スマホ決済 (日経新聞が連載記事)

日経新聞が平成26年8月27日号からスマホ決済に関する連載記事を掲載しています。

第一回目には、ペイパルのチェックイン支払いを中心に紹介しています。事前にクレジット情報と顔写真を専用アプリに登録しておき、店に入る時にアプリを立ち上げる。注文した品物を受け取る時に、店員のタブレットに自分の写真と料金が表示されて、確認ボタンを押すだけで精算が完了する。スクエアのようなカードリーダーは必要ない。顔認証でクレジット決済ができてしまう。入店時にその顧客の情報を表示して、店員が客の名前を呼びながら挨拶もできる。ハイタッチを組み合わせるので、顧客ロイヤルティを上げることもできます。無制限でアプリを配布せずに、会員制によって各種優遇サービスやコミュニケーション・ツールと組みあわせるのも面白いでしょう。

第二回目には、GMOペイメントゲートウェイのパレットを紹介しています。ペイパルと同様にクレジット情報と顔写真を登録しておけば決済に使える。店の端末もスマホで良い。事前注文の機能があり、顧客は事前に欲しい商品を注文しておき、商品の受け渡しと決済を待たずに済ませられる。レストランであればテーブルに座ったままで支払いが終わる。店側のスマホに顧客がPINを入力するのがペイパルと異なる。顧客には利用履歴や近場の店を検索する機能もある。店側には、顧客情報を閲覧したり、特定の顧客にお知らせを送信する機能も組み込まれている。

両サービスともに単に決済機能を手軽に提供するだけでなく、加盟店の営業支援機能を重視しています。小規模店には、まことに便利なツールである。クレジットカードのように、処理も情報還元も月次バッチではない、まさにフェイス・ツー・フィイスの接客サービスが可能です。それも、店側の投資額は極端に低い。CAT端末、その通信回線、決済手数料のどれをとっても、従来方式とは桁違いである。導入も簡単なので、季節性のある商売やイベント会場での決済に容易に対応できる。3月末の消費増税駆け込み消費時に、スマホ決済を採用していた大手家電店は、客を支払いで行列させずに済み、他の店より売上を伸ばしたそうです。ようやく品物を選んだのに、在庫確認で待たされ、急いでレジに行くと長蛇の列。中にはキャンセルして帰ってしまった客もあったと聞きます。恐らく家族でケンカとなり、その店には嫌な思いが残り続けるでしょう。決済は、単に品物と代金のやりとりではなく、接客サービスそのものです。

こうした事例が、政府や自民党の各部会で紹介されます。委員達はとても感心して、何でもっと広げないのかと言います。今はアベノミクスにおける消費拡大と東京五輪の外国人客向けサービス強化が政策の最優先課題です。イノベーションに後ろ向きに見える銀行界に対する批判が高まっています。同じ日経新聞が「やさしい経済学」欄で貨幣とは何か。第2章広がる電子マネーを連載しています。執筆は東大の須藤教授です。29日号では、電子マネーのマネーサプライ管理が難しくなる可能性に触れていました。今はまだ、影響が読めないとし、利用額も些少なので悪影響を懸念する段階ではないと書いていました。何事もやる前から否定していては、何もできません。

最近、電子マネーに関する大規模なセミナーに参加しました。銀行界出身の某大学教授が、貨幣通貨と比べて仮想通貨、電子マネー等の信頼性やセキュリティなどのマイナス要因を並べて、スマホ決済や電子マネー等を否定する発言を延々と続けました。話の途中で、結構な数の参加者が、トイレや喫煙に部屋を出ていってしまいました。筆者もそうしたかったのですが、超守旧派の論理にも関心があるので聞き続けました。結論として、既成産業と行政制度の擁護にしか聞こえませんでした。その時、「こりゃ〜、両者を融合させようなんて無駄だ。使いたい人は使えば良いし、嫌なら使わなければ良いだけのこと。それにしても、銀行は、両方を相手にするのだから、市場が二分化するし、コストは二重になる。これをどうするかだ。」と思った次第です。

銀行界ではクレジット利用履歴情報を求めて、本体カード発行に踏み切る銀行が相変わらず続いています。しかし、義理と人情セールスである程度はカードを発行できても、メインカードになる事例は聞こえてきません。山陰合同銀行や広島銀行のように地域電子マネーを推進している銀行もあります。独自に新規カードを発行することや、地元交通マネーとの連携だけでは、利用範囲が限定されてしまいます。地域の定義が違うのではないか。どこでも使えるが、還元は地域内でという定義があってもよいのではないか。狭い地域でしか使えないマネーに、魅力のないことは明らかです。山陰合同に関するニッキン5月30日記事によれば、開始半年で加盟店は43社233カ店で発行枚数約4千枚だそうです。まずは、加盟店を増やしてから、目標の発行枚数10万枚を目指すと言います。GMOペイメントの1年で1万店という目標とは、余りに規模が違います。

銀行はどうしても自分が頭となり、全てを取り込みたがります。昨今のオープン化時代に全く逆行する考え方です。顧客は、すでに、多種多様な決済手段を持っており、財布には、新たなカードを納めるスペースがありません。加盟店にしても、やたらとオーソリ端末を増やすことは無理です。その点、スマホ決済はカードもオーソリ端末も集約できます。地方銀行としては、地域内顧客が保有する決済カードの上位10種程度に対してシングル・インタフェースを提供することが必要です。アプリの開発、配布や、加盟店への研修も必要でしょう。決済資金を置いておく預金口座も地域の全金融機関とのゲートウェイを用意することで、新たな口座開設を不要にすべきでしょう。主催する銀行が握るのは、地域共通ポイントだけで良い。顧客の購買履歴を把握すれば、新たな収益機会を作りだすことが可能です。

銀行にとってリテール・ビジネスは、今は決済とローンが中心であって預金などどうでも良い。仮に預金が最重要になっても、決済とローンさえ握っていれば、何とでも出来ます。預金にしがみつくから、イノベーションができないのでは?と思います。その点、大手の決済代行会社は様々な決済手段を提供することで、数多くのECにおける商流と資金流に関する情報を握りつつあります。銀行より規模も質も数段上の情報です。

決済もオープン化が重要です。ITのようにオープンと称しながら、結局はベンダーロックインを狙うと、真の顧客ニーズ対応にはなりません。オープンとは楽市楽座と捉えるべきです。地域金融機関がオープンな小口決済システムやECを構築する為の舞台や役者は揃っています。キャリアをどこにするか、デバイスはiOSかAndroidかなどはどうでも良い。全部に対応することです。その道具立てもそろっています。要は利用者と加盟店の視点で脚本をいかに描くか、そして、自行の影響力を駆使しつつ、いかに実行するかが重要です。様々な障害が発生するのは当たり前で、それを解決するのがビジネスです。小口決済が銀行界のアキレス腱になるか、革新のレバレッジになるか、分かれ目になりそうです。

                                                    (平成26年8月29日 島田 直貴)