第5世代携帯通信 (総務省が開発を急ぐ)

日経新聞の平成26年5月30日付け記事です。総務省が、NTTドコモなどと共同で、2020年サービスインを目指して、5G移動体通信の開発を進めるとの内容です。工程表はすでにでき、来年度から予算要求するそうです。共同開発には、ドコモのほか、KDDI、ソフトバンク以外に端末メーカーのパナソニック、シャープ、富士通などや、基地局メーカーも参加する見込みということです。5Gでは、秒速10GBの通信速度になります。

3.9GであるLTEですら、まだ十分に行き渡らない地域があり、1GBの4Gですら16年開始というのに、その後のことを言えるのかと思いますが、それが昨今の技術革新サイクルなのでしょう。実現を可能とする周波数帯を制御し、干渉を防ぐ基地局技術ができれば可能だとしています。空間多重化技術など多くの前提があるようですが、東工大とドコモが共同で実証実験に成功しています。

何故、2020年かといえば、いかにも官僚的で東京オリンピックです。最近は、何でも2020年といえば、予算を取れると思う役所が多いようです。財務省の主計官が文系出身の技術オンチと思わない方が良いのですが。担当主計官には大学時代の同窓生など豊富な人脈を使って、各省庁の予算要求の実現性を客観的に評価する手段があります。

オールジャパン態勢で開発を進めるそうです。日本勢だけできるのであれば、それに越したことはないのですが本当でしょうか?仮にできたとして、またまた日本だけの孤立技術にならなければ良いのですが。総務省というか、旧郵政省は何度も繰り返して世界標準化に失敗してきました。自信のあるコア技術が日本にあるとして、国際標準化の主導権を握る為の工夫はあるのでしょうか。例えば、米系大手通信を共同開発に加えるとか、アジア諸国と協業するとか。技術的優位だけでは標準化を主導することはできません。それは、過去、何度も悔しい思いをしている筈です。

ネガティブな意見を並べましたが、10ギガの無線通信を全国に張りめぐらせたら、動画やTV会議などの大幅な性能向上が可能になります。何よりも遠隔地のクライアント・デバイスが、サーバーと一体的に利用できるようになります。その意味は極めて大きい。ITの使い方が抜本的に変ります。現在のシンクライアントどころか、簡易型のウエアラブル端末から、サーバー側にあるアプリやファイルを使い放題となることでしょう。音声認識などイメージ処理も一挙に普及すると思われます。消費者の行動も大きく変わるでしょうし、教育や医療介護も変わる筈です。ToTも一挙に進むでしょう。夢が膨らみます。

わが国では人口減少が経済成長の致命的な障害になると思われています。労働人口が2割減るのであれば、一人当たり生産性を2割改善すればよいだけなのですが、なぜか学者や官僚は、そうは言いません。人口の多寡が経済を決定的に左右すると、大昔からの経済理論を繰り返します。そもそも製造業の就労人口はピーク時1992年10月の1603万人から2012年末の998万人(総務省)と38%も減っています。それでも、総生産高に大きな変化はありません。生産性を上げたからです。その結果、一人当たりの生産性は大きく上がっています。対して、金融を含むサービス業では、生産性が上がらないから、市場規模に合わせて就労人口を減らし、それが限界に達したら臨時雇用で生産性数値を操作してきただけです。筆者のように金融業界贔屓の人間ですら、サービス産業が頑張らなかっただけなのに、製造業まで給与などで道連れにされて気の毒だと思います。

移動体通信などICTの技術革新は、製造業だけでなくサービス業にも大きな影響を与えるでしょう。サービス業で生産性を上げるのに、最も効果的な方法は、顧客に労力を提供させ、サービス利用のリテラシーを上げることです。金融のハンディは、労力を提供せず、手取り足取り面倒をみなければならない顧客を切り捨てられないことです。ダブルコストになるだけです。しかし、ICTがこの層でも使ってもらえる時期が見えてきました。

顧客ロイヤリティを上げるのも必要ですが、これまでは収益拡大をコスト増大で効果を減衰させています。CRMやEBMで営業効率を上げるといいますが、上がったという具体的数値結果を見たことがありません。嫌味だと知りつつ、多くの金融関係者に効果を聞くのですが、納得いく答えを聞いたことがありません。「CRMとか言って、パソコンばかり見ていないで、さっさと顧客の所に行け!」と怒鳴る経営者の話も聞きます。事実、多くの金融機関が、CRM利用度と業績に相関関係が見られないとしています。

先日、私たちのNPO金融ITたくみsが主催するレガシー・アプリケーション再生推進会議という集まりで、IBM社からハイエンド・サーバーの技術動向を講演してもらいました。(断っておきますが、レガシーアプリといっても、我々の意味するところは、陳腐化した基盤上にあるが、今後も使い続けたいアプリのことです。)その中で、最大規模サーバーの処理能力が78万MIPSであり、チップ1枚だけで5千MIPSの処理が可能だと実物を見せられました。若い人達には、それがどうしたの?かも知れませんが、ベテラン世代は、数十MIPSの世界で現役時代を過ごしましたから、そんなに処理能力を持ってどうするのか?と途方にくれたものです。しかし、価格は1桁以上も安いのですから、使わなければ、使う競争相手に負けるだけです。

この処理能力と巨大で高速なストレージ、そして超高速な通信網。その上で、発展を続けるイメージ処理やデバイス等のUI。それが、6年後には全て揃うとしたら、そのパワーをどう使うのか?IDやPWによる本人確認や個人認証など止めてしまえば、何がおきるか?そんな武器を誰でも持てる時代に、恐らく金融サービスは今と大差なく、伝票を書き、現金を受け渡しして、ヒューマンタッチだとか地域密着だと言っているのだろうか? と想像すると、ICTは新規参入者を利するだけで、現金融機関の敵ではないのか? ICTが戦略的に重要な経営課題だと主張する金融機関経営者は、大きな間違いを犯しているのかも知れません。一度、自社のICTを全て忘れ、これから金融業務に参入するとしたら、ICTをどう使うかを考えると目が覚めるかもしれません。

                                      (平成26年6月1日 島田 直貴)