SI 海外ビジネス (大手SIer が東南アジア事業)

日経新聞の平成26年3月12日付け記事です。NTTデータや日立、NEC、富士通などシステム開発大手が東南アジア対象に低価格のシステム構築ビジネスへ乗り出すというのです。現地ベンダーに資本参加し、決済システムや社会インフラ・システムに関する構築ノウハウを活用して事業拡大するとのことです。低価格サーバーを使い、プログラムを簡素化し、現地技術者を活用することで、新興国での価格競争力を確保する考えです。ASEAN主要6カ国のIT市場は17年には854億ドルと12年比65%増と予想されています。(米IDC調査)巨大化するASEAN市場を取り込む計画です。

この記事を見る限り、ご尤もな方針であり、是非とも海外市場、特に、アジア市場で頑張って欲しいものですが、そうはいかないだろうと、ついつい不安を感じます。

理由はいろいろありますが、二つほど考えてみましょう。価格競争力と経営のスピードです。第一は、価格競争力を確保できないだろうということです。価格差は想像を絶します。通貨レートや関税の問題はありますが、ハードはほぼ世界単一価格です。人件費も、かつてのように10倍以上の差がある訳ではなく、2、3倍に縮まり、シンガポールのように日本より高い国・地域すらあります。それでも市場価格の違いは大きい。コストプッシュ戦略は通用しません。

@日本以外の国では、ほぼ内製です。外部を使うのは、社内にないノウハウを取り込む為か、一時的な要員不足を補う為だけです。同じ給与であれば、内製の方が低コストであることは当たりまえです。日本では、ITベンダー技術者の方が地域金融機関より給料が高いのですが、共同化によりコストを分担することで、顧客毎のコストを下げる仕組みです。海外事業では、内製よりも安くできる仕組みを考え出す必要があります。

A開発手法の違いも大きい。東南アジア諸国が本格的なIT化を始めたのは、ここ十数年です。ウォーターフォール方式やメインフレームの経験はありません。最初からオープンです。ハードもソフトもです。大学では、情報処理原論やアーキテクチャを徹底して学んでいます。日本の言語中心の綬業とは全く異なります。アーキテクチャを決めて、各コンポネントやフレームワークを決めて、作業標準に従って開発作業を細分化します。各作業には、品質管理と障害対応を組み込みながら、テストとドキュメンテーションを並行させます。まさにソフトウェア工程管理が出来あがっています。日本ではウォーターフォール型とはいいますが、実際には個々の開発エンジニアの個人作業です。(筆者はこれを織物家内工業とか手縫い仕事と呼んでいます。) こうした開発工程管理の違いは、そのままコストに反映します。

B間接コストの違い。知人が日本の企業から米系に転職した時に語っていました。日本の総務部門のような部署がない。交通費や福利厚生の手続きなどは全てイントラネットで処理する。役員にも昔の秘書のようなサポーターがおらず、役員自ら出張手配などを行う。その内部監査的チェックもシステムが行うので驚いたと言っていました。昔、ガースナーがIBMのCEOに就任した際に驚いた数字があります。OHR(オーバーヘッドレイシォ)です。総経費に対する間接部門経比率ですが、当時のIBMは20%弱でした。ガースナーは、「これは役所の水準である。早急に10%台前半に落とす。」と言明しましたが、数年かかりました。海外の新興企業は、創業時点から間接部門を徹底して小さくします。日本で起業する友人の夢は、社長室、社用車、そして秘書ということが多い。筆者の知る大手IT企業のOHRは、20%以上が大半です。労働集約的な開発工程で作業者が多い上に、20%の間接コストが乗せられる。それで、どうやって価格競争が出来るのか、全く現実離れした話です。

二番目の理由ですが、経営のスピードと規模の違いです。このことは、様々な事例が報道されていますので、詳細説明は省きます。ただ、現地に数名の担当者をおいて、現地企業に数千万円とか数億円の出資をして、後は待ちの経営では、何も動かないことは確かです。米系大手などは、1年で万単位の人材を集めます。その国には大変なマグニチュードです。当然に政府関係者や経済人との関係が広がります。後は、直接電話して、電話で商談をほぼ終える。仕上げは両社の担当者と弁護士が行う。社長対社長の2か月先のアポを秘書同士で取り合うという日系企業の風習を、新興国の新興企業経営者がどんな見方をしているか想像して下さい。

ではどうするかということです。既に国内ですら行き詰まっているSI事業を海外に持って行っても駄目です。自慢できる決済処理システムなどのノウハウがあるのであれば、それをライセンス・プログラム化して販売するか、サービス・ビジネスとして展開することです。それも最初は無料で提供すべきです。オプションは当然有料で、著作権を徹底して確保しておきます。営業コストはかけない。客が勝手に使い、便利であれば機能追加のためにカストマイズを注文するかもしれない。行商のように歩き回って1年、2年かけてようやく契約、それも数千万円・・・では、日本企業に利益は全く出ません。先行投資だとの言訳は通りません。交通費の無駄でしかありません。先行投資にしたいのであれば、養殖産業モデルを作る必要があります。

新興国が日本の辿った道を歩むと思うと大きな間違いを犯します。IT産業では、先行者の一人勝ちか後発者の無駄抜きが原則です。後発者は、余計な資産や負債を抱えていません。ですから最新テクノロジーを容易に導入できます。預金口座を持たない人が多く、有線電話網が不備なナイジェリアが、今ではモバイル決済先進国です。そんな市場に、業務経験の豊富さを強調してSIを持ちこんでも、「業務経験に関してコンサルだけ頼もう。後は自分でやる。」となるのが自然です。

ASEAN10兆円市場は、まだまだ成長します。14兆円市場だが成長の止まった日本が抜かれるのは、数年以内でしょう。日系IT企業にとってASEAN市場での成否は死活に直結します。もっと、真面目に、必死に参入方法を考え、本気で投資すべきだと思います。会社が考えないようであれば、技術者は個人の人生設計として考えるべきです。

                                                     (平成26年3月17日 島田 直貴)