クレジット規制見直しが本格化

日経新聞の平成26年9月18日号に「カード決済、安全網整備」という記事が大きく掲載されていました。ネット通販でのトラブルが急増しており、悪質な加盟店を排除する必要性が高まっている。経産省は、割販法改正を視野に、アクワイヤラーの監督を行えるように登録制を導入し、加盟店管理責任を明確化する方針とのことです。海外アクワイヤラーを利用する場合にも一定の制限を課し、マンスリークリア方式を採用する案もあるとのことです。

この動きは、内閣府消費者委員会の建議(8月26日付)を受けてのことです。8月4日の金融経済新聞に、消費者委員会の検討状況が詳しく報道されていました。金融経済新聞の読者は余り多くありませんが、同紙は行政や国会各種委員会等の動きを詳しく報道するとともに、ノンバンク業界に豊富なニュースソースを持っています。消費者委員会は、ネット通販の普及に伴って急増する消費者トラブルを防ぐために、割販法改正や決済代行会社の監督を強化するように、経産省に対して建議を発したと報道していました。経産省には、半年以内に建議に対する回答を提示する義務があり、筆者は年明けに規制強化策が出てくるのだろうと思っていました。ところが、速くも経産省の動きが出てきたのです。両者は、密に連絡を取り合っているのでしょう。

クレジットカードは、昔、AMEXやVisaなどが発足した頃とは異なり、極めて複雑化した契約関係になっています。当初はカード会社と販売者、購入者の三面契約でしたが、今ではこのような単純な関係の取引は稀になりました。カード会社機能は、ブランド会社、イシュアー、アクワイヤラーに分化し、加盟店や消費者にとっては、何種類ものカードを使い分ける必要が出てきます。そこに決済代行会社が参入する機会が生まれました。

決済代行会社は、複数のアクワイヤラーと包括代理店契約を結びます。販売業者とは決済代行契約を結びます。売上代金の立替払いもします。加盟店からすれば、複数のカード会社と別々に契約したり、請求事務を行う必要がない上に、売上の早期回収も可能となります。消費者からすれば、小さな販売業者でも多種類の決済手段を使えるメリットがあります。決済代行会社が加盟店のハブ機能を持つことで、カード会社は決済代行会社との代理店契約を受容せざるをえなくなります。

こうして量を求める競争が激化します。問題は、Squareのように極めて簡単にカード決済ができるようになると、零細企業や個人事業主も、手軽にカード決済や電子決済が可能となります。そのことは、大変良いことなのですが、不良販売者も増えます。実態のないネット販売や不良粗悪品などを売り逃げするケースが増えてしまいました。2013年度の消費生活センターに寄せられた相談・クレームは約5万件と10年で3倍になったそうです。加えて、ネット通販が普及すると海外の悪質な加盟店なども出現してきます。

増加するトラブルに対して、多層化・複雑化した通販ネットワークと決済に係わる契約関係は、消費者個人には対応しきれず、泣き寝入りするほかありません。それを守ろうとする制度改正ですから、関係する業者は、誰も文句を言えません。建前では、悪質業者を排除して、顧客は安心して利用できるから市場は一段と発展すると言う筈です。しかし、制度設計次第では、大きな負担増となる業者が出てきます。対応しきれずに撤退する企業も出るでしょう。

例えば、マンスリークリア(翌月一回払い)で注文した商品が粗悪だったとして、消費者は自分のカード発行会社に支払い停止を求めます。カード会社はその債権所有者に対して支払い手続きを中断すると連絡する筈です。問題は、そのタイミングにもよるのでしょうが、誰が債権所有者なのかをいかに把握するのでしょう?その標準を決めておく必要があります。さもないと業者間の紛争が多発します。また、消費者の支払い停止要請の正当性を誰が判断するのでしょう。悪質業者であれば、売掛債権を第三者に譲渡して一部でも代金を回収するかもしれません。そうした債権を買い集める業者が出てきます。その素性は容易に想像できるでしょう。こうした業者が仮に貸金業登録しており、個人信用情報センターに加入しているとします。顧客に、「払わなければ、信用情報に傷がつく」と脅かせば、2、3万円程度ならと支払いに応じる人もいるでしょう。

規制を強めても、必ず穴があります。そこに、新規事業機会を見つけ出す人々が必ずいます。もぐら叩きですが、最終的には悪質業者の生業にならない程度にまで、穴を小さくする制度変更を繰り返すしかありません。それが社会ルールの成熟ということなのでしょう。

問題は、今回の制度変更で、関連する企業は顧客クレーム処理態勢の見直し、加盟店管理の強化、顧客からの支払い停止や再開の処理態勢構築、顧客信用情報とクレーマー情報の収集、管理、利用態勢など、大きな組織変更とシステム対応が必要となります。特に、今回の規制強化は決済代行会社がターゲットとなっています。決済代行会社は、単なるコスト増ととらえずに、新しい事業機会を模索すべきです。例えば、クレーマー情報の蓄積と提供です。加盟店だけでなく、利用者の質も問われるからです。XX決済代行を使うECでは加盟店も顧客も質が良いから、決済代行手数料は3%でなく3.5%支払おうとなれば、最も望ましい結果ということです。

B2C取引においては、今後とも規制強化、制度変更が続くでしょう。何が変り、何が変らないかを見極めて、システム設計しておくことが重要です。その点、銀行や保険よりも証券会社の方が、大きく先行しています。

                           (平成26年9月24日 島田 直貴)