24時間送金 (全銀協が議論を開始)

日経新聞の平成26年3月23日付け記事です。主要国の銀行で送金の24時間サービスが普及しつつあり、日本でも全国銀行協会が次期全銀システム(次回は2019年に更新の予定)で対応する方向で検討するという内容です。同一銀行内での送金であれば、午後7時まで送金できる銀行が多いが、銀行間をまたがる場合は午後3時までで、以降の申込みは翌営業日の9時になる。日銀との資金決済が夕方の一回だけの為、それまでに同日分の振込依頼を取りまとめる必要があるからだ。海外で24時間送金サービス化が進みだしたのは、ビットコインのような仮想通貨を使った海外送金サービスが急速に広がっていることも背景にあるとしています。BISの会合では、「ビットコインのような仮想通貨が普及するのは、銀行の送金サービスが不便だからではないか。」といった議論が噴出したとも書いていました。

筆者は、昔から全銀システムを補完する為に、任意行だけによる第二全銀システムの構築を提言してきました。最初に言い出したのが1983年頃ですから、かれこれ30年前です。当時は若かったこともあり、全銀は宅配便よりも不便で高いと公言し、宅配便に札束を詰めて送った方が早くて安い。更に配達通知を貰えると寄稿文や講演で主張し、銀行の方々から怒られました。

決して、宅配便を送金に使えると思っていた訳ではないし、全銀システム無用と思っていた訳でもありません。ただ、小口決済・送金の便利で安いサービスが必要であり、その実現に銀行界全体の合意を待つ時間がないと考えていました。更なる問題は、宅配便と違って送金データを通信するだけなのに、料金が高い上に、個々の銀行にとっては大赤字のサービスだったことです。誰の得にもなりません。

ですから、大手銀行が単独、または、任意加盟の数行で決済システムを作ったらどうかと、幾つかの都市銀行を廻りました。関心を示したのは2行だけでした。両行ともに、吸収されることなく、現在も健在です。他の銀行は、無視するか、本当は必要だと思うが実現可能性はないという反応でした。

民間の銀行では話にならないと思って、日本銀行や大蔵省銀行局の幹部とも意見交換しました。当時はインターネットなど、殆どの人が知らない時代でしたので、今日のように決済サービスに対するニーズが大きく変るとは想像できなかったのでしょう。単なる酒の席の話題といった扱いでした。ただ、日銀のある幹部だけが、「いずれ必要になる。日銀システムの中で、銀行間の即時振替を可能にすれば、システム対応は済んでしまう。」と前向きでした。この方は、海外の動きにも、国内他産業の動きにも精通しており、決済のあるべき方向を大局的に考える数少ない人でした。

日本の銀行決済網は、主に日銀ネットと全銀システムで構成されます。米国のACHのような小口決済用で銀行以外の産業も参加できるような決済網はありません。多くの企業、個人はこの決済網がどのような構成、機能で、いかに運用されているか気にしたことはないでしょう。銀行が何か難しいことを、厳格な管理下で行っているというイメージでしょうか。基本機能は単純です。

送金元顧客の銀行口座(銀行名、支店名、口座種類、口座番号等)から指示された金額を銀行(仕向行)が一旦預かり、送金先の銀行(被仕向行)に、支店名、口座種類、口座番号、口座名義人、送金額)を伝達し、送金先口座に入金されます。(この送金情報の伝達手段が全銀システムです。)

顧客同士の決済処理はこれで終わりますが、実は仕向行は送金額をまだ預かっている状態で、被仕向行は、送金額を立て替えている状態です。銀行間の精算が残っています。それは、日銀ネットという銀行間決済システムを使って精算します。銀行は日銀に当座預金を持っており、仕向行の口座から被仕向行の口座に該当金額を移動させます。ただ、これをN対Mの関係で1件ずつ処理すると負担が大きいので、全銀システムが、各銀行がその日に送金した金額と受け取るべき金額を計算し、その差額を支払うか受け取るのです。これをネッティング決済と言いますが、その精算に日銀ネットが使われます。日銀ネットは、決済リスクの縮減や事務効率向上の為に、機能の改善を積み重ね、国際的にも高い水準にあります。しかし、全銀システムとの連携部分は手つかずです。

今では文書為替とか電信為替などといった送金タイプを知る人は少ないでしょう。電信の方が速いので、手数料も高いのです。実際には、文書の方が用紙代も人的手間も送料もはるかに高いのですが、通信手段の普及していない時代の名残です。上記の銀行決済の仕組みは、かなり概略化していますが、この基本機能を抑えておくことが、新しい決済サービスを考える時の参考になります。

全銀システムは、1973年に地方銀行が共同で運営していた内国為替システムを拡張して稼働しました。当時は、民間金融機関が全国に約1125行ありました。その組合せは1125x1124で、それが仕向と被仕向で2倍となります。(実際には信金や信組は各業態内でネッティングしますが。)米国のように1万以上の銀行がある国に比べれば少ないですが、それでも、全国を網羅するのは大変なことで、IT抜きには考えられませんでした。

それを構築、運営したのが電々公社です。当時の通信制度では、通信回線を他人にまた貸ししたり、複数の人・企業が共同で利用することは禁止されていました。電々公社の独占と料金体系を防御する為です。(1980年代の通信解放で自由化されました。)直営の電話設備と同じように、ハードもソフトも全て電々公社の所有物で、それをユーザーが月額料金で借りる契約です。料金は、初期費用と運用費用を期間8年で積算し、金利と利益を合わせて96カ月の分割払いです。(データ通信サービス契約と言います。)何故8年かは知りません。ただ、その頃の大型汎用機の製品寿命は8年でしたし、法的な償却期間も6年です。現在の全銀システムは、2011年11月稼働の第6次システムです。今後の大きな機能変更は、2019年までできません。

以前、全銀協の幹部に、「全銀システムのシステム障害を聞いたことがないが、たいしたものだ。」と追従を言ったら、「当り前だ。機器のバックアップはふんだんに装備しているし、ソフトは稼働以来殆どさわっていないのだから。」と自虐的に言っていました。また、「今、俺は同窓会費を振り込んだのだが、そのデータがこの上のフロアから飛んでいくだけで、600円も取るのだから、お客はよく払ってくれるよな。」とも言っていました。全銀としては、現在の銀行決済の方法に安穏としている訳ではなく、むしろ危機感を持っています。しかし、国連なみの全員合意がないと何も決められないのが実態です。

昔と違って、メガバンクは3、4千万の顧客を持っています。郵貯銀はほぼ全国民を顧客にしています。こうした大手銀行であれば、仕向客も被仕向客も同一銀行内での送金で済む確率が高い。全銀システムや日銀ネットの制約は受けません。であれば、個別行で決済サービスの革新を図ったら良いでしょう。米国などは、モバイルバンキングで仮想通貨を使った割り勘精算サービスなどを提供しています。

昔の大蔵省は、大手行の革新的サービス計画は中小金融機関保護を名目に抑制しましたが、今の金融庁に、そのような考えはありません。規模に関係なく、サービス・イノベーションを推奨しています。もはや、決済革新を先延ばしする理由を見つけることが難しくなりました。自分で考えられなくても、顧客に聞けば良い。または、ナイジェリアやケニアに視察に行くのもよいでしょう。日本は決済後進国になろうとしています。

                                  (平成26年3月26日 島田直貴)