アパマンローンのシステム対応

日経新聞の平成26年6月30日に、賃貸住宅建設が急増しているとの記事が掲載されていました。金融庁や日銀は、住宅ローンのリスク顕在化を懸念して、金融機関にリスク管理強化をしつこく要請しています。特に、賃貸アパート・マンション融資は、リフォーム・コスト等で継続した収益を期待できる一方、物件によって収益性は大きく異なり、空室率が悪化すれば返済に悪影響が出るので、金融庁は心配しています。それにも関わらず、多くの銀行が、慎重になるどころか積極化しているのが実体です。

不動産ローンのリスクを顧みない銀行は何を考えているのかと思っていたのですが、この記事を見て、金融機関の融資方針というよりは、実際に需要が大きいことが理解できました。記事では地価回復やアベノミクスを受けて、機関投資家や海外ファンド等の資金が不動産市場に流入しており、相続増税を受けて個人の節税策に使われるケースも急増しているとのことです。また、サービス付き高齢者住宅の建設ラッシュもあり、今年の賃貸住宅着工件数は、前年比20%以上だそうです。国交省調査では昨年の貸家着工件数は約37万戸で前年比15%増でした。また、東北大震災以降、持ち家よりも賃貸住宅を選ぶ層が増え、ライフステージに応じて、地域や間取りを変えられる賃貸を選択する人達が増えているとも聞きます。

賃貸住宅着工件数は、首都圏の14.5%増よりも近畿圏の23.0%、中部圏の15.3%の方が、増加率が高いので、この地域の金融機関にとっては、有望な地元案件となります。億円単位の融資で不動産担保付きですので、魅力的な案件であることは確かです。世帯数を超える住宅戸数のあるわが国ですが、物件ミスマッチが新たな資金需要を作っているようです。

アパマンローンの競争要件としては、@金利 A開発業者との提携 が重要ですが、融資判断回答のスピードもとても重要です。問題は、開発業者が主導権を握っていることです。金融機関としては、開発業者の上流ポジションをいかに確保するかが課題です。顧客とのリレーションシップと情報収集が肝となりますが、品質の良い情報を提供しなければ情報収集は不可能という現実もあります。ですから、地域内の不動産所有者との親密化、不動産物件情報の把握など幅広い活動が不可欠です。CRMなどから自動的に都合の良い情報が出てくる訳ではありません。このあたりの、銀行経営陣と営業現場の認識ギャップは大きいようです。

賃貸不動産の事業性審査には、大きく三つの手法があります。原価法、取引事例比較法、収益還元法です。金融庁は、収益還元法による担保査定を求めているようですが、そうそう簡単ではありません。単純に言えば、収入、経費、還元利回りを計算するだけですが、収入予測には、場所(交通、周辺環境、同居人層など)や築年数、面積、設備、デザインなどで異なる相場情報が必要ですし、予想空室率も必要です。適当な外部情報は限られています。家賃未納率も必要ですが、これも公表データはありません。それぞれ不動産情報会社や家賃保証会社などから購入する必要があります。迂闊に不動産鑑定士に依頼すれば、金利収入並みの費用がかかります。銀行内部に不動産鑑定士がいるではないかと思うでしょうが、資格保有者がいても、その人の本業は銀行員ですので、経験と生情報が不足します。

アパマンローンに成功している金融機関では、相続が発生しそうな、または、発生したばかりの顧客を把握します。一般的に相続発生から3年以内に不動産売却や有効利用の方針が決められると言います。不動産登記異動情報を定期的に確認することも必要ですが、相続発生事由は、地域金融機関が最も早く入手できる筈です。東京のような地縁人縁が薄らいだ地域であれば、生命保険会社と提携するのも方法でしょう。死亡者に関する個人情報は個人情報保護法の対象ではありません。

対象が把握できたとすれば、融資審査に必要な情報は、顧客への相談資料としても有効です。適正賃料、平均的な経費額(維持管理費、修繕費、損害保険料等)、空室率、家賃回収不能率、還元利回りなどを顧客に提示して信用されれば、開発業者を紹介してあげることにもつながります。そうすれば、開発業者との協業が深まります。対象地域の供給物件数や賃貸条件、空室率などは、Webサイト等に掲示される不動産紹介情報を時系列でビッグデータ的に分析すれば、おおよその情報を入手できます。

以上の作業をIT化しようとする場合、大きなシステムは必要ありません。恐らく、スタンドアロンのExcelベースで済むでしょう。むしろ不動産情報会社や家賃保証会社など、関連する統計データへの検索手段が重要となります。件数が少なければ、人手で検索しても良いですが、時間を争う審査回答には間に合わないかもしれません。できれば、自動検索の仕組みを作っておいて、物件の基本データを入慮するだけで、収益評価とキャッシュフローを把握できる仕組みが欲しい。ビッグデータを日々蓄積して分析結果を報告するサービスもあります。外部有料情報の検索も必要限度内に抑えることで照会手数料を抑制したいところです。

この話の中に、ITを利用する側と、提供する側のポイントが含まれています。アプリは専門知識の固まりであるが非専門家でも簡単に使えるようにすること、インフラは極力小さくシンプルであること、蓄積した情報の価値が極めて高いことなどです。そして、折角作成する貴重な情報を現場の顧客担当者が適切に活用できることが、ビジネスとして成果に結び付く条件です。

IT企業がビジネスモデルを見直す際に前年比の売上増を前提とすると、こうした要件を実現するインセンティブが消えてしまいます。IT企業は長年、新しいビジネスモデルを求めていますが、実現できない理由が、売上偏重にあることは確かです。欧米であれば、新規参入者が新モデルを担うのですが、ベンダーにロックインされている日本のユーザー企業には、新規参入者を利用する為の情報も意識も知識も技術もありません。

金融機関としては、現在の自社システム・サービスを評価するにあたって、廃棄するか刷新するかの判断基準にもなることでしょう。巨艦主義は意味がないというより弊害という時代です。複雑で大きなシステムは当面は触らない、そして適当なタイミングで廃棄する。軽くてフットワークの良いシステムを外部の希少情報や専門知識と連携させることが、これからの金融ITの中核要件となることでしょう。

 

                                              (平成26年7月3日 島田 直貴)