全銀システムの改革検討 (全銀協が開発、投資方法を見直し)

朝日新聞平成26年4月19日号記事です。全銀協が次期全銀システムにおける開発や投資のやり方を見直す検討に入ったとのことです。2011年稼動の第6次全銀システムには800億円を投資した。その目玉機能の一つが、入金通知の明細データ伝送で、そのソフト開発には100億円かけたとの見方がある。(公表されていない。)ところが、それが使われない。理由は、このサービスを企業に提供するには、参加各行でシステム変更が必要だが、企業からの要望がないとして、対応する銀行がないからだそうです。

記事では、利用価値の低いサービスでNTTデータに年100億円を払っている。つまり、振込1件あたり7円となり、利用者が1回振り込むたびに、NTTデータに7円支払っているのと同じことだと言います。いかにも朝日新聞らしい乱暴な論理です。決してNTTデータや全銀協の肩を持つ気はないのですが、不正確な前提で、読者の意見を一定の方向に誘導しようとするのは、メディアとしてはいかにも拙い。明細データ伝送だけで7円の無駄コストを利用者に負担させていると誤解させるのも拙い。記者やデスクにその意図があるかはわかりませんが。意図がないとすれば、取材不足です。

入金通知の明細データ提供は大昔から、法人顧客の強いニーズです。第6次全銀では、120桁の付帯情報を入力できるデータ・フォーマットを提供しました。それが活用されないのは、確かに銀行側の対応が中途半端で、遅いこともあります。しかし、誰が明細データを入力するのかという基本的問題が大きい。振込人以外にはできません。大企業は、明細で売掛金の消し込みを合理化したいし、支払いにおいてもシステム対応できます。しかし、中小企業は、それをシステム化しても合理化効果が限定されるので、できれば、余計な負担を負いたくない。出来る者だけでもやれば良いと言いますが、新旧双方の方法を並行させることは、重複投資となります。銀行は、これまでにも、新旧並行で巨額な投資を無駄にしてきました。

自民党の日本再生本部・金融調査会では、銀行振り込み制度についても議論しています。流通業界の流通BMS(Business Message Standards)というビジネス・プロトコル標準化に大きな関心を持っているようです。流通BMSは、入金データの突合を合理化することが目的です。ところが金額不一致などアンマッチが多数発生する。振込手数料の受取人負担や請求書に対する部分支払いなど日常茶飯事ですから仕方ありません。データ項目名の不一致は更に多い。コード化する方法もあるが、むしろ誤入力の原因にもなる。4月8日の同会議では銀行提供サービスが、通知情報が不足、データ・フォーマットが標準化されていない、銀行休日が多すぎるなどの指摘があいつぎ、次回以降の会議に銀行業界だけを呼んで討議する方針だということです。

呼ばれる銀行としては、自行のことだけなら、方針を説明できるでしょうが、業界全体としては何も応えられません。各業態で意見を統一し、次いで、全業態の合意を行う必要があります。その過程で、提供機能は、最大公約数化します。しかし、政治家は選挙民のあらゆる希望に応えようとして最小公倍数的機能を求めます。政治と規制産業は、一見蜜月のようでいて、実は全く利益相反の関係にあります。特に、何かを革新しようとする時は致命的な隘路となります。

全銀協は本来、顧客である銀行を守り、発展させる義務と目的意識をもっています。ですから、ここ10年以上もの間、電子マネー等、新たな決済手段の普及に対して強い危機感を持っています。ただし、電子マネーが直接的に銀行機能を置き換えるとは想定していません。何故なら、どんな代替手段も最終的には、現金か預金を通さないと最終決済に至らないからです。現金、預金ともに国の保証が前提であり、その流通経路は銀行に委託されており、新規参入は容易ではありません。その預貯金を基盤とする決済システムは、通貨に対するする管理権限と一体です。だといって、心ある銀行関係者にとって、独占にあぐらをかいていられる状況ではなく、決済の革新は大きな関心事です。

通貨とは国が保証する決済手段であり、価値基準であり、経済価値の貯蔵手段です。国は、その価値と流通を保証するだけでなく、使用を強制します。ですから全国くまなく、通貨機能が有効となります。このことは、国家としての金融インフラを維持管理する為に、万国共通のルールです。いわゆる決済が、国の基本的な監督対象である限りは、その代行者である銀行も、安易に決済サービスを変更することはできません。朝日新聞のこの記事のように、市場主義的競争原理だけで、銀行サービスの顧客ニーズ充足度を非難するのは片手落ちということです。もっとも、この記事は市場主義的でも競争主義でもなく、社会的エスタブリッシュメントに対する単純な反発にすぎないように見えます。

決済サービスは、ネットワークの特徴を持つ典型的なシステムです。外部依存性、経路依存性、過剰慣性を強く持っています。結果として、自然独占の市場となります。免許事業者としての銀行は、独占による独善と傲慢に至らないように、細心の注意を払っていますが、顧客など外部がどう見ているかは様々です。全銀協は、現在の決済サービスに関してだいぶ以前から危機感を持っています。しかし、個々の銀行は、少なくとも顧客からは直接言われていないとして、改革、革新に行動を取ってきませんでした。

ここに、銀行が変われない原因があるように思います。筆者が会う、銀行の若手も経営者も異句同音に危機感を並べます。では、取締役や部長級が変化を阻害しているのかと思えば、彼らも革新の必要性を唱えます。よくよく見ると、銀行員は上位下達のようでもあり、顧客ニーズ主導でもあります。要は、ミドルアップの組織ですから、その大義となる顧客の明確な要求が、彼らの行動の前提となります。ところが、顧客は銀行への遠慮があるかも知れませんが、要は何が自分の要望なのか、銀行が何を変えられるのか判らないから、何も言わない。少なくとも、銀行に向かっては言わない。それで何も変わらない。銀行員に革新の必要性を唱えても、何も変わらないということです。

この悪循環はネットワークの外部依存性から出てくるようです。外部依存性は、自然摂理ではありますが、昨今の物理ネットワークは移行容易性を高めています。例えば、携帯電話ですとSIMカード次第で、電話番号を変えることなくキャリアを変えられます。西欧では、携帯電話と同様に、銀行口座ポータブル制が導入され出しました。現時点で、この制度によって取引銀行を変える人は少数ですが、容易に変えられるという状況の出現は、銀行の歴史上初めてのことです。

銀行業界が、仲間の一部の反対によって革新を止めている限りは、共倒れとなる危険を増すことは明らかです。といって1人先走ることは、村八分になってネットワークから除外される危険もはらみます。その危険の少ない銀行は、メガ3行とゆうちょ銀行だけです。彼らは、これまで中小銀行への配慮もあって、自社の巨大さ(顧客シェア)を利用してきませんでした。しかし、これからは、そうは言っておられなくなるでしょう。ネットワーク産業としては、物理的拠点数とITが最大の武器です。少なくとも、物理かバーチャルの拠点とサービスの整備が不可欠です。その基盤であるITを全面的に外部依存することをどう考えているのか。失ったパワーをどう修復するのか、それが問題です。合併などしている暇はないというのが正直なところでしょう。

                                     (平成26年4月21日 島田 直貴)