グローバルITトレンド

日経コンピュータの2014年7月10日号記事です。グローバルのIT主要35社の今年第1四半期業績を比較して、大きな流れを説明しています。寄稿者はBI総研の大村氏で、筆者もこのコラムを欠かさずに熟読しています。

今年1Qの分析によれば、全体の成長率は4.2%と前年同期の9.0%から半減した。最も高い成長分野はクラウドで20.1%増(昨年は26.5%)だった。次いで、半導体が5.9%(同6.3%)、コンシューマーデバイス4.2%(同15.0%)である。コンシューマーデバイスはプラス成長を続けているが、急ブレーキがかかっている。ソフトウェアも1.7%(同10.8%)と成長率が大きく減少した。ネットワーク機器も、特需が終わったことで5.8%減少(同3.4%増)となった。

減速したセグメントでも、企業によって大きく差が出ている。コンシューマーデバイスでは、サムスンやアップルが急減速する一方で、レノボと富士通は20%近い成長を遂げた。ソフトではマイクロソフトがマイナス成長の一方で、ヴイエムウェアやレッドハットが2桁成長です。同じセグメントでも業績が二極化するのが、近年のビジネスです。同じ企業が好調を長期に持続することが難しい。

コンシューマーデバイスは、普及拡大期で商品ライフサイクルが短いことが山谷の間隔を短くし、高低差を広げています。この市場に連戦連勝することは、まず不可能でしょう。レノボや富士通が今年1Qの業績が良かったのは、レノボは巨大な国内市場に廉価デバイスで成功し、富士通は携帯電話での赤字をPCやタブレットで補った。XP更改需要も大きく貢献したようです。このセグメントのビジネスは、四半期や1年の短期業績に一喜一憂していては務まらない。さりとて、長期的戦略を標榜するだけでは、日々の業績は落ち込むだけです。疲れるというか、消耗の激しいビジネスです。そして、デルやIBMのように撤退して、より収益性の高いセグメントに資源配置を変えるという選択が出てきます。コンシューマーデバイスでは、ブランド・ベンダーは損な役回りで、部品メーカーやホンファイなどEMSベンダーが隠れた勝者なのかもしれません。

ソフトウェアも業績が二極化したセグメントです。主要6社売上の半分を占めるMSがマイナス成長だったので、6社全体では1.7%の増収に止まりました。MSは、XP更改需要の山が過ぎたからでしょう。しかし、それは織り込み済みの筈です。騒ぐ必要はなく、前期までに蓄積した利益で、次に何をするかです。同社はデバイスとサービス(クラウド)だと言いますが、それを支持する専門家は多くはありません。このセグメントで注目すべきは、VMwareとRedHatが15%前後の伸びを続けたことです。仮想化とOSSは、互いに刺激し合いながら、成長軌道に乗っています。仮想化は、本来は望ましい技術ではありません。現状の制約を仮想化という誤魔化しで逃れる技法です。取りあえず逃れた制約や問題も遠からず、新たな問題に行き詰まります。それをも仮想化で逃れようとすると、巨大なオニオンボールとなり、誰も手がつけられなくなるでしょう。そこで、オープン系サーバーをIBMのzシリーズに集約マイグレーションするといった流れも出てきます。オープン系からメインフレームへのマイグレーションです。レッドハットの好業績も、同社のビジネスモデルが定着しつつあることを示しています。オープンでソフト開発を行い、殆どコストをかけない。ライセンス・フィーは無料、導入支援や研修、そして保守料金で収益を得るというモデルです。売上はMSやオラクルのような規模にはならないが、利益率は遥かに高い。何よりも、製品開発で失敗コストのないことは羨ましい。日本でも開発したソフトを無償で提供し、保守料や導入支援で高利益率を達成する企業が出てきました。ただ。このタイプの企業は株式市場上場には向かない。日本の投資家は売上と社員数の規模でしか判断できません。経営者や社員のロマンと技術力にしか頼るほかないのが、辛いところです。

ITサービスはコンシューマーデバイスに次いで大きなセグメントです。IBM,HP,CSCが減収でした。対して、インドの2社が大きく伸ばし、日本の富士通、日立、NEC、NTTデータも3〜15%前後の伸びでした。営業利益率も1Qだけで見ると各社9%前後と好調です。ただ、インドの2社の営業利益率は25〜29%です。ワールドクラスのITサービス利益率は、20%以上なければ最終利益に結びつきません。日本の4社は、市場が好調な内に、もっと高い利益率を確保する仕組みが必要です。それには、不採算案件の抑制と、間接コストの徹底した削減が不可欠です。研修費、図書費、交通費、交際費を削減するキャンペーンを張っているようですが、それでは持続的効果はありません。プロセスを減らすことで間接要員(管理部門や開発現場の中間管理職)を減らすことと、直接要員の生産性を高めることが不可欠です。そして、技術スキル毎の需給に応じた値付けとし、単純な人月価格を止める必要があります。この点は、インドを含めた海外ベンダーは、遥かに徹底しています。

クラウドですが、大手6社ともに大きく増収しています。セールスフォースだけが営業利益を落としました。これは、DC投資やM&Aの暖簾処理などによるもので、投資家やアナリストはむしろ評価しています。キャッシュフローが大きく伸びていることが、安心を呼んでいるのでしょう。それにしても、アマゾンやグーグルは、四半期で150億ドルを売上げる規模になっても、まだ、20%前後の成長です。戦略的M&Aでサービスラインを日々変化させています。クラウドは、利用側にとってはインフラなどをベンダーに任せて、自らはアプリに特化すれば良いという気楽な選択ですが、ベンダーにとっては、保守・更新とサービスラインの拡張で安まる時のないビジネスです。ASPで提供していたサービスを従量制にしてクラウドと称する日系クラウドが、米系クラウドに対抗できる手段が見当たりません。

以上のグローバルトレンドを日本のユーザー企業の立場から見直すと以下のようになります。

1.コンシューマーデバイスは、製品サイクルが短く、機能刷新や価格下降も速いので、従来のように採用デバイスを統一して、数年毎に世代交替を行うことは非効率である。マルチプラットフォームを前提としなくてはならない。

2.OSSやフリーソフトが定着した。それを検証、活用できるスキルがあれば、ライセンス予算を削減でき、技術革新の恩恵を得られるが、そのスキルがなければ、SIerにロックインされるだけで、技術革新の恩恵は得られない。

3.SI等ITサービスは、人材需給が世界的に逼迫しており、単価も上がる。特に、PM能力の低いユーザーはSIerには高リスク客であり、価格が上がる。アプリケーションの内製化を準備しておかないと、IT部門は経営陣とベンダーの間で立ち行かなくなる。

4.世界的にインフラをクラウド化する流れにあるが、その効果を確認、検証する必要がある。わが国ではプライベートクラウドが中心であり、価格が下がる根拠に普遍性も不変性もない。クラウドを評価するスキルもなく、ベンダーに丸投げせざるをえない企業は、当面は様子見することが無難である。

 

                                  (平成26年7月14日  島田 直貴)