金融庁の新検査方針 (系列より顧客を重視)

日経新聞の平成26年9月15日版が、表記のような記事を掲載していました。金融庁の今年度監督・検査方針では、顧客志向、人口減少、企業統治がキーワードであり、メガバンクなどが企業系列に拘った取引をしていないか、地銀などでは人口減少を想定した事業モデルの革新を図っているか、財務指標だけでなく事業性を評価した融資態勢になっているかなどをチェックするという内容です。要はアベノミクスの成長戦略に貢献しているかということです。

今の政府与党は、アベノミクスの成長戦略実現に向けて総力を挙げています。各行政機関もそれしか頭にないようです。経団連も自民党との関係を修復しつつ、アベノミクスへの期待と同調を露わにしています。その点、銀行界の動きは余り見えません。地域再生ファンド設立などが続いていますが、いかにもマグニチュードが小さすぎる。やる気があるようには見えません。

成長戦略には企業の投資拡大と消費拡大が不可欠ですが、それが期待する程には進まない。自民党議員や各部会が、その原因をヒアリングすると、異口同音に「銀行が対応してくれない。」との回答ばかりだそうです。それを聞いて鵜呑みにする訳ではないが、議員達が銀行界に問いただすと、抽象的な返事ばかりで何をどう改善するのか具体的な話が出て来ない。その結果、銀行業界が成長戦略の最大阻害要因として浮き上がってしまいました。最近では、自民党議員が銀行と会うことすら時間の無駄と言うようになっているそうです。

こうした流れは、金融庁も良く認識しており、それが、監督検査方針に表れたのでしょう。信用リスクやオペリスクに関して重箱の隅を突っつく従来型の検査ではなく、国の政策との整合性を求める点に、金融行政が大きく変わっています。それとも、国全体を考える経営者が銀行にいなくなったから、行政が仕方なく、民間の経営に口を出さざるをえないということか。中山素平さんや小原鉄五郎さんのような経営者が出る環境ではなくなったということか。金融庁の検査方針が変わったのが、良いことなのかは判りません。

金融庁は、9月11日に「平成26事務年度 金融モニタリング基本方針」を公表しました。従来の監督方針、検査指針を統合した49ページのモニタリング方針です。簡潔で読みやすい資料ですので、金融に係わる方には、是非、読んでいただきたいと思います。別に、金融庁の方針に追随しろとは言いません。しかし、実行に移さない銀行を踏み切らすに金融庁の御紋は強力なので、使わない手はない。まして、金融庁が期待し主張することは誰が見ても正しい。銀行員もわかっているのに、出来ない理由を並べるだけでなく、どうしたら実現できるかに考えを向けるべきです。

ITに係わる事項は、重点施策7.顧客の信頼・安心感の確保等において、セキュリティ確保、ネットバンキング不正送金やサイバー攻撃等への対応があげられている程度です。しかし、顧客ニーズに即したサービス提供という大命題には、ITが深く関連します。注意すべきは、金融庁が7月に発表した金融モニタリングレポートです。これは、平成25事務年度のモニタリング結果をまとめたものです。その第V章テーマ別の水平的レビュー、4.ITガバナンスにはIT関係者にとって注意すべき記述があります。

「メガバンクは主要外銀に比べてIT投資が少なく、戦略的投資の比率も低い。先端のIT技術を事業戦略に有効活用することが課題である。」「地域銀行の8割は、勘定系システムを共同センター化。コスト削減に留まらず、経営戦略と整合的なIT戦略を構築すべく、経営陣による主体的な議論が重要」とあります。何が先端技術なのか、経営戦略と事業戦略は何が違うのか、課題と重要との違いは何か、主体的な議論とはどういうことかは、明示されていません。しかし、役人言葉ですから意味を含んでいるはずです。筆者は、昔、大蔵省文書課長を経験した方から、行政文書の読み方や作成法を教わりました。しかし、最近の中央省庁の文書は、出向組コンサルなどが、新しいチャートや文章表現を持ち込んでしまって、かつての正確さが消えてしまいました。用語の統一ができていないのは、読む側からすると辛いです。

いずれにせよ、こうした金融庁の指摘は金融機関の経営陣には既に伝わっていたようで、メガバンクの中には、大変な予算をつけて新たなIT戦略を調査企画するチームを立ち上げたところがあります。地銀でも、従来のシステム部門内の企画チームとは別に、総合企画や経営企画部門内にシステム戦略を調査企画する組織が増えました。頭取に近い新部署による調査結果は、中期経営計画に反映するのでしょうが、経営会議や取締役会等で議論の対象とし、場合によれば緊急経営案件として検討することも出てくるでしょう。

頭の痛いのが、経営者の知っているつもりの市場もIT技術も古いことです。何となしに経営とITの整合性が重要だとは判ってはいますが、具体的に何をどうリンクさせれば、整合性が取れるのか手法を知りません。その結果、顧客ニーズに即したサービス提供というと、いかにも顧客ニーズがCRMに埋もれていると思って、CRMやEBMを導入したから、それで済んだと思う経営者が多いようです。現場では、何か都合が悪いとCRMの機能不足を逃げ道とし、自分ではCRMに顧客の最新状況を入力することもしない。こうした現状は、大変な苦労の揚句に稼働させたシステム部門をどれだけ落胆させていることか。こんな実情を知る経営陣は殆どいません。

中には、自分が昔、システム部長を務めたからITに精通していると勘違いする経営者もいます。1年離れれば、もう浦島太郎だと思うべきです。当コラムでも繰り返し強調するように、インターネットやモバイル・デバイスは、世代間のIT利用だけでなく、金融へのニーズも大きく分極させてしまいました。顧客と一言で片づけることは、危険に過ぎます。仮にセグメンテーションしたとしても、短期間でその区分は変わってしまいます。常時見直しながら、その時々で最適な技術を適合させる必要がある。その為には、単位コストを大幅に引下げ、スピードを数倍にし、サービスは一番良く知る人達が設計する。できれば開発する。こうした態勢構築と実行を支援するのは誰なのか。むしろITを知らないトップの方が、適任かもしれない。メインベンダーへ全面依存するのも、極めて危険です。大企業だとネット・ビジネスで何が起きているか伝わるのが、メディアよりも遅いからです。また、ITベンダーは金融のプロではありえません。何故か多くの銀行経営者が、ここを誤解している。不思議な話です。

新技術と新サービスを掴む方法は二つ。シリコンバレーやニューヨークなど先端市場に身を置いて情報を集めること。もう一つは、そうした事情に詳しい国内の人材大勢との情報ルートを作ることです。企業の大小など全く関係ありません。むしろ大企業の方が、情報を埋没させています。

                                (平成26年9月16日 島田 直貴)