シティバンク銀行が日本の個人事業売却を検討中

日経新聞が平成26年8月20日号トップで報道していました。米本体が話を進めており、邦銀9行程に営業譲渡を打診しているそうです。9月以降に入札を繰り返して、譲渡先を捜すそうです。低金利で利ザヤが薄い日本では、個人向け業務から収益が確保できないからだと言います。今後は法人向けに特化する模様です。もっとも、シティバンクは、この報道について、「憶測による報道で、シティが発表したものではない」と微妙なコメントを発しています。

シティの国内個人客は首都圏の富裕層が多く、買収に関心を示す銀行が多いそうです。新生銀が積極的だとか、3メガやSM信託、大手地銀が検討を急いでいるとの報道が続いています。何よりも魅力なのは残高1兆円の外貨預金で、ドル調達コストを下げられるからとしますが、そんな程度の理由で、これほどの大型買収に乗る銀行などないでしょう。

以下は、新聞などの憶測記事と筆者の記憶と最近の風評に基づく、個人的な感想です。

シティが日本事業の縮小を検討するのは、グループ全体のビジネスモデル再構築に伴い、全ての不採算事業を見直しており、これまで日本では、日興コーディアル・グループの買収失敗、富裕層ビジネスの計画未達、相次ぐ不祥事に対する業務改善命令による経営自由度の劣化などもあるのでしょう。こんな難しいというか、ややこしい市場より、もっと儲かる市場が他にあると米本社が思っているということか。

1902年に日本に進出し、2007年には念願だった日本法人化を果たしています。その前の八城代表の時代には、個人事業に注力して様々なサービスを開発しました。インド系のIT企業を使ったオンライン化は邦銀を驚かせました。しかし、今ではそのシステムも老朽化し、IT要員も殆ど変ってしまい、再構築もままならないとの話を聞きます。システム・コストの負担にも嫌気がさしているのかも知れません。

日本法人化をしたものの、米国流の経営が通用せず、頻繁にコンプラ違反を犯し、都度、日本の責任者を交替させましたが、また、不祥事を繰り返しました。こちらからすると「お前ら日本を舐めてんのか?」ですが、米国流の規範意識には、日本の厳しさが野蛮にも見えるのでしょう。特に、金融庁のうるささには辟易しているようです。かつては、将来のグループ・トップを嘱望される人材が、赴任してきましたが、近年では希望者がいなくなるほど、日本は特異な国と思われるようになったようです。

新聞報道では、外銀の日本離れを象徴する動きと紹介されていますが、個人事業を本格的に行う外銀は、同行だけですので、一言で日本離れと称するのはミスリードとなります。ましてや、他の外銀と異なり、日本の銀行免許を保有していますから、簡単に撤退などできる訳がありません。それが個人事業だけだとしても、既存客への継続的なサービスをいかに保証するか。銀行法のハードルを越えない限り撤退など許されません。設立だけでなく、撤退にも認可が必要です。それを承知で法人化した筈です。

筆者は、シティバンクとの取引が30年近くになります。かつては、海外出張が多くてシティのマルチマネーや海外ATM網は便利で魅力でした。子会社のスミスバーニー証券との連動取引も便利でした。大手町にある大型支店は、勤務先と同じビルにあったので、口座を開設しました。特にマルチマネーでは、多くの外貨預金が用意されており、今でいうFX取引のような通貨鞘取り投資のようなサービスが可能でした。それもインターネットや電話で通貨市況を把握しながら取引できるのですから、当時としては最先端でした。ところが、今日ではネット専業証券などが、殆ど無料に近い手数料でFXを提供しますから、利用勝手が悪くて、手数料の高い、シティバンクの外貨預金は、意識せぬ内に使わなくなりました。今では邦銀と同じように預金を置いておき、時々クレジットカード決済するだけです。シティは、サービス競争に後れを取り、それを晩回するアイディアも資金も気力もなくなったように見えます。

筆者としては、事業買収した銀行によるサービス変更次第で取引を継続するか、全面解約するか判断するつもりです。つまり、シティの今のサービスレベルが邦銀並みに落ちるのであれば、継続する理由がなくなるということです。それにしても、海外への金融取引窓口がなくなるとすれば、残念なことです。ますます、金融鎖国化が進むように思えます。国外で口座開設するほかないのか?面倒な話です。

視点を変えて、地域金融機関は地元市場が儲からないからといって、シティのような経営判断をするでしょうか? できるでしょうか? よく、「地域金融機関には他に逃げる場所がない。」と言います。これは、「未来永劫、この地域のお客さんにサービスを提供し続けます。」ということです。しかし、最近の地域金融機関は、米国流の経営指標で評価されます。ましてや上場していれば、利益だOHRだと外野がうるさく、とても長期的な顧客支援や地域貢献などやっておれません。愚痴を言っても何にもならず、サービス競争力を増すしかありません。

あおぞら銀行が、60歳代を中心としてシルバー層をターゲットとするビジネス戦略を展開し、行員500名に認知症サポーター資格を取らせるそうです。とてもユニークで興味深い選択です。このコラムは、始めて14年になりますが、今までで一番反応のあったコメントの一つが8月6日のものです。預金利息の恩恵をこうむった経験のない30歳代と記述しました。多くのシニア層が「気付かなかった。」と言います。30歳代からは「ようやく気付いたか?」との反応です。そして40歳代からは「自分達も銀行からメリットを受けたことはないのですよ。忘れないで下さい。」でした。この反応は、ショックでした。3、40歳代の銀行離れが始まったばかりと思っていたのですが、そうではなかったのです。MEポーターのいうようなイノベーティブな代替者が現れていないだけのようです。シティの撤退騒ぎを、外銀の話だと思っていると大間違いで、沈みゆく船から早々に逃げ出すということかもしれません。

                                       (平成26年8月25日 島田 直貴)