地銀の証券ビジネス戦略 (静岡銀がマネックスと資本提携)

日経新聞の平成26年4月3日付け記事です。静岡銀行がマネックスグループ株を20%強取得して筆頭株主になるそうです。オリックスが保有する19.54%を相対で取得し、更に市場経由で買い増すことで持ち株比率を20%強の持ち分法適用会社にするとのことです。取得価格は240億円超となる見込みです。

マネックスグループにとっては、オリックスに替わる安定株主を確保できます。オリックスは、元々証券子会社を持っていましたが、(1953年設立の茜証券を1986年にオリエント・リースが子会社化し、ジェット証券等を買収しながら事業拡大を図ってきた。) 20101月にマネックス証券を完全子会社化して同年5月にオリックス証券と合併させました。それを今回、売却します。リテール証券に余り旨みがないとの判断なのでしょうか。それとも、海外での金融ビジネス拡大にM&A資金が必要だということでしょうか。いずれにせよ、オリックスは、銀行とは正反対で変り身が速いというか、ダイナミックな資本戦略で事業分野を随時調整しなおします。

マネックスグループもグローバル化を中長期事業戦略の核としています。国内最大手のオンライン証券ではありますが、手数料競争が厳しく、現在の好調な株式相場ですら出来高が2兆円前後と、かつてのようなぼろ儲けはできない状況です。昔は、2、3年間の好況時期、証券マンは連日、鰻や寿司などの昼食をとります。その後に必ず訪れる雌伏の期間3、4年は、消しゴムは分割して複数社員で使い、昼食は立ち食い蕎麦という産業でした。今は、資産運用などといって産業としての構造も文化も変りました。証券自由化で、狩猟民族が農耕民族に変ったのです。薄利多売の世界になりました。ネットを使って、市場を国内に限定せず、アジア中心に海外の成長地域に進出することは当然の流れと言えます。

そんな道を行くマネックスを、静岡銀行が子会社化する理由は何でしょう。同行には、地域内顧客への資産運用サービスを提供する静銀ティーエム証券があります。マネックスがオンライン専業だとしても、どうすみ分けるのでしょう。同行のリリース資料によれば、静銀は、総合金融機能を融合したサービスで地域との共存共栄を目指しながら、新たな収益機会の創出に取り組むとあります。マネックスのグローバル化戦略と差別化された商品サービス開発・提供力と融合させることが、今回の資本参加の目的のように記述しています。

大手地銀が、総合金融化を図るのは、もっともな選択ですし、ネット戦略を強化するのも納得できます。しかし、地域密着とグローバル化というのは、両立が難しい。資源の配分が難しいし、組織文化の調整も至難です。静銀は、そのあたりのことは充分に承知の筈です。大手地銀の多くは、地元にある地場証券を子会社化して地元富裕層との資産運用取引を行っています。地元富裕層と圧倒的な取引関係を築いている地場証券は、規模は小さくとも大手証券にとっても、外資系プライベートバンクにとっても、垂涎の対象です。静銀は、PBを従来の証券子会社に任せ、マス層のNISAなどをマネックスでカバーするのでしょう。

大半の地銀は、いざ困れば他の地銀と合併か経営統合して、国のバックアップを受けながら立て直せば良いくらいに思っているようです。つまり、営業地域と預金量を拡大することが、唯一の生き残り戦略です。静銀は、資金に余裕がある内に、新しい事業分野で収益機会を開拓しようと考えたようです。筆者は正しい選択だと思います。合併だけで体力が増す可能性はないし、収益力が高まることも期待できませんから。

一番のポイントは、堅実をモットーとする静岡銀行が、全く相反する企業文化とのシナジーをいかに実現するかでしょう。相当に難しいと思いますが、実現できれば、全く新しい地方銀行が出現することになります。銀行と証券は、全く異なる産業文化であり、その融合は至難です。もっとも無理に融合する必要はなく、それぞれの長所を活かしながら、必要な機能だけ協業できるガバナンスを確保できれば良いのかも知れません。

静銀としては、総合金融サービスを地域と地域以外の国内、そして海外と地域的に分類して、支店、訪問、ネット、代理店等のチャネル配置を最適化することになります。その際にシステムは、フロント、ミドル、バックのプロセス別にくくり直した方がよいでしょう。良く言われるハブ&スポークでどのようにも組み合わせることができるというのは、机上理論であって、実装する為には幾つかのパターンに限定されます。何でもできますとか、総合的ですというのは、実は全く逆であることが余りに多い。

選択と集中という、金融庁が好む戦略というかジャーゴンは、一種の賭けであり、責任ある経営者が取れる選択ではありません。コア、準コア、オルタナティブという三層の戦略オプションが必要です。それに見合う経営資源も必要です。その経営資源を入手する為のM&Aであれば、現在の地方銀行にとって意味があります。

ITも三層オプションに対応できるアーキテクチャが必要ですが、いまだそれを実装可能レベルで描いたアーキテクチャを見たことがありません。相変わらず、総勘元帳というDBを中心に、支店番号に縛られた顧客識別が、商品別の縦割り手続きの中で右往左往する仕組みが続いています。海外先進銀行が、必ずしも理想的なシステム体系を実現している訳ではありませんが、日本の銀行システムは、ここ30年程、進化を止めてしまっています。そこから抜け出さないと、銀行にとって証券戦略も総合金融サービス戦略も、経営資源の分散となってしまうでしょう。

                                    (平成26年4月4日 島田 直貴)