JA改革 (政府規制改革会議が全中廃止の方針)

政府の規制改革会議・農業WGの提言案に関心が集まっています。平成26年6月2日の本会議に提出した報告書案に、JA全中(全国農業協同組合中央会)の廃止を組み込んでいるからです。戦後農政の中核をなしてきた全中を3〜5年で廃止し、単位農協の信用事業を農林中金に移管するか、農中の代理店となる案を示しています。

アベノミクスでは、金融政策、財政政策、成長戦略を3本の矢とし、その成長戦略の柱として規制改革を進めようとしています。その案をまとめるのが、総理大臣の諮問機関である規制改革会議です。同会議は96年に設置されて、初代議長のオリックス宮内氏らが、大胆な提言を繰り出したことは記憶に新しい。残念ながら、その提言の多くは骨抜きにされ、宮内氏も随分と苦労されたようです。宮内氏個人に止まらず、母体のオリックスも、様々な局面で反官、反既得権組織ということで差別を受けたとも聞きます。

昨年からは、住友商事の岡相談役が議長となり、委員会は学者主体の委員構成から、実業人中心に変っています。専門委員会はワーキング・グループに改編され、健康・医療、雇用、創業・IT等、農業、貿易・投資等の5つから構成されます。TPPや農業改革、新産業育成に力を入れるという安倍内閣の方針が反映されたものでしょう。

農業改革の座長は、フューチャーアーキテクトの金丸氏です。金丸氏が農業改革のリーダーに指名された理由は知りませんが、農業界とのしがらみがなく、事業家的発想で改革案を作って欲しいという事務局の考えかと思います。事実、同WGは、わが国農業とその骨格をなす農協制度の弊害や限界を調べ上げたようです。意外なのが、主管官庁である農水省でも改革派官僚が起用され、改革の方向性やレバレッジの期待できる改革案を提示しているようです。

更に驚くのは、与党自民党も、改革会議との全面対決を避け、基本的には受け入れる方向だということです。民主党への政権交替の際に、農業団体は民主党を支援しました。他にも自民党を見限った業界はありますが、自民が復権した際に関係を修復しています。その点、農業団体は自民を見限った象徴的団体で、かつ、アベノミクスに対して守旧派的立場を継続しています。大蔵省解体などの時と同様に、自民党は江戸の敵を長崎でと考えているようです。大人気ないことはできませんので、世論の支持を得られる対象と範囲を見極めていると思います。こうしたパワーバランスでないと制度改革が進まないというのも残念ですが、中国や韓国などのように政治が大きな権限を握る社会と異なり、日本では全ステークホルダーに加えて、世論の支持がないと制度改革はできません。

農協から信用事業を取り上げて、農中に一本化するとすれば、どのような影響が出るのでしょう。筆者は昔、幾つかの県信連を訪問したことがあります。どれも大きく立派な地銀並みのデータセンターを持ち、多くのシステム要員を抱えていました。取引先は農家が中心ですが、その農家は農業関係以外の資金決済は民間金融機関と取引します。理由は、自分の資金状況全てを地元の農協に見られたくないというのです。その結果が農協の資金余剰です。一般個人を員外会員として、低利の住宅ローンを展開しました。今では、残高が7兆円強です。住宅ローンのリスクが懸念される今日、金融庁や農水省にとって頭の痛い時限爆弾です。

預金91兆円、融資21兆円強ですが、余剰資金の70兆円は、農中に52兆円を廻して運用を委託し、他はファンド等で運用しています。かつて農中は、この巨額資金を効率的に運用し、莫大な収益を上げました。IT企業も、最大手機関投資家としての農中に日参したものです。しかし、リーマンショックで大きな痛手を被りました。以来、資産運用は安全型となり、融資を重視して16兆円の貸出残となっています。

農協が信連事業を止めるか、農中の代理店になれば、多くの資金が民間に流れ込むことでしょう。民間としては、今でも預金は余っています。毎年数兆円単位で預金が移動するとしたら、大変なことになります。預金至上主義の銀行は一時的に喜ぶかも知れませんが。農協の融資を全て引き受けても21兆円です。仮に農中が全てを受け継ぐとすれば、預金量90兆円で預貸率20%前後の銀行となります。第二のゆうちょ銀誕生となります。

民間金融機関は、アグリファイナンスと称して農業関連に注力しています。しかし、現実には農協と棲み分けしています。棲み分けがなくなれば、大きな事業機会が開け、ABL、ビジネスマッチング、6次産業化ビジネスなどが進むでしょう。農業には、大きなビジネス機会が期待できます。農協改革の良い所取りを狙うのが当然です。

事業承継させられる農中は頭が痛いでしょう。採算が取れないリテール(4千万以上の顧客、8485支店、ATM12千台)を押し付けられます。1千億以上の開発費と言われ、12年(17年ともされる)もかけて構築した総合オンラインJASTEMも、稼働から8年を経ています。農協独自の商品やサービスを豊富に盛り込んでいますから、捨てるべきものを捨てながら技術革新を進めないと、とんでもないゴミ屋敷となります。日本のITベンダーは顧客が望めば、何でもすぐに作ってくれます。しかし、エコとは程遠いシステムになってしまいます。

農中は機関投資家としての効率性を一挙に失うことになりますが、といって、リテールに競争力がある訳でもない。よくあるM&Aではなく、ビッグバン的な改革プロジェクトとなります。昔、仏クレディアグリコルのM&Aプロジェクトに関与したことがあります。CEOの決断力とリーダーシップには驚き、感銘したものです。同行の合併プロジェクトは大成功でした。農中にこうした決定と実行の権限が与えられるかが問題です。現在の問題を羅列し、改革案を出すのは難しいことではありません。一方で、移行と変革を成し遂げるには、多くの難関があります。政府は、農中に信連事業を承継させるのであれば、全権を与えるべきです。規制改革会議も、実行に必要な前提条件も審議すべきです。

これからの5、6年、日本の金融サービスは、大きく進歩、変化しそうです。その時に、制度変更と称して引っ越し作業をしていれば、市場や競合から大きく遅れます。ITベンダーはそれを補うソリューションを考え、提案しなくてはなりません。

                                         (平成26年6月9日 島田 直貴)