などで小売業システムに入り込み、POSサーバーや端末にウィルスを潜り込ませ、カード情報を窃取する事案が急増しています。それでなくても、加盟店に情報を残すことは不安です。情報を何も入手できないことを嫌がる加盟店もあるでしょうが。

C加盟店手数料がない:加盟店から決済手数料は一切徴収しないそうです。日本で2〜10%程度(加盟店の格付けによって決定される。) とされる手数料が不要になれば、その分、割り引く加盟店も出てくるでしょう。カードを発行する銀行から手数料を取るとの情報もあります。思わず、セブン銀の真似かと噴き出してしまいました。真のスポンサーは利用者ではなく、銀行になるからです。日本ではカード会費は低めで、カード会社は加盟店手数料で収益を上げています。加盟店はアップルには支払わなくても、カード会社への手数料を払い続けるのか確認していません。米国では、カード発行銀行の収益源は、利用者からのリボ金利です。ApplePayの収益モデルは、日本では成立しそうもありません。

以上の情報は、ApplePay利用者にとっての仕組みに関するもので、カード会社、利用者、加盟店、アップルの間の契約関係や情報の流れなどを確認できる情報はありません。日本の制度では、ApplePayは決済代行サービスと位置付けられるでしょう。とすれば、来年にも改正される割販法で、登録制と加盟店管理の厳格化や支払い停止義務などが課されることになります。更に悪条件が重なります。

容易に推測できることは、アップルが決済情報の把握、集積を狙っているであろうことです。ただし、米国における個人情報利用の自由度に比べて、日本でははるかに厳しい制約があることも、ApplePayのビジネスモデルにとって、大きな阻害要因となります。最近、決済情報の重要性が強く認識されています。政府自民党には、VisaやMasterなどにより決済情報が海外に蓄積されていることを問題視する声が高まっています。ApplePayでは、決済情報を誰がどのように入手蓄積できるのか注視すべきです。

先日、ある記者から、「日本の銀行が、これほどまで決済情報に関心を示さない理由は何か」と問われました。世間を知らないからだとも答えられずに、昔、クレジットが物の販売に伴う支払い手段とみなされて、通産省の管轄となり、銀行業務としては認められなかった。その後、銀行周辺業務として銀行もカード発行が認められたが、未だに、本業ではないと思われているとしか答えられませんでした。銀行法の他業禁止原則が、大きく影響していることは間違いありません。しかし、利用者を保護しながら、利便性を高めることを追求し、それが銀行法に触れるのであれば制度を修正すれば良いだけのことです。銀行法を変えるという発想が、銀行員に皆無なことは、我々外部の人間には奇異に思えます。

ApplePayには、現在の決済方法に関する課題を解決する案が幾つも入っています。大いに参考にすべきです。ApplePayが日本を席巻するか否か、NFCのタイプが違うからどうのこうのという話ではないと思います。米国では、アグリケーション・カード(1枚のICカードに複数のクレジット・カードを搭載)など、新しい試みが続いているそうです。自らのビジネスモデルを根本から変える動きに、大手カード会社が積極的に参画しています。日本にも、こうしたエネルギーが欲しいものです。

                                                                              (平成26年10月2日 島田 直貴)